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全国民PCR検査、今すべき?

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トップ写真:PCR検査を行う The FAO/IAEA Animal Protection and Health Laboratory 出典:flickr : IAEA Imagebank (Dean Calma / IAEA)

安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・新型コロナ感染症で、「全国民に検査を」なる提言が出た。

・検査の精度の問題もあり、短期間の大規模検査は困難と思われる。

・むしろ、第2波、第3波に備えた医療体制整備と経済再構築が急務。

これまで「全国民にPCR検査を!」の大合唱について、私なりに見解を述べてきたが、今度は【新型コロナ・V字回復プロジェクト「全国民に検査」を次なるフェーズの一丁目一番地に】と題した緊急提言が5月8日に発表された。(以下、本提言とする)作成者は「鹿島平和研究所 国力研究会/安全保障外交政策研究会+有志」となっている。発起人は、法政大学教授(鹿島平和研究所理事)小黒一正氏と、京都大学准教授 関山健氏である。

尚、本提言の注釈*1に以下の記述がある。

*1 本緊急提言は、「鹿島平和研究所国力研究会/安全保障外交政策研究会」の一部メンバーや有志の責任で発表するものであり、鹿島平和研究所としての公式見解を示すものではない。なお、本提言は、添付の長文論稿(小黒・関山)における分析を参考にまとめられたものであり、賛同者はこの提言の趣旨に同意するものであるが、論稿の個別の箇所については賛同者の間にもさまざまな意見があることを付記しておく。

従って、ホームページの緊急提言と小黒・関山両氏の長文論稿(以下、論稿とする)は別物であることに注意されたい。

命も経済も守る出口戦略

上記にある両氏の論稿は、提言「緊急提言 新型コロナウイルス感染拡大からの「命も経済も守る出口戦略」と題し、その要点は以下の通り:

● 新型コロナウイルスは、二つのルートで人命を脅威に晒す。一つは重症化による死、そしてもう一つは外出制限や営業自粛の長期化による経済的死。仮に緊急事態宣言が 解除されても、感染が再び拡大し、医療崩壊を防ぐために自粛が再開される可能性も ある。新型コロナウイルス対策の「出口」とは、「命」か「経済」かの二項対立ではなく、徹底した検査により、人々が安心して消費、教育、運動、レジャーなどの社会生活を送れるようになる「命も経済も守る出口戦略」である。

● 大規模な連鎖倒産を回避するには、残り半年程度がタイムリミット。それまでに、全国民が1~2週間に1度PCR検査(承認申請中の抗原検査を含む)を受けられる体制(1日1000万件から2000万件の検査)を整備し、継続的に陰性の者は安心して外出や仕事を再開できるようにすることを目標とする必要がある。その際、PCR 検査に限らず、高精度で有用性が高い検査は積極的に取り入れる。

● 検査拡充に必要な人員には、医師等以外でも一定の条件下で検査を行える時限措置を講じた上で、外出制限や営業自粛によって職や収入を失った方々の優先的な雇用を求める。また、体制整備のため、官邸を中心に関係省庁、都道府県および協力団体などが一体となって資材調達、実施、検査結果の集約・分析などを行いうるよう「新型コロナウイルス検査緊急対策ネットワーク」の構築を提言する。

「命も経済も守る」事に異論のある人はいないだろう。政府ももちろんそのために緊急事態宣言を全国に発令し、ソフトロックダウンを行っている。5月14日に34県に対する緊急事態宣言は解除されたが東京、大阪、北海道などは以前、厳しい自粛が行われている。

本提言を待たずして、経済の先行きに対する懸念は日増しに大きくなり、一日も早い経済再開を望む声は産業界のみならず、すべての国民からも聞こえてくる。

筆者は前の記事で、一部メディアのPCR検査拡大の大合唱に疑問を呈したが、論稿は以下の点でより具体的で、目を引く。

まず、経済への影響として:

●長期間に渡る外出制限や飲食店などの営業活動の自粛による売上蒸発は、旅 館・ホテル等の宿泊業・飲食サービス業、映画館や劇場等の生活関連サービス業・娯楽業、 デパート等の卸売業・小売業産業だけで、1日平均約0.24 兆円であり、1カ月で 7.2 兆円に なる可能性がある。この試算は前提に依存する大雑把なものだが、自粛が長期化し、3カ月継続すると21.6兆円の売上蒸発になる。6カ月継続ならば43.2兆円(名目GDPの約8%) になる。

とした上で、検査については:

● 全国民が1~2週間に1度PCR検査(承認申請中の抗原検査を含む)を受けられるようにし、「継続的に陰性」の者は安心して外出や仕事を再開できる体制を半年以内に整備することを目標とする。

●この目標のため、1日1000万件から2000万件のPCR検査(承認申請中の抗原検査を含む)を行えるよう検査体制を抜本的かつ段階的に拡充する

●検査で陽性反応が出た者については、自宅待機とするのではなく、感染者の健康上の安全確保にも配慮して、陰性が確認できるまで宿泊施設などに「隔離」する。

●政府は「継続的に陰性」の者に社会活動・経済活動の自由を広げる市民社会主導の試みを支援する。

●我々が互いにPCR検査(抗原検査を含む)が陰性か陽性かを判断するため、PCR等検査陰性証明書の発行(例:偽陰性の問題に対処するため、連続2回陰性の場合に発行)や、ユーザビリティを確保した最新のテクノロジーの活用(状況により、GPS付き電子バンドの装着等)も視野に入れる。

