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「2007年の閣議決定」は「河野談話」を継承-「河野談話」の意義低める橋下市長発言の誤りを正す

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 b)「河野談話」に対する認識


 「一の3について-政府の基本的立場は、平成五年八月四日の内閣官房長官談話の内容全体を継承しているというものである」。


 ※質問「一の3」は「『当初、定義されていた強制性を裏付けるものはなかった。その証拠はなかったのは事実ではないかと思う。』という三月一日の安倍首相の発言は、河野官房長官談話のどの箇所を踏襲したものか。安倍首相の真意を示されたい」というものである。


 質問「二の1」は「安倍首相のいう『狭義の強制性』とは、どのような定義によるものか。『家に乗り込んでいって強引に連れていった』以外にどのようなケースがあるのか。具体的に示されたい」であり、また質問「二の2」は「安倍首相のいう『狭義の強制性』以外は、すべて『広義の強制性』になるのか。安倍首相の見解を示されたい」である。


 a)は「強制性に関する政府の基本的立場は、当該談話のとおりである」と述べており、これは強制連行の有無をめぐる「閣議決定」としてきわめて重要なものである。質問は「強制性」一般についてではなく、「慰安婦」の連行の「強制性」を問うていた。その「強制性」について、安倍内閣は「政府の基本的立場」は「河野談話」の「とおりである」と明言したのである。


 ここにいたって橋下市長が語った「河野談話」と対立する「2007年の閣議決定」の存在は、かなり危ういものとなってくる。ここで結論をあわてる必要はない。最終の結論は、当然のことながら、関連情報のすべてをしっかり確かめてから、厳密に下すことにしたい。


 ④について(2007年6月5日)


 「答弁書」はこう述べている。


 a)「強制連行」に対する認識-(直接の言及はない)。


 ※ただし、現地時間4月27日のブッシュ大統領との「記者会見において、安倍内閣総理大臣は、日本語で、慰安婦の問題について昨日、議会においてもお話をした、自分は、辛酸をなめられた元慰安婦の方々に、人間として、また総理として心から同情するとともに、そうした極めて苦しい状況におかれたことについて申し訳ないという気持ちでいっぱいである、二十世紀は人権侵害の多かった世紀であり、二十一世紀が人権侵害のない素晴らしい世紀になるよう、日本としても貢献したいと考えている、と述べた」とある。


 b)「河野談話」に対する認識


 「いずれにせよ、御指摘の安倍内閣総理大臣の発言は、平成五年八月四日の内閣官房長官談話に沿ったものである」「慰安婦問題に関する政府の基本的立場は、平成五年八月四日の内閣官房長官談話のとおりである」。


 b)で「河野談話」が「政府の基本的立場」だと繰り返しながら、a)の※印部分のように「元慰安婦の方々に」「申し訳ない」と謝罪しているのであるから、それは「河野談話」が認めており、安倍内閣も「答弁書」③で認めた「強制性」の承認とその上にたった「お詫びと反省」(河野談話)に「沿ったもの」だと理解する他にない。


 ⑤について(2007年6月5日)


 「答弁書」はこう述べている。


 a)「強制連行」に対する認識-(直接の言及はない)。


 ※ただし、「マゲラン事件」についてのオランダ・バタビア臨時軍法会議書類番号23126(この書類はオランダ政府戦争犯罪調査局が作成したもので、バタビア臨時軍法会議に証拠資料として提出され、採用されたものとされる)が、少女たちの強制連行に関する証言を記録していることを問われて、「答弁書」は「連合国戦争犯罪法廷の裁判については、御指摘のようなものも含め、法的な諸問題に関して様々な議論があることは承知しているが、いずれにせよ、我が国は、日本国との平和条約(昭和二十七年条約第五号)第十一条により、同裁判を受諾しており、国と国との関係において、同裁判について異議を述べる立場にはない」とこたえている。


 b)「河野談話」に対する認識-「いずれにせよ、オランダ出身の慰安婦を含め、慰安婦問題に関する政府の基本的立場は、平成五年八月四日の内閣官房長官談話のとおりである」。


 これも「河野談話」を「政府の基本的立場」として認めており、さらに強制連行の証言を証拠書類として採用した「マゲラン事件」についての裁判結果を、日本国は「受諾」していることを繰り返し認めるものとなっている。


 ⑥について(2007年6月5日)


