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国際政治は「複雑怪奇」:単純なレッテル貼りが生む落とし穴

昭和14年(1939年)夏、日本はドイツとの日独防共協定を軍事同盟へ発展させるべく交渉を進めていました。その共通の敵はソ連と共産主義でした。にもかかわらず、8月23日にドイツはソ連と独ソ不可侵条約を締結。8月28日、平沼騏一郎首相が「欧州情勢は複雑怪奇」という言葉を残し、内閣は総辞職しました。73年前の今日のことです。その後日本はアメリカへ接近を図りますが上手くいかず、再びドイツとの提携を模索し、1940年9月27日に日独伊三国同盟が締結されました。日本は一度ならず三度までも欧米国家と同盟を結んだ非欧米国家ですが、日英同盟や後の日米同盟と違い、この時の三国同盟では修正主義国陣営に属すことになりました。

◇ ◇ ◇

平沼首相の「欧州情勢は複雑怪奇」という言葉は有名ですね。強烈な反共主義的イデオロギーをもち、欧州を共産主義から守ることを使命だと自負していたドイツが「宗旨」の異なるソ連と結んだのですから、寝耳に水な出来事と映っても仕方ありません。欧州の同盟関係はオーストリア継承戦争や七年戦争の経緯からも分かるとおりいつも複雑で、古狸と古狐の化かし合いです。それを知らないわけではなかったでしょうが、「共産主義ソ連」、そして「防共の砦ドイツ」という単純なレッテルが当時の日本の判断を迷わせたのかもしれません。

日本がイデオロギーをひとつの分析基準としていたことは必ずしも間違いではありません。しかし、ドイツもソ連も常にイデオロギーが動機となって行動するわけではなく、生存や国益追求といった国家の「基本的な行動原理」によって動くかもしれない、という視点が不足していました。イデオロギーのような「価値体系」で対立する者同士が勢力均衡などの「基本的な行動原理」によって手を組む可能性を排除すべきではなかったのです。イデオロギーというフィルターを通して見た欧州情勢と、そのフィルターを外して見た生の国家同士が絡み合う欧州情勢とでは景色が異なっていたはずで、複数の景色に対処しなければならない国際政治は本来“複雑怪奇”なものなんですよね。もちろん歴史の結果を知った上であれこれ批判するのは簡単で、「基本的な行動原理」と「価値体系」という国家が内包する両者の性質は時に可分で時に不可分ですから、その時々の外交の在り方に最適解を求めるのは本当に難しいことだと思います。

さて、今日の我が国を取り巻く安全保障環境はどうでしょうか。例えば中国は共産党による独裁政治体制が敷かれていますし、社会・経済システム、人権などの規範といった点から判断すれば、彼らは日本やアメリカとは異なる「価値体系」を持っていると言えます。一方で、中国の周辺海域への覇権志向や急速な海軍力増強は、我々日本人とは相容れない「価値体系」が源になっているのではなく、自国経済の安定、ひいては生存を保証するためのシーレーン保護という国家が当然顧慮すべき役目を果たしているだけだと言えなくもありません。それは非共産主義国や非独裁国とも共通する国家の「基本的な行動原理」ですね。

他国に対してステレオタイプなレッテルを貼ってその行動を単純化することは、状況の概略をつかむ上で役に立つこともあります。ただし、それを基に情勢分析したり外交方針を立てようとすると、中国、北朝鮮、ロシアはもちろん、アメリカとの関係を考える時でさえも対処を誤る危険性があり、国際情勢がただ“複雑怪奇”なものとしかとらえられなくなってしまう、、、というような大雑把なことを蝉の声を聞きながら考えてしまいました。

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