また、検査を拡大した時のコストについては本提言の脚注*4に以下の記載がある:

PCR検査に限らず、抗原検査や抗体検査を含め、高精度で有用性が高い検査は積極的に取り入れる。また、検査は訓練を受けた技術人材が実施する。PCR検査キットの価格が1キット1.5万円の場合、このキットで1日1000万回のPCR検査を365日行ったときの経費は54兆3850億円。これを全額国庫負担で予算を5兆円程度まで圧縮するには、キット単価を約10分の1に下げる必要あり。他方、全額自己負担で検査を2週間に1回受ける場合、国民一人当たり年間36万円(年24回×1.5万円)の負担となるが、キット単価を3分の1に引き下げれば負担は12万円となり、政府が9兆円の公費投入でその5割を補助すれば負担は6万円となる。

PCR検査に限らず、抗原検査、抗体検査などを積極的に取り入れるとしている。また、精度の高い検査キットの開発普及・低価格化で、予算は5~9兆円(仮)まで圧縮できるとの試算だ。

大規模検査は必要か?

論稿の肝(きも)は、自粛による経済の停滞を一刻も早く止め、再開させるために、大規模検査により陰性である人を見つけ、できるだけ早く仕事に復帰させる。そのために複数回の検査をやる、ということだと理解した。

経済再開に全く異を唱えるものではない。過度の自粛が経済にとてつもないダメージを与えるのは火を見るよりも明らかだ。

一方で、大規模検査が経済再開の鍵か、と聞かれると、前の記事にも書いたように、首をかしげざるを得ない。

その理由だが、まずPCR検査の感度が約30%~70%と低いことが上げられる。検体の採取は、綿棒で鼻咽頭の粘液や細胞を採取する方法が一般的だが、その時、患者が咳やくしゃみをする可能性が高い。感染リスクを考えると、医療従事者が時間をかけて丁寧に検体を取ることが難しいという理由もある

▲写真 米ユタ州警備隊員 検体をとる様子 出典:flickr : The National Guard (U.S. Air National Guard photo by Tech. Sgt. John Winn)

ここでPCR検査の診断特性を、感度(感染している人に検査をして、正確に陽性という結果が得られる割合)70%、特異度(感染していない人に検査をして、正確に陰性という結果が得られる割合)99.9%として計算してみる。

人口1,395万人の東京都感染率1%の場合、偽陰性者数(感染者のうち検査結果が陰性となる人数)は41,850人擬陽性者数(非感染者のうち検査結果が陽性となる人数)は13,810人となる。(注1:擬陽性と偽陽性について)

▲表 ⒸJapan In-depth編集部

陰性との診断が出た1,383万人超の人たちは、当然のことながら、安心して外出するであろう。しかし、その中には、4万人超の感染者(偽陰性者)が存在する。となると、他の人に感染するリスクは当然高まることになる。感染率1%で4万人だから、感染率が上がれば当然偽陰性者の数は跳ね上がる。

そもそも自粛下で国民が家に籠もっている時に、全国民対象に検査をやるとなると、病院や検査センターに出向くことになり、三密の状態を作ることになってしまう。これは本末転倒ではないのか?

もう一つの問題は、検査で陽性と診断された111,460人中、理論上非感染者が13,810人(陽性者の12%)いて、強制隔離の憂き目をみることになるということだ。

論稿では擬陽性の人は再検査することになっているので、一旦ホテルや施設に隔離されても、非感染者であることがわかれば、家に戻れるわけだが、2回目も擬陽性なら3回目を待つしか無い。仮に2回目以降、家に戻れたとして、直ぐ職場に戻れるとは限らない。自宅隔離だとしても非感染者とわかるまで不安なことにはかわりない。こうなることがわかっていて、積極的に検査を受けたい、と思う国民がどれだけいるのだろうか? 

またこれは理論値で、感度、特異度、感染率の値によって変わる。今回は感度70%、特異度99.9%、感染率1%と偽陽性の割合が低く出るような値を仮定したが、これを感度70%、特異度99%、感染率0.1%に変えると、12%だった偽陽性者の割合が93%(139,361人!)にまで上昇する。

▲表 ⒸJapan In-depth編集部

尚、論稿では複数回の検査を行うことが前提となっている。小黒一正氏が、連続検査の効果を公開しているので、実際に確認してみて欲しい。

▲Twitter 連続検査の効果(Excel) 提供:小黒一正氏

▲写真 2020年4月2日、ニューヨーク市のジェイコブKジャビッツコンベンションセンターに設置された患者ケアユニット 出典:flickr : The National Guard(U.S. Air National Guard photo by Major Patrick Cordova)

さらに、全国民が1~2週間に1度PCR検査を受けられる体制を作るとしているが、その間に無症状者が感染を拡げるリスクがあるわけで、そうなると、この検査の実効性そのものが揺らいでくる。

これらの理由から、大規模検査の実施は極めて難しいのでは無いかと考えざるを得ない。

論稿に関し、疫学が専門の名古屋市立大学大学院医学研究科の鈴木貞夫教授は、「私が問題だと思うのは、検査を「受けない」人をどう扱うかということです。そもそも私は受けませんし、そういう人は相当いるのではないでしょうか。本提言が『全数近く』を前提にしているのなら、そもそも成り立ちませんし、すこしでも『強制』をにおわせるようなことがあればそれは『人権問題』だと思います。そのあたりについての記載が一切ないのが気になります。」と述べた。

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