 「答弁書」はこう述べている。


 a)「強制連行」に対する認識-(直接の言及はない)。


 ※ただし、「マゲラン事件」についてのオランダ・バタビア臨時軍法会議書類番号7868/R(極東国際軍事裁判での書類番号:PD5770/EX1725)(この書類はオランダ政府戦争犯罪調査局が作成したもので、極東国際軍事裁判に証拠書類として提出され、採用されたものとされる)が、民間人抑留所からマゲランへの女性の連行と日本兵による性交の強要を記録していることについての質問に、「極東国際軍事裁判に対しては、御指摘の資料を含め、関係国から様々な資料が証拠として提出されたものと承知しているが、いずれにせよ、オランダ出身の慰安婦を含め、慰安婦問題に関する政府の基本的立場は、平成五年八月四日の内閣官房長官談話のとおりである」とこたえている。


 b)「河野談話」に対する認識-「御指摘の点を含め、慰安婦問題に関する政府の基本的立場は、平成五年八月四日の内閣官房長官談話を継承しているというものである」。


 これも「河野談話」を「政府の基本的立場」として認め、「マラゲン事件」の被害者を含む「オランダ出身の慰安婦」に対しても同様の姿勢を確認するものとなっている。


 安倍内閣の「答弁書」③は、連行の「強制性」についての理解を「河野談話」と同じくすることを明言したが、そうであればこれら「慰安婦」に対する「お詫びと謝罪」(河野談話)は、その「強制性」に対する「お詫びと謝罪」を当然含むものとなろう。


 ⑦について(2007年7月6日)について


 「答弁書」はこう述べている。


 a)「強制連行」に対する認識-(直接の言及はない)。


 b)「河野談話」に対する認識-(直接の言及はない)。


 ※ただし、2007年6月26日に米下院外交委員会が、「第二次世界大戦中に日本軍に強制的な売春を強いられたとされているいわゆる従軍慰安婦(以下、「従軍慰安婦」という。)の問題に関して、日本政府に対し謝罪を求める決議案」を「可決」したことに関する質問に、「慰安婦問題に関しての政府の立場については、例えば、安倍内閣総理大臣が平成十九年四月の訪米の際明らかにするなど、既に説明してきているところである」とこたえている。


 ここで「答弁書」がいう「四月の訪米」は、「答弁書」④で見たように、「いずれにせよ、御指摘の安倍内閣総理大臣の発言は、平成五年八月四日の内閣官房長官談話に沿ったものである」ことが確認されているものである。したがって、この「答弁書」も「河野談話」に対立する内容を含むものではまったくない。


 ⑧について(2007年8月15日)


 「答弁書」はこう述べている。


 a)「強制連行」に対する認識-(直接の言及はない)。


 b)「河野談話」に対する認識-「慰安婦問題に関する政府の基本的立場は、平成五年八月四日の内閣官房長官談話を継承しているというものである」。


 ※ただし、「安倍首相は、『米下院外交委員会の決議案は客観的事実に基づいていない』と考えるか。基づいている、いないで答弁されたい。また、そう考える根拠も併せて示されたい」との質問に、「答弁書」は「御指摘の決議の内容につき一つ一つ取り上げて意見を述べることは差し控えたいが、全体的に言えば、特に、慰安婦問題に対する日本政府の取組に対して正しい理解がなされていないと考える」と答えている。


 一部に文章の曖昧さが見られるが、それでも、※印の部分は「政府の基本的立場」が「河野談話」の「継承」であることを前提しており、前記「答弁書」④⑦は「四月の訪米」で「河野談話」にそった説明がなされたことを明らかにしていた。


 そうであれば、ここでの「日本政府の取組に対して正しい理解がなされていない」ことの内容は、「河野談話」が示した「お詫びと反省の気持ち」が正しく理解されていないことを指摘したものと見るべきだろう。


 いずれにせよ、ここでも「河野談話」に対する見解の明示はない。


 ⑨について(2007年11月9日)


 この「答弁書」は安倍内閣退陣後の福田内閣によるものだが、こう述べている。


 a)「強制連行」に対する認識-(直接の言及はない)。


 b)「河野談話」に対する認識-「慰安婦問題に関する政府の基本的立場は、平成五年八月四日の内閣官房長官談話のとおりであり、現内閣においてもそれを継承している」。


 ※ただし、「安倍前首相による『慰安婦問題に対する日本政府の取組に対して正しい理解がなされていない』とする答弁(四)について、福田首相は同じ認識か。そうであれば具体的にどのような取組に対し、どのように『正しい理解がなされていない』と考えるか」との質問に、「回答書」は「お尋ねについては、先の答弁書(平成十九年八月十五日内閣衆質一六七第六号)二についてでお答えしたとおりであり、御指摘の決議の内容につき一つ一つ取り上げて意見を述べることは差し控えたい」と述べている。


