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途上国としての中国

 トランプ大統領が「中国の途上国扱いはおかしい」と主張しています。とても良いポイントです。この件は、小著「国益ゲーム」に向けて原稿を書いたのですが、上手くハマらなかったので外しました。以下は私の原稿をベースに書いていきたいと思います。

 まず、「途上国の抱えている問題点」という所から入っていきたいと思います。日本もいまだに振り翳す理屈の中に「自由化によって貿易は拡大し、途上国はメリットを受けている」というものがあります。国際貿易の教科書を読めば、一番最初に出て来る「比較優位論」が基本にあります。簡単に言うと、どの国にも(絶対優位は無くても)「比較優位」があるという事です。A国は自動車を作っても、コメを作っても生産性が高い。B国は自動車は作れず、コメは作れるがA国の生産性には及ばないとします。世界にA国とB国しかないと仮定すると、A国は自動車を作り、B国は米を作り、それぞれを貿易するのが最適だという事になります。

 ただ、この時点で「ちょっと違うんじゃないか。」と思う方が多いと思います。この比較優位論を突き詰めたものとして私が一番最初に思い浮かぶのは、旧ソ連時代の各共和国間の分業体制のような世の中です(例:ウズベキスタンの綿花への特化)。ましてや、世界には非常に多くの国があります。多くの国との間で競争する時、絶対優位を持たない比較優位だけで貿易の価格競争に勝てる事などまずないでしょう。どんどん絶対優位のある国に駆逐されていって、最後に最も弱い立場にある後発開発途上国に残される分野は殆ど無いか、あったとしても人件費が安い事だけが売りとなる分野しかないという事になります。結局、「自分達は自由貿易の結果、外国製品に席巻されてしまった。かろうじて優位性が残ったのは人件費が安い事だけ。従属的な立場に置かれているだけだ。」という思いになります。

 別に比較優位論の理屈が間違っているわけではありません。ただ、比較優位論を世界レベルで追った帰結として、手元に大したものが残らなくなる国が出ます(一部の後発開発途上国)。それらの国に「あなた方にも(カスカスの)比較優位があるじゃないか。それを活用して豊かになるがいい。」と言うのは、たちの悪いジョークにしかなりません。

 こういう現実があるので、途上国対策が必要というのが理屈です。日本なんかは今でも「自由貿易を推進して豊かになろう」といった安っぽいメッセージを打ち出したりしますが、「途上国に住んだことが無い人が考えているんだろうな。全然リアリティが無い。」と思う事は多いです。私が外務省に居る時は、特に経済産業省の認識は全くリアリティが無かったですね。

 ここからが本題です。この途上国問題を語る時、いわゆる「途上国」と一括して呼んでいる国の中には、途上国ステータスという大きな看板に隠れて、「途上国優遇利権」を最大限得ようとする国があります。トランプ大統領が対中国で指摘しているのはここです。そういう国は厳しい自由貿易の中に放り込まれてもびくともしないのに、優遇利権を失いたくないので、途上国間の連帯をかなり声高に訴える傾向にあります。「途上国として・・・」と連帯を強調し、強硬に配慮を主張する国は、実はそういう途上国ステータスをもう必要としていないくらいの所まで来ている事はよくあります。その主張する「連帯」は、他の途上国のための連帯ではなく、自分が外されないようにするための連帯となっています。

(余談ですが、1986-93のGATTウルグアイ・ラウンドで、韓国に取って最重要課題の一つは「途上国ステータスの確保」でした。「日本よりも有利な条件で妥結する」事が念頭にありました。これは成功しまして、「(WTOの分類上)途上国」たる韓国は最終的にコメの輸入枠で日本よりも緩いルールとなりました。当時、韓国は(先進国クラブとも言われる)OECD加盟を目指しており「かたやOECDに入る資格はあると言いながら、WTOでは途上国顔するのって変だよな。」と、外務官僚1年目の私は思っていました。)

 その一方で、本当に競争力が欠如しており、同じ目線で自由貿易の世界に放り込まれても全く太刀打ちできない途上国(特に後発開発途上国)はまだたくさんあります。こちらのグループはむしろ声が小さいです。そして、先進国が積極的に耳を傾けなくてはならないのはこちらのグループのはずです。

 途上国間に明確な差が出来、それが広がっていっている中、今後、日本を含む先進国としては強い途上国、普通の途上国、後発開発途上国くらいの仕分けをして戦略を練った方がいいはずです。その上で、強い途上国からは配慮を外していき、そして、後発開発途上国には現状を大きく上回るメリットを提供する事で明確な差異化を図る事を真面目に考えるべきだと思います。特に後発開発途上国に対して「あなた方が中国みたいな強い国と『途上国枠』で連携していたら、先進国は対途上国で更なるメリットの提供が出来ない。別れてくれたら、メリットを必ず提供する。」というメッセージを発する事は出来ないのか、本当に考えるべきです。

 「そんな事、昔からやっている」という声はあるでしょう。しかし、これがやれているようで、魅力ある形ではやれていないのです。貿易面で言うと、先進国は後発開発途上国から「無税・無枠」で輸入する事を約束していますが、あれには実はカラクリがあって原産地規則や検疫等の基準が複雑なので、結局後発開発途上国からの輸入はそれ程増えないようになっています。「(明白な迂回輸出のみを排除した)原産地規則無しでの無税・無枠輸入」、「防疫負担を一部先進国がやる」くらいをオファーするようにならないと後発開発途上国は魅了されないでしょう。私の案がベストだと言うつもりもありませんが、強い途上国と後発開発途上国との間に本当に太い楔を打つことは考えなくてはなりません。

 トランプ大統領の発想は正鵠を射ています。ただし、それをやるためには、本当に配慮が必要な途上国に「途上国枠で中国と連帯している内は大した事が出来ないけど、袂を分かってくれたらきちんとメリットを提供する。」という事がセットだと思います。中国を含めない途上国で連帯を強めさせないと、トランプ大統領の思いは絶対に成就しません。

【告知】 小著「国益ゲーム」、発刊中です。


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