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ソフトバンクGと「2兆円」の行方 Uber急落、WeWork大赤字…コロナでスタートアップは終わるのか 業界破壊企業 #1 - 斎藤 徹

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「業界破壊企業」という言葉を知っているだろうか? スゴいビジネスモデルやテクノロジーで破壊的なイノベーションを起こす新興企業のことだ。

【写真】大赤字&奇行でWeWorkを追われた創業者アダム・ニューマンなどこの記事の写真を見る(全6枚)

 アマゾンやグーグルは言うまでもなく、近年ではウーバーやエアビーアンドビーが斬新なビジネスモデルで既存の業界を破壊し、躍進を遂げてきた。しかし一方で「スタートアップ・バブル」には翳りが見え始め、コロナショックも襲い掛かる。

 新著『業界破壊企業』(光文社新書)で最新のスゴい企業を20以上紹介する起業家の斎藤徹氏が、ソフトバンクが最大2兆円を投じるWeWorkのつまずきを解説する。 (全2回の1回目/後編に続く)

◆◆◆

「昼間からビール飲み放題」の自由な雰囲気

 WeWorkのビジネスは、シェアワーキングスペースを提供するというものです。ビジネスの構造は比較的シンプルで、世界中の都市で好立地を見つけ、不動産のリース契約を結び、内装や設備などをおしゃれにリニューアルした上で、月額料を支払う会員や企業向けに「シェアワーキングスペース」として提供します。


WeWorkは2010年創業。本社はニューヨーク ©︎iStock.com

 シェアオフィス、シェアワーキングスペースの提供は、今やめずらしいビジネスではありませんが、WeWorkの場合、自由でおしゃれ、思いっきりクリエイティブな雰囲気で「ここなら、きっといいアイデアが生まれそう!」と思わせる演出が際立っています。ワーキングスペースでありながら、昼間からビールが飲み放題というのも、独特な自由さを感じるでしょう。

 競合のシェアオフィスサービスはいかにもビジネス然としており、ゴージャス感や効率性を重視しています。それに対して、WeWorkのブランド戦略は明らかに異質なアプローチであり、それが最大の強みといえるでしょう。

 クリエイティブなカルチャーと高額なサービスによって、「ハイグレードな人たちが集まる、クリエイティブな空間」という空気を醸成し、コミュニティとしての機能も果たしています。

 WeWorkのオフィスで横のつながりを作り、新しいビジネスを生み出す。そのような場になることをWeWorkは狙っているのです。

 こうしたブランド戦略で世界中に一気に拠点数を増やし、2020年3月の時点で、世界120以上の都市に、800を超える拠点を構えるまでになりました。世界の主要都市には、たいていWeWorkがある。そんなイメージです。もちろん東京にも、大阪にもあります。

WeWorkは「1時間あたり3000万円を失い続ける」

 ここでWeWorkという企業を取り上げたのは、ビジネスの着眼点がおもしろいからではありません。WeWorkのビジネスは、財務的な視点だけで見ると「不動産の又貸し業」で、個人や企業の会員が増えれば収益は上がりますが、不動産のリース料や内装費用など支出面でもかなりの負担となります。

 とはいえ、ベンチャー企業が成長するフェーズ(スケール期)では、採算度外視で事業を拡大するのは当たり前。WeWorkも例外ではありません。赤字を抱えながらビジネスを続けていることは誰もが承知していましたし、その財務面をソフトバンクグループとソフトバンク・ビジョン・ファンドが中心となって支えていたのです。

 ところが――。2019年8月、風向きが変わる出来事が起こります。

 WeWorkが新たな資金調達を見据え、アメリカ・ナスダック上場のために証券登録届出書いわゆる「フォームS‐1」を証券取引委員会に提出したのですが、その資料にあった数字を見て、世界中が驚愕することになりました。

 赤字額が予想をはるかに超えており、かつ不透明な会計処理が数多く見つかったからです。

 2018年の赤字額は約2000億円。2019年に関しても、上半期だけで約980億円の純損失が計上されていることが明らかになったのです。

 WeWorkは事業を拡大するなかで、極めて大きな赤字を垂れ流していたのです。イギリスの経済誌「フィナンシャル・タイムズ」は「彼らは時間あたり、約3000万円を失い続けている」と断罪しました。

ソフトバンクが投じた「2兆円」

 この事実の発覚により、当時、約5兆円といわれていたWeWorkの時価総額は、約1兆円に暴落。予定していた新規株式公開(IPO)もあっさり延期になってしまいました。

 赤字の額があまりに巨大すぎるからです。

 この段階で、ソフトバンクグループとソフトバンク・ビジョン・ファンドはすでに93億ドル(約1兆円)をWeWorkに出資しており、この状況には頭を抱えたはずですが、追加の出資と融資を含め最大95億ドル(約1兆円)を投じることを決定しました。

 日本円で2兆円――。WeWorkは、孫氏の後ろ盾によってなんとか生き延びている状態です。

 未上場で時価総額1兆円を下回り、しかも巨額の赤字を垂れ流すWeWorkに、孫氏はなぜ、最大1兆円もの追加資金の投入をするのでしょうか。

 投資の世界では「過去に投資した金額のうち、事業を撤退しても回収できない金額」、言い換えると「回収不能と考えられる金額」のことを「サンクコスト(埋没費用)」と呼び、それに呪縛されることはごとされています。

 しかし、孫氏の立場では、WeWorkは大きすぎて潰せないのでしょう。

 もしWeWorkを潰したら、ソフトバンクグループ本体の財務が大きく毀損するのみならず、ビジョン・ファンドに出資する世界の投資家たちの信頼を失い、さらにソフトバンクの投資を支えてきた日本の銀行も大混乱に陥り、投資活動の後ろ盾を失ってしまう。現在のみならず、未来のビジョンも総崩れになる。そうした判断からだと推測されます。

 実際、WeWork問題に端を発して、ソフトバンクグループの株式を世界的なヘッジファンドが大量に取得、それに呼応するかのように巨額の資産売却と自社株買いを発表、ムーディーズによる格付けの2段階ダウンなど、同社を取り巻く経済環境は大きく揺れ動いています。

このまま「ユニコーン」に出資を続けて大丈夫なのだろうか?

 この一連の出来事を、単純にWeWorkだけの問題だと捉えると、少し本質を取り違えてしまうと私は考えています。

 WeWorkの一件によって、多くの投資家たちはこのように感じたはずです。

 急成長している企業、AIを推進する企業、とりわけ「ユニコーン」と呼ばれる未上場で時価総額が10億ドルを超える企業に積極的に出資しているけれど、彼らの財務状況ははたして健全なのだろうか。このまま出資を続けて、本当に大丈夫なのだろうか、と。

 これは、投資家たちに「新興企業への出資に対する不安」を抱かせる出来事であり、まさに「終わりの始まり」を感じさせる不穏なニュースだったのです。

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