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検察OBの検察疔法改正に反対する意見書を読んで

 5月15日、元検事総長ら検察OB14人が検察疔法改正に反対する意見書を提出したと報じられた。

 「元検事総長ら」と言うから歴代の元検事総長がずらずらと名を挙げているのかと思いきや、検事総長だったのは松尾邦弘氏(77)1人だけだった。

 朝日新聞デジタルに掲載された意見書全文を読んでみて、次のように思った。
2 一般の国家公務員については、一定の要件の下に定年延長が認められており(国家公務員法81条の3)、内閣はこれを根拠に黒川氏の定年延長を閣議決定したものであるが、検察庁法は国家公務員に対する通則である国家公務員法に対して特別法の関係にある。従って「特別法は一般法に優先する」との法理に従い、検察庁法に規定がないものについては通則としての国家公務員法が適用されるが、検察庁法に規定があるものについては同法が優先適用される。定年に関しては検察庁法に規定があるので、国家公務員法の定年関係規定は検察官には適用されない。
 定年については検察庁法に規定はあるが、定年延長については検察庁に規定はない。それを「定年に関しては検察庁法に規定があるので、国家公務員法の定年関係規定は検察官には適用されない」と書くのは、一種のトリックではないだろうか。
 確かにそういう解釈もできるだろうが、それが唯一絶対の解釈と言えるのだろうか。
これは従来の政府の見解でもあった。例えば昭和56年(1981年)4月28日、衆議院内閣委員会において所管の人事院事務総局斧任用局長は、「検察官には国家公務員法の定年延長規定は適用されない」旨明言しており、これに反する運用はこれまで1回も行われて来なかった。すなわちこの解釈と運用が定着している。
   人事院事務総局斧任用局長は、「「検察官には国家公務員法の定年延長規定は適用されない」旨明言して」はいない。
 このブログの以前の記事でも述べたように、国会会議録を確認すると、
検察官と大学教官につきましては、現在すでに定年が定められております今回の法案では、別に法律で定められておる者を除き、こういうことになっておりますので、今回の定年制は適用されないことになっております。
と答弁している。
 この「今回の定年制」とは、に、国家公務員法の改正で定年は60歳とされたことを指すとみるべきではないか。
 既に検察疔法で検事総長は65、その他の検察官は63が定年とされているから、国家公務員法の60歳は適用されないという趣旨ではないか。
 国家公務員法の定年延長に関する規定をも適用されないという趣旨とは、必ずしも読めないのではないか。

 例えば、検事総長を務めた故・伊藤榮樹氏の著書『逐条解説 検察庁法』をひもといても、国家公務員法の定年延長が検察官には適用されないとは書かれていない。
3 本年2月13日衆議院本会議で、安倍総理大臣は「検察官にも国家公務員法の適用があると従来の解釈を変更することにした」旨述べた。これは、本来国会の権限である法律改正の手続きを経ずに内閣による解釈だけで法律の解釈運用を変更したという宣言であって、フランスの絶対王制を確立し君臨したルイ14世の言葉として伝えられる「朕(ちん)は国家である」との中世の亡霊のような言葉を彷彿(ほうふつ)とさせるような姿勢であり、近代国家の基本理念である三権分立主義の否定にもつながりかねない危険性を含んでいる。
 安倍首相は2月13日の衆議院本会議で「従来の解釈を変更することにした」と述べたと広く報じられているが、実際はそう述べてはいない。
 このブログの前回の記事にもあるように、「衆議院インターネット審議中継」の動画で確認すると、安倍首相はこう発言している。
検察官については、昭和56年当時、国家公務員法の定年制は検察庁法により適用除外されていると理解していたものと承知しております。
他方、検察官も一般職の国家公務員であるため、今般、検察庁法に定められている特例以外については、一般法たる国家公務員法が適用されるという関係にあり、検察官の勤務延長については国家公務員法の規定が適用されると解釈することとしたところです。
 「変更」という言葉は用いていない。
 これは、これまでは国家公務員法の定年延長についての規定が検察官に適用できるかどうかの解釈がなかったところ、今般適用できると解釈することとしたという趣旨ではないか。

 また、意見書はロッキード事件の栄光を強調しているが、検察はロッキード事件で何をしたのか。
 わが国の法律で認められていない刑事免責を認め、おまけに最高裁にも認めさせた上で、作成された嘱託尋問調書を証拠としたのではなかったか。
 これは「本来国会の権限である法律改正の手続きを経ずに」行われた「三権分立主義の否定にもつながりかねない」行為ではないのか。
 嘱託尋問調書は最高裁判決で証拠能力を否定されたが、彼らは何か反省を口にしただろうか。
特捜部が造船疑獄事件の時のように指揮権発動に怯(おび)えることなくのびのびと事件の解明に全力を傾注できたのは検察上層部の不退転の姿勢、それに国民の熱い支持と、捜査への政治的介入に抑制的な政治家たちの存在であった。
〔中略〕
黒川検事長の定年延長閣議決定、今回の検察庁法改正案提出と続く一連の動きは、検察の組織を弱体化して時の政権の意のままに動く組織に改変させようとする動きであり、ロッキード世代として看過し得ないものである。
 ロッキード事件の時の政権が「捜査への政治的介入に抑制的」であったとすれば、それは、当時の検察が政権にとって都合が良い存在であったためではないのだろうか。
 三木首相、稲葉法相は、事件を政権維持に、あるいは自らの政治的立場の強化に、利用してはいなかったか。

 今回の検察庁法改正は、内閣が、他の国家公務員と同様、検察幹部の定年延長を必要に応じて認めるというものにすぎない。
 検察官の身分保障に関する条文に手を触れるものではない。
 たかだか数年の定年延長をちらつかされただけで、検事総長や検事長が政権の言いなりになり、検察が政権の意のままに動く組織に変貌するというのか。
 検察はいつからそんな脆弱な組織になったのか。

 およそ非現実的な想像だと思うし、この意見書に名を連ねるOBが少人数にとどまったことも、それを裏付けているのではないか。

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