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「2007年の閣議決定」は「河野談話」を継承-「河野談話」の意義低める橋下市長発言の誤りを正す

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 ※「『慰安婦』問題の解決に向けた意見書可決をすすめる会」の見解を紹介します。


 「2007年の閣議決定」はいずれも「河野談話」

 の継承を明示している
 ――「河野談話」の意義を低める

     橋下市長発言(8月24日)の誤りを正す


(1)


 8月24日朝の「囲み取材」で、橋下徹大阪市長は「慰安婦」問題について、あらためて自説を展開した。ただし「慰安婦」問題をめぐる歴史に対しては、これといって新しい論点が示されたわけではない。むしろ、安倍晋三氏をはじめ様々な論者によって、長く、語られてきた事柄の繰り返しに終始しているといっていい。


 そうした議論への基本的な批判は、「『慰安婦』問題の解決に向けた意見書可決をすすめる会」による「橋下市長の『慰安婦』問題での発言(8月21日)に対する抗議文」ですでに明らかにしておいた( http://nanumu.blog59.fc2.com/blog-entry-278.html )。これはもちろん市長にも届けさせていただいている。


 上の「抗議文」は次の文章で締めくくられた。


 「日本の政治家の責務として、橋下市長には『慰安婦』問題の歴史と関連する戦後政治史の事実、さらには戦時性暴力の克服をめざす現代国際社会の努力を、広く、しっかり学んでいただくことを要望するものです」。


(2)


 その上で、ここで追加してとりあげたいのは、市長が、24日に次のように語ったことである。


 「河野談話でいろんな表現はあるけれども、しかし2007年に強制連行を示す、それを裏付けるような、直接示すような記述、直接のその証拠はなかったということを2007年の安倍内閣のときに閣議決定はされているわけです。そうであれば、河野談話の中身をもう一度、しっかり疑義がないように、内容を見直すのか、それとも2007年の閣議決定が間違っていたか。どちらかですよ。


 で、僕はやっぱり2007年の閣議決定というのは、河野談話を出した以降、それは日本政府がそういう閣議決定をする以上はやっぱりそれは責任をもってやっていると思いますよ。河野談話は閣議決定されていませんよ。それは河野談話は、談話なんですから。


 だから、日本政府が、日本の内閣が正式に決定したのは、この2007年の閣議決定だった安倍内閣のときの閣議決定であって、この閣議決定は慰安婦の強制連行の事実は、直接裏付けられていないという閣議決定が日本政府の決定です。」


 ごらんのように市長は、①強制連行を裏付ける直接の記述・証拠はないということが、2007年に閣議決定されており、②それは河野談話を「見直す」か、閣議決定が「間違って」いるかの「どちらか」という二者択一の内容をもつものであり、③「談話」より閣議「決定」は上位に立つのだから、その「2007年の閣議決定」こそが「日本政府の決定」なのだと述べている。


 結果として、これは日本政府に対する重要な告発にもなっている。「慰安婦」問題についての政府見解をまとめた外務省のサイトは、「2007年の閣議決定」については一言もふれず、「河野談話」やそれに先立つ「加藤談話」を掲載しつづけているからである( http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/taisen/index.html )。


 もし市長がいうように、「2007年の閣議決定」が「河野談話」と両立しえないものであり、しかも前者が「日本政府の決定」だというのが事実であれば、日本政府は2007年から今日までの5年間、日本政府の見解の重要な転換を、世界に隠し続けてきたことになる。


 同サイトに外務省が掲げた最新の文書は、2011年8月の「慰安婦問題に対する日本政府のこれまでの施策」( http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/taisen/ianfu.html )だが、それは次のように述べている。


 「平成5年(1993年)の調査結果発表の際に表明した河野洋平官房長官談話において,この問題は当時の軍の関与の下に,多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であるとして,心からのお詫びと反省の気持ちを表明し,以後,日本政府は機会あるごとに元慰安婦の方々に対し,心からのお詫びと反省の気持ちを表明している。」


 これが事実を隠すための文章であれば、それは重大な国際問題となる。


 ただし、それは、橋下市長の上の議論が正しいとすればの議論である。


(3)


 以下では、この事実関係を確かめたい。行うべきは「2007年の閣議決定」の調査である。


 首相官邸には「閣議案件」をまとめたサイトがある( http://www.kantei.go.jp/jp/kakugi/index.html )。そこで「閣議案件のバックナンバー」( http://www.kantei.go.jp/jp/kakugi/kakugi-bk.html )のページを開けば、「平成19年1月9日」から「平成19年12月28日」までの105回の閣議案件が確かめられる。