 上の「答弁(四)」は、前記「答弁書」⑧の※印部分に引用したものである。この再度の問いに対して、福田「内閣」も「河野談話」を「継承している」ことを前提に、安倍首相と同じ回答を繰り返した。


(5)


 以上が、「慰安婦」を案件名に含む「2007年の閣議決定」の「a)強制連行」と「b)河野談話」に関する認識のすべてである。これを了解した上で、再び、橋下市長の8月24日に発言にもどってみたい。


 先に(2)で確認したように、橋下市長は「2007年の閣議決定」について、要旨、次のように述べていた。


 ①「2007年の閣議」では、強制連行を裏付ける直接の記述・証拠はないということが決定されており、②それは河野談話を「見直す」か、閣議決定が「間違って」いるか「どちらか」という、二者択一の関係に立つものである、③その上で、閣議の「決定」は「談話」より上位に立つものであり、「2007年の閣議決定」こそが「慰安婦」問題についての「日本政府の決定」ある。


 しかし、見てきたように、2007年の9件の「閣議決定」の中に「政府の基本的立場」が「河野談話」の「継承」にあることを表明しなかったものは、ただの1つもない。逆に、9件の「閣議決定」のすべてで「河野談話」の「継承」を確認したのが、「2007年の閣議決定」であった。


 つまり、市長が上記②のように強調した、「河野談話」の内容に対立し、双方の「どちらか」だけが正しいという関係にたつ「2007年の閣議決定」はどこにもなく、したがって「河野談話」の内容に反する決定が「日本政府の決定」として行われている事実もどこにもない。


 日本政府が外務省のサイトに「河野談話」を掲載し、これを最新の2011年8月の文書でも再確認していることは、まったく適切なことであり、ここに市長がいう「2007年の閣議決定」を掲載していないことも、まったく適切なことであった。


 「2007年の閣議決定」が、強制連行をめぐる証拠がなかったことを確認しているという点については、重要なところなので、あらためて整理をしておきたい。


 第一に、2007年3月16日の「答弁書」①(答弁第110号)は、「政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」と述べている。しかし、「河野談話」は、そもそもそうした直接の「記述」に依拠して「慰安婦」連行の強制性を認めたものではなく、これをもってただちに「河野談話」との対立をいうことはできない。


 第二に、2007年4月20日の「答弁書」②(答弁第168号)、⑤(答弁第266号)は、個々の強制連行の認定の上に立って下された極東軍事裁判所やバダビア臨時軍法会議の判決を国として「受諾」し、国としてこれに「異議を述べる立場にない」ことを明らかにした。そうであれば「答弁書」①が「軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」とする「政府が発見した資料」には、これらの裁判資料は含まれていないということになる。


 第三に、2007年4月20日の「閣議決定」③(答弁第169号)は、「慰安婦」の強制連行をめぐる質問に「平成五年八月四日の内閣官房長官談話は、政府において、平成三年十二月から平成五年八月まで関係資料の調査及び関係者からの聞き取りを行い、これらを全体として判断した結果、当該談話の内容となったものであり、強制性に関する政府の基本的立場は、当該談話のとおりである」と明快に述べている。


 この「強制性」について「河野談話」は次のように述べている。「慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった」と述べている。「閣議決定」は、これを「強制性に関する政府の基本的立場」だと認めているのである。


 以上のことから、「2007年の閣議決定」が、「慰安婦」連行の「強制性」について、「河野談話」の内容に反する決定をふくむものでないことは明白である。


(6)


 最終的な結論を述べておこう。


 8月24日の記者会見における橋下市長の発言は、「2007年の閣議決定」が「慰安婦」の強制連行を否定する内容を含むかのように述べ、それを理由に「河野談話」の意義を低め、あるいは否定しようとするものだった。しかし、そこで根拠とされた「2007年の閣議決定」に対する市長の認識は、まるで誤ったものである。


 あらためて前掲「抗議文」の末尾の文章を採録しておきたい。


 「日本の政治家の責務として、橋下市長には『慰安婦』問題の歴史と関連する戦後政治史の事実、さらには戦時性暴力の克服をめざす現代国際社会の努力を、広く、しっかり学んでいただくことを要望するものです」。


 深く、胸に刻んでいただくことを期待したい。(W)


 「慰安婦」問題の解決に向けた意見書可決をすすめる会
 (共同代表)安達克郎(茨木診療所所長)
       石川康宏(神戸女学院大学教授)
       西欣也(甲南大学教授)

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