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「リモート」がコミュニケーションを堕落させる

■「リモート」は、なぜ我々を躊躇させるのだろうか

新型コロナ現象に関して、今週から「自粛の呪縛」が徐々に解け始め、感染の反動も若干は予想されることからまた多くの議論にもなると思うが、漸減状態をキープしつつ数年かけて「集団免疫」を獲得する次のステップ(今冬予想の第2波含む)に入るのは間違いない。

「ステイホーム」ピークの4月から急に増えてきたのが「リモートワーク」で、いくつかのアプリを利用して遠隔地同士がつながり、会議を行なったり「作品(ミュージックビデオ的な)」をつくったりしている。

僕も毎日それらの作品群を見て楽しんでおり、また自分の仕事でも「リモート(遠隔)」は取り入れている。

アーティスト同士が楽しんだり工夫したりして一つの作品をつくる、僕のようなものが会議やイベントでリモートワークを取り入れる。一部は「声」だけでそれら会議やイベントを行なうものもあるだろうが(僕は音声オンリーイベントを実験してみるつもりだ)、その多くには「映像」がついている。

つまり、人々の「動く顔の表情と声」が各自のパソコンやタブレットに映し出されている。出席者の人数によっては、画面が細かく分割され、その枠内の一つひとつに人々の顔が映し出される。

だがたとえば8人以上になると、画面に映し出される大量の情報を把握することが難しくなる。これはこれで大きな問題を含んでいるとは思うが、僕は、それ以前の問題、つまりそうしたリモートを成り立たせる基本単位、つまり1対1でのリモートコミュニケーションが含む「遅れ」の意味について考えている。

あの「遅れ」は、なぜ我々を躊躇させるのだろうか。その独特な「遅れ」を内包するコミュニケーションは、コミュニケーションと言えるのだろうか。

■「沈黙」と「息つぎ」と「連接」と「迂回」と「誤解」

リモートでは、相手の発話が終わったことをある程度確認してからこちらが発話しないと、会話が混乱する。相手がそろそろ終わっただろうと思いこちらがそれに絡んでいこうとしても、実は相手の発話は終了しておらず、一瞬の沈黙のあと発話が続くことは珍しくない。

人間がしゃべることとはそういうもので、しゃべった瞬間にそれは若干の意味を持ち始めるから、一通りしゃべりながら次々と生じる意味たちを、しゃべる当人が確認しながら続いてしゃべっていく。

その「意味の確認」はいつも同時進行ではなく、自分がワンフレーズしゃべったあと少し沈黙をおき、その沈黙内で意味を確認する、ということのほうが多いように思う。

そこで確認した意味をもとに、次の発語が生まれる。

あるいは、意味を確認しないまま、まさに水泳の「息つぎ」のような感じで一息つき、前にしゃべったこととは少しだけ文脈が重なり反復しつつも違う言葉をつないでいく場合も多い。

あるいは、同じく意味を確認しないまま、たとえば、最後の発語に含まれた一単語をもとに、「○○といえば、そうだ、あのことだけど……」のように、コンテクストを無視して音や意味の近接性だけで会話がつながることも普通だ。

その後、迂回を重ね続け、「ああ、今までしゃべったのは最初に言ったあのこととつながるのね」的に、一周回ってかたちづくられることも珍しくない。

そのようにして会話が帰ってこず、小さな言い間違いが積み重なり、自分でそのことに気づかないまま自分の話を誤解していき、けれども何らかのかたちに落ち着くことも日常的だ。

また、長い長い「沈黙」そのものが意味を生み出す場合も珍しくはない。

そうした、短い沈黙の後の発話の深まり、「息つぎ」をしてからの反復、語感や音のつながりのなかでのおしゃべりの楽しみ、大きく迂回しながらも何らかの結論への帰着、帰着どころか誤解が誤解を産んでいきながらも「ま、いいか」と話が終結していくこと、そして長い長い沈黙等、我々の日常の会話には、ぱっと考えただけでもこれだけのアクシデントとおもしろみを含んでいる。

それは日常の会話だけではなく、会議室でのプレゼンや議論にもこれらの突発的要素は普通に含まれる。またこれらのアクシデントがあって初めてアイデアとイノベーションが生まれることも多いだろう。

■ユリイカというイノベーションの芽

このように、日常会話から仕事での会議まで、いわば「沈黙」と「息つぎ」と「連接」と「迂回」と「誤解」等の形式が我々のふだんの会話を構成している。そして普通は、これらの形式と構成を意識せず、「会話」と呼ばれる行為が成り立っている。

だが会話のかたちが「リモート」になることで、会話に含まれるそれらアクシデントとおもしろみが不思議と封殺されてしまう。主として通信速度の限界により生じる遅れ(5Gになるとこの遅れ感が変化するのだろうか)が、0コンマ何秒ほどのわずかなズレを生じさせる。

不思議なことに、その「遅れ」が顕在化することにより、リモート・コミュニケーションにおいては、その遅れを修正しようとする。

具体的には、司会をたてる、発話者が喋り終わるまで待つ、等のスキルで対応していることだろう。

そうしたスキルによってリモート・コミュニケーションは一見円滑に進むように感じる。

おもしろいことに、僕が体験してきたリモート会議ではそうしたスキルを確立したうえで行なうため、意外にすっきりとまとまり、30分以内でだいたいは終了する。

当初の目的は果たし、最低限のホウレンソウも行ない、会議自体はうまくいったはずなのだ。

だが、圧倒的に何かが足りない。その足りないものとはつまり、

「誤解」であり「迂回」であり「突然の脱線」であり「脈絡のない笑い」であり、そして、それらを通してなぜか生まれることの多い、

ユリイカ(「わかった!」)

という閃き、つまりはイノベーションの始まりの瞬間、だ。

■リモート・コミュニケーションはコミュニケーションではない

リモートが顕在化させた遅れを修正することで、コミュニケーションが内包するある種の無駄が排除される。皮肉なことに、その無駄の中からユリイカが生じ、イノベーションの芽が生える。

哲学的には、コミュニケーションのそれらの無駄のなかにたぶん「他者」(主体=自分が管理できるもの以外の何か)が含まれていると思う。その他者は、時空を超えてその無駄の中に含まれている。「誤解」「迂回」「沈黙」等に含まれる膨大な無駄の中にヒントの核心があり、リモート・コミュニケーションはそうしたヒントの核心を排除する。

だから言葉の正確な意味においては、リモート・コミュニケーションはコミュニケーションではない。

それはまあ、ネットを通した単なるホウレンソウ程度のものだ。

※Yahoo!ニュースからの転載

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