 105回の案件一覧をすべて開いて検索したところ、案件のタイトルに「慰安婦」の文字が含まれたのは、次の9件だけであった。


 ①平成19年03月16日(金)「衆議院議員辻元清美(社民)提出安倍首相の「慰安婦」問題への認識に関する質問に対する答弁書について」


 ②平成19年04月20日(金)「衆議院議員辻元清美(社民)提出安倍首相の「慰安婦」問題への認識に関する再質問に対する答弁書について」


 ③平成19年04月20日(金)「衆議院議員辻元清美(社民)提出安倍首相の「慰安婦」問題についての発言の「真意」に関する質問に対する答弁書について」


 ④平成19年06月05日(火)「衆議院議員辻元清美(社民)提出安倍首相の「慰安婦」問題についての発言に関する質問に対する答弁書について」


 ⑤平成19年06月05日(火)「衆議院議員辻元清美(社民)提出バタビア臨時軍法会議の証拠資料と安倍首相の「慰安婦」問題への認識に関する質問に対する答弁書について」


 ⑥平成19年06月05日(火)「衆議院議員辻元清美(社民)提出極東国際軍事裁判の証拠資料と安倍首相の「慰安婦」問題への認識に関する質問に対する答弁書について」


 ⑦平成19年07月06日(金)「衆議院議員鈴木宗男(無)提出米下院外交委員会で可決された従軍慰安婦問題への決議案に対する日本政府の対応に関する質問に対する答弁書について」


 ⑧平成19年08月15日(水「衆議院議員辻元清美(社民)提出「慰安婦問題」についての米下院決議と安倍首相の謝罪に関する質問に対する答弁書について」


 ⑨平成19年11月09日(金)「衆議院議員辻元清美(社民)提出福田首相の慰安婦問題についての認識に関する質問に対する答弁書について」


 ご覧のように、以上はいずれも衆議院議員からの質問に対する「答弁書」の確認である。


 この「答弁書」と事前に衆議院議員から提出された「質問趣意書」については、衆議院のサイトに全文が公開されている( http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_shitsumon.htm )。それを読めば、上記①~⑨のすなわち「慰安婦」を案件名にふくむ「2007年の閣議決定」のすべてを確かめることができるというわけである。


(4)


 以下、1件ずつ内容を確かめたい。確認すべき論点は、a)「強制連行」に対する認識、b)「河野談話」に対する認識の2点にしぼりこむ。


 ①について(2007年3月16日)


 答弁書はこう述べている。


 a)「強制連行」に対する認識


 「お尋ねは、『強制性』の定義に関連するものであるが、慰安婦問題については、政府において、平成三年十二月から平成五年八月まで関係資料の調査及び関係者からの聞き取りを行い、これらを全体として判断した結果、同月四日の内閣官房長官談話(以下「官房長官談話」という。)のとおりとなったものである。また、同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである。


 調査結果の詳細については、「いわゆる従軍慰安婦問題について」(平成五年八月四日内閣官房内閣外政審議室)において既に公表しているところである・・・」。


 b)「河野談話」に対する認識


 「三の1について-官房長官談話は、閣議決定はされていないが、歴代の内閣が継承しているものである」「三の2について-政府の基本的立場は、官房長官談話を継承しているというものであり、その内容を閣議決定することは考えていない」「三の3について-御指摘の件については、官房長官談話においてお詫びと反省の気持ちを申し上げているとおりである」。


 ※b)に登場する「三の1」などは質問の項目である。念のために、以下に「三の1」から「三の3」までの質問を全文書き写しておく。「三 《「河野官房長官談話」の閣議決定》について」「1 『河野官房長官談話』が閣議決定されていないのは事実か。事実であるなら、どのような扱いなのか」「2 安倍首相は、『河野官房長官談話』を継承すると発言している以上、『河野官房長官談話』を閣議決定する意思はあるか。ないのであれば、その理由を明らかにされたい」「3 政府は『慰安婦』問題について『すでに謝罪済み』という立場をとっているが、いつの、どの文書や談話をもって謝罪しているという認識か。すべて示されたい」。


 a)を読むにあたり確認しておきたいのは、「河野談話」や談話のための調査の経過と概要を記した「いわゆる従軍慰安婦問題について」は、「強制連行を直接示すような記述」を根拠に事柄への判断を下したとはどこにも書いていないということである。この点について「河野談話」の内容を導く調査の経過と内容について「いわゆる従軍慰安婦問題について」( http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/taisen/pdfs/im_050804.pdf )は次のように述べている。


