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新法曹養成制度が犠牲にしているもの

 ある弁護士ブログが、改革の結果として現れた受験者数の減少、受験者の総体的なレベル低下により、司法試験の選抜能力が失われつつあることに危惧の念を表明しています(弁護士坂野真一のブログ)。

 基礎的な問題に限定されているはずの、令和元年度の短答式試験は、175点満点で108点以上が合格(但し1科目でも40%以下の得点である場合は不合格)。受験生全体の平均点は119.3点だから、受験生の平均点を10点以上、下回っていても短答式試験には合格できるというザル試験。予備試験ルート司法試験受験生の短答式試験合格率は同年度で約99%であるのに対し、法科大学院ルートの司法試験受験生の短答式試験合格率は約71%。法科大学院卒業者と同等の実力を持っている、裏を返せば、法科大学院を卒業したならば、これくらいの実力を持っていなくてはならない、と判断したレベルにある予備試験合格者が99%合格する試験で、法科大学院ルート受験生は3割も落第している。そして、志願者が激減しているにもかかわらず合格者を1500人程度に維持しているため、短答式試験に合格した受験生のうち約半数が最終合格する――という現実。

 こういう指摘を、今、私たちは、率直にどう受けとめるべきなのでしょうか。こうしたデータをみても、新制度が輩出した人材のレベルということになると、少なくとも旧制度とも比較においては、「低下」とはいえないという見方が出されます。端的に言えば、新制度においても優秀な人材は育っている、とか、そのなかには、旧制度にはいなかったような人材も生まれ出している、というような「一概にはいえない」論が、事実上、新制度擁護論として繰り出されたりもします。

 ただ、どういしてもここで考えてしまうこと、というよりも当然、考えていいと思えるのは、旧制度の欠陥とは一体なんだったのか、ということです。何度となく、繰り返し強調された、司法試験という「点」による選抜ではなく、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての法曹養成制度の価値。そこに導かれる、質を維持しつつ大幅な合格者増を図ることは旧制度では困難、という前提や、旧試法曹の資質批判につながる「予備校批判」「受験者の受験技術優先」といった批判要素。

 新制度の建て前では、司法試験の性格が変わり、それは法科大学院教育の効果測定ということになりました。もちろん、それは前記したような法科大学院という制度の絶対的価値とともに、それがまさに改革の額面通りの成果・実績を当然に出していることを前提にしています(「法科大学院制度の『勝利条件』」)。

 そうなると、前記したような現状のなかでも、司法試験が不当に難し過ぎる、あるいは現状に合っていないとして、そちらを法科大学院の現状に合わせろ、という要求が聞かれることをどうとらえればいい、ということになるのでしょうか。

 前記ブログ氏の次の一文が、的確に表現しています。

 「法科大学院卒業生の実力が全体的に見て不足だからといって、司法試験を簡単にしようというのは、目的と手段が完全に入れ替わってしまっているのではないかと。かつて大学教員たちが、司法試験に合格するだけの実力くらい3年で身につけてみせると豪語して導入された法科大学院なのだから、本来であれば法科大学院の側から、司法試験を簡単にしないでくれ、というのが筋だろう」
 「司法試験を法科大学院のレベルに合わせるべきだ(簡単に合格できるようにしてくれ)という、一部学者の主張は、自らの教育能力が乏しいことを自認する、極めて恥知らずな主張だと知るべきだ」

 旧制度を前記のような主張のもと、変えさせた側として、そのことをどう考えているのかが分からない。あえていえば、法科大学院教育の「完成」が、もし、道半ばで、これからその実績が現れてくるというのであれば、あるいは、そこに胸を張るというのであるならば、確かにブログ氏の言う通り、彼らの側から今、司法試験を簡単にするな、という意見が出てもいいくらいです。

 基本的に法科大学院を経ていない、予備試験組の実績に対抗することを諦め、本道のレベルを基準に合格しやすくしろ、というのであれば、あそこまで言った旧試への優位性はどう考えればいいのでしょうか。どんなに予備試験組が司法試験での実績を上回ろうと、それはあくまで実力差や、法曹としての適格性の差を意味しない、と強弁するということでしょうか。いや、むしろそれしか辻褄が合わない。しかし、社会と法曹志望者がどう受けとめるのかは別問題です。

 いや、もはやそういう理屈はどこにもないというべきかもしれません。ブログ氏が文中、別の箇所で想像しているように、レベルを維持しようと思えば合格者を確保できない。ゆえに、司法試験を既に犠牲にしている。しかし、それは言い方を換えれば、法科大学院制度をなんとかこのまま維持するために、法曹のレベルを犠牲にしている、少なくとも低下の危険にさらしているということを意味します。

 別の弁護士ブログも、このブログの指摘を取り上げて、さらに司法試験受験者数低下、法科大学院入試の志願倍率低下など、レベル低下の要素を挙げたうえで、こう述べています。

 「合格ラインを下げることによって得られる利益・目的は何か、です。言うまでもなく、これは人数の確保ということになりますが、法曹のニーズ・需要の開拓が進んでおらず、経済的な苦境が指摘される中で、学力を犠牲にして人数を増やすことが本当に国民の利益につながるか、です。国民の利益ではなく、法科大学院制度の維持が目的では本末転倒です」(Schulze BLOG)

 現実が本当は何を犠牲にしているのか、そして、その犠牲に果たしてどのような意味があるのか――。不思議なくらいそこからのアプローチがなされないまま、制度維持の方向ばかりが取り上げられているのが、新制度の現実と言うべきです。

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