- 2020年05月14日 10:13
中国の新戦略「大湾区構想」が受けた「新型コロナ」の衝撃(上)- 加藤勇樹 鈴木崇弘
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2019年12月、中国・武漢で最初の感染者が確認された「新型コロナウイルス」は、その後驚異的なスピードで世界に広まり、すでに4カ月強が過ぎた。
しかし、事態はいまだ収束の兆しさえみせず、新型コロナ感染は欧米や日本をはじめとして世界中に広まっている。感染者数および死亡者数は依然として増大しており、地域によっては医療崩壊も起きている。
このため、特に欧米の主要都市では「ロックダウン」という形で首都封鎖などが行われ、世界各地で経済活動や交通における規制が実施されて、失業や倒産・廃業など様々な問題が拡大してきている。
他方中国では3月より感染者数の減少傾向がみられはじめ、発生地点である武漢は、すでに4月8日に都市封鎖が解除された。中国メディア『華夏経緯網』(2020年4月5日号)によれば、中国全土で4月4日に黙禱が行われ、事態は小康状態に入った、という雰囲気が形成された。また5月初旬には北京市での交通封鎖解除や、広州市での学校再開が始まっている。
このように現代は、特定地域の風土病で終わるはずの病気でも、世界的に広がって甚大な被害と影響をもたらすこともあるという、グローバリゼーションの時代になっている。
これは、シルクロード時代にペストが広まったのと同じ現象のようにもみえるが、現代においては、世界や地域がこれまで以上につながっており、その脅威や影響は計りしれないものになっている。特に今回の感染症の世界的広がりは、グローバリゼーションが本質的に深化したなかで、極論すると初めて起きたことであり、今後の予測がつかない面もある。
このことはまた、国際間だけではなく、様々な地域間においても多大な影響を与えている現象でもある。
そこで、現代中国で強力に実現されつつあった「大湾区(グレーターベイエリア)構想」を取りあげて、論じていくことにしたい。
なお、この「大湾区」の発展ぶりについては本年2月、4回にわたってレポートしているので参照していただきたい。
■驚異的発展「中国・大湾区」現地踏査レポート(1)(2月4日)
■驚異的発展「中国・大湾区」現地踏査レポート(2)(2月8日)
■驚異的発展「中国・大湾区」現地踏査レポート(3)(2月10日)
■驚異的発展「中国・大湾区」現地踏査レポート(4・了)(2月16日)
「大湾区構想」とは
大湾区構想とは、中国広東省の9つの都市(広東省の省都である広州市やイノベーションで世界的な注目を浴びている深圳市など)、および中国本土とは異なる制度である特別行政区の香港とマカオをカバーする地域で、現在進められている地域統合構想である。
中国広東省の生産力=イノベーション力を、国際金融都市である香港の資金調達力によって強化支援をし、さらには国際観光都市であるマカオや、広東省の後背都市などにニュータウンを形成し、新たな生活圏・経済圏を生み出そうという壮大な取り組みだ。
1国2制度をとる、異なる地域間の出入境の自由化や、地域間の居住制限の緩和などの行政面のみならず、共同の都市開発や交通網の拡大などのインフラ面でも、大規模かつ大胆な取り組みが進んでいる。
大湾区建設委員会の公式サイトによれば、その面積は約5.6万平方キロにおよび、日本全土の6分の1に相当するという。
地域内人口は「7000万人規模」で、地域内の経済規模も、韓国やロシアのGDP(国内総生産)に匹敵する規模をみせており、中国中央政府ばかりではなく、広東省・香港・マカオの各地域の政府代表が責任者になっており、国家の重点的な地域計画として進められている。
この大湾区構想に関しては、2019年に東京でも大湾区の要人による説明会などが開催され、日本語版ウェブサイトも開設されるなど、注目度が高まってきていた。
「交通ハブ」香港の機能停止
大湾区の対象地域には、広東省内の高速鉄道をはじめとする交通網はもとより、中国本土~香港~マカオをつなぐ世界最長の海上橋など、域内を結びつける多種多様な交通網が形成されてきている。
ところが今回の新型コロナ感染の拡大により、現在そのほとんどすべてが閉鎖、あるいは制限をされている状況にある。
ここでは、大湾区の各地域別に、交通網の状況についてみていこう。

香港と中国本土(隣接する深圳など)の間には、陸路でだけでも9つのイミグレーション(入管)があり、2018年には入境を香港側で一括管理を行う高速鉄道網が初開設されるなど、交通の統合が進んでいた。
ところが現在、人の流れがほぼ遮断されている。香港政府出入境管理局および香港政府統計局の公式数字によれば、5月5日時点で中国から香港への出入境者数は、総計で「1106人」となっている。
この数字を、2019年5月における1日平均当たり「約20万人」と比べると、いかに激減しているかが理解できるだろう。
香港政府は、新型コロナの感染拡大を防ぐために、1月末から順次イミグレーションの通行を制限してきていた。
その結果、現時点では香港と大湾区の他地域を結びつける交通機関は、深圳市深圳湾と香港を結びつける橋上のイミグレーションのみとなっている。
また香港・中国間を跨いだ場合、両国において、入境後14日間の自宅または施設での隔離が義務付けられている。香港側では5月に入ってからは緩和案が動きつつあるが、予断を許さない状況である。
またマカオでも出入境の制限が始まっており、5月現在、1週間単位で交通制限は変化している。
なお物流面では、健康診断書類の提出のみで行き来が可能であるため、生活上の物資不足などは生じていない。
香港は大湾区内のみならず、世界最大級のハブ空港の1つである。また大湾区における香港の交通・流通の強みは、世界人口の6割の地域(大中華圏、ASEAN、南アジア、日本)に5時間で移動できるということだ。
香港は、海運においては広州市や深圳市に劣るが、空運や航空旅客取扱量での強みは、現時点でも重要視されている。
しかし、現状では大湾区の玄関口という役割を果たせておらず、その機能は依然回復の見込みが立っていない。