 「政府は、平成3年12月より、関係資料の調査を進めるかたわら、元軍人等関係者から幅広く聞き取り調査を行うとともに、去る7月26日から30日までの5日間、韓国ソウルにおいて、太平洋戦争犠牲者遺族会の協力も得て元従軍慰安婦の人たちから当時の状況を詳細に聴取した。また、調査の過程において、米国に担当者を派遣し、米国の公文書につき調査した他、沖縄においても、現地調査を行った。調査の具体的な態様は以下の通りであり、調査の結果発見された資料の概要は別添の通りである」。


 また「上記の資料調査及び関係者からの聞き取りの結果、並びに参考にした各種資料を総合的に分析、検討した結果、以下の点が明らかになった」として、「慰安婦の募集」について次のように述べている。


 「慰安婦の募集については、軍当局の要請を受けた経営者の依頼により斡旋業者らがこれに当たることが多かったが、その場合も戦争の拡大とともにその人員の確保の必要性が高まり、そのような状況の下で、業者らが或いは甘言を弄し、或いは畏怖させる等の形で本人たちの意向に反して集めるケースが数多く、更に、官憲等が直接これに加担する等のケースもみられた」。


 以上のように「河野談話」は、政府諸機関の文書資料だけでなく、「元軍人等関係者」や「元従軍慰安婦の人たち」からの聞き取り、米国公文書の調査、沖縄の現地調査など行い、さらに各種の参考資料にもあたった上での「総合的」な判断にもとづいたものである。


 この点を了解した上で、a)を読むならば、「河野談話」発表の日までに「政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」ことが、仮に事実であったとしても、それだけで「河野談話」の内容を覆す意味をもつわけでないことは明らかである。


 くわえてb)を見るならば、質問「三の2」に対して政府(安倍内閣)は「河野談話」の閣議決定をしりぞけながらも、同時に「政府の基本的立場は、官房長官談話を継承している」と述べている。


 a)で「河野談話」を否定し、b)で「河野談話」を継承するという自己撞着に陥っているのでなければ、この「答弁書」は、a)をあえて書き込みはしたが、それ理由に「河野談話」を否定しようとしたものでないと理解する他ない。


 ②について(2007年4月20日)


 「答弁書」はこう述べている。


 a)「強制連行」に対する認識-(直接の言及なし)。


 ※ただし、A・「極東軍事裁判所の判決の中国の項に『女工』の名目で『募集された婦女子に、日本軍隊のために醜業を強制した』とあるがこれを認めるか、B・オランダ政府公文書「旧オランダ領東インドにおけるオランダ人女性に対する強制売春」に含まれた「スマラン事件」についてのバタビア臨時軍法会議の判決(抑留所の女性を暴力的に慰安所に移したとして日本人担当者は死刑)を認めるかとの「質問」に、「我が国は、日本国との平和条約(昭和二十七年条約第五号。以下「平和条約」という。)第十一条により、同裁判を受諾しており、国と国との関係において、同裁判について異議を述べる立場にはない」「我が国は、平和条約第十一条により、連合国戦争犯罪法廷の裁判を受諾しており、国と国との関係において、同裁判について異議を述べる立場にはない」と繰り返し、「強制連行」の認定をふくむ2つの判決を承認している。


 b)「河野談話」に対する認識


 「オランダ出身の慰安婦を含め、慰安婦問題に関する政府の基本的立場は、平成五年八月四日の内閣官房長官談話のとおりである」「我が方在オランダ大使より、オランダ外相に対し、慰安婦問題に関する日本政府の基本的立場は、平成五年八月四日の内閣官房長官談話を継承するものであること、また、安倍総理は、元慰安婦の方々が極めて苦しい状況に置かれ、辛酸をなめられたことにつき、心から同情し、おわびする旨明確に述べていること等を説明した」。


 以上である。a)が、強制連行の認定にもとづく判決に「国と国との関係において」「異議を述べる立場にない」というのが日本政府の態度だとしていることは重要ある。


 先の3月16日の「答弁書」①は、「調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」と書いていたが、では、その「政府が発見した資料」に、このように政府として「受諾」済である裁判資料は含まれていたのか、いなかったのか。そういう問いが、そこから立つ。


 「裁判について異議を述べる立場にはない」のであるから、そこに含まれた証拠書類についても「異議を述べる立場にはない」。これが常識的な判断だろう。そうであれば、先の「政府が発見した資料」は、これらの裁判資料を除外したものだということになる。


 ③について(2007年4月20日)


 「答弁書」はこう述べている。


 a)「強制連行」に対する認識


 「二の1及び2について-平成五年八月四日の内閣官房長官談話は、政府において、平成三年十二月から平成五年八月まで関係資料の調査及び関係者からの聞き取りを行い、これらを全体として判断した結果、当該談話の内容となったものであり、強制性に関する政府の基本的立場は、当該談話のとおりである」。


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