記事

早野龍五氏ロング・インタビュー2 ――原発事故後、なぜ早野氏は「黙らなかった」のか

1/2

リンク先を見る

「専門家は何でも知っている」から「専門家ほど疑わしい?」へ。「科学者は謙虚であるべき」だという一方、信頼できる専門知を求める声も大きい、そんな矛盾した状況の中で、なぜ早野氏は情報を発信し続けることができたのか? 編集長・荻上チキが聞くロング・インタビュー・パート2。
 

■専門家は何でも知っている?

荻上:インタビューのつもりが、丁寧な講義を受けてしまいました(笑)。しかし、とても重要なお話を伺わせていただきました。改めて、放射線に関する知識を身につけることの重要さを痛感した次第ですが、もし早野さんのツイッターをフォローしていなかったら、おそらく僕はもっと低い点数だったと思います。
それほど早野さんのツイートからは、多くの重要な情報が発信されていると思います。早野さんは、原発事故以降、どうしてツイッターなどで情報発信しようと思われたのでしょうか。

早野:そもそも、全くそういうつもりではなかったんですよ。結果的にそうなってしまったというか。
もともと、震災の前に僕が何をやっていたかっていうと、ジュネーブのCERN研究所というところで、国際研究チーム 「ASACUSA」のリーダーとして反物質の研究をしていました。

それから、中学の理科の教科書の執筆もしていました。原子核や放射線に関する章を担当し、その段階(事故前)では、一番詳しく書いてあった教科書だと思います(笑)。昨年夏に、震災を反映して書き足しなさいという指令がきたので、少しなおしました。

それと、僕自身は200mSvの被ばく者です。ジュネーブへ毎月往復する機内で被ばくをしているし、肺ガンで右肺上葉切除しているので、CTスキャンのお世話になっています。その被ばく量が推定200mSvです。フォローアップでCTスキャンやるのと、やりすぎのデメリットがクロスするのはどの辺かとか、自分でも気になって調べていました。

僕は、原子炉のことは実は知りませんでした。昔、田無に、東京大学原子核研究所というのが作られ、その一方で東海に原子力研究所ができました。ふたつの研究所が、おのおの旧文部省と科技庁のもとにできたときから、原子炉・原子力を知っている研究者と、原子核は知っているけれど原子力を知らない人に分かれてしまったわけです。ですから僕ら理学部系の研究者は原子炉の事をほとんど知らない。中のパイプがどう繋がっているかとかいうのは事故後に勉強したわけです。

荻上:震災直後に専門家として出てくる人も、建物の話はできるけど、飛散した放射線についてはできない人、あるいは逆の人というのもいて、かなり混乱していましたよね。

早野:ものすごくその辺が、縦割りになってしまったんですね。

荻上:しかし、傍から見ている僕たちは、専門家は全部知っているものだと思って見ますよね。

早野:外部被ばくは、自分が浴びたから少し知っていたけど、内部被ばくなんて気にもしていませんでした。エネルギーについては、教科書にも書いていたので少し知っていました。震災前はそんな感じでした。事故前もツイッター使っていたわけですが、3月11日当日何に使ったかっていうと家に帰れるかっていう情報を見る為に使っていたわけです。

■3.11直後

荻上:ツイログで確認すると、2011年2月までは300ツイート/月くらいだったのが、3月以降、1000ツイート/月のペースになりましたね。

早野:そうなんです。当日、家に帰ってみたらテレビが壊れていました。しばらくして、インターネットでテレビのストリーミングが始まったので、原発が変だというのがわかったんです。
最初のツイートがツイログに残っていますが、この時にセシウムと聞いて意味がわかった人は日本中にほとんど居なかったはずです。ですから、セシウムというのはどういうものかというのを、解説しはじめたのが最初です。
3月12日 14:22 hayanoCs137が出す662 keVのガンマ線を確認したという意味か.福島第一原子力発電所.Cs137は天然には存在せず,Sr90とともにウランの核分裂で生じる代表的な放射性同位元素.
その日の夕方1mSv/hを超えてしまった。この時はまだ枝野さんがμSvとμSv毎時の区別ができなかった頃ですね。
3月12日 17:30 hayano放射線レベルの大きな上昇があったということは,原子炉も格納容器も破損したと推定するのが妥当だな.
3月12日 17:32 hayano放射線レベルが(敷地境界で)1015μSv/hになった.これはシリアスだ.
それから、これは格納容器もきっと壊れているのではないかというようなことを言い始めた。
3月12日 18:06 hayano原子力安全保安院会見を聞いても,要を得ない.これだけの情報では,何が起きたか推測するのは僕には無理です.
それで僕はデータをあつめて解析して、と科学者がいつもやっていることをいつも通りにやろう、と思ってグラフを作ったわけです。
福島第一原発から送られた、字が潰れたようなファックスをスキャンして、PDFにして貼ってあった数値をひとつずつ読んでグラフにするというのを始めたわけです。それが3月の13日です。

画像を見る
3月13日 07:49 hayano福島第一原子力発電所正門付近のガンマ線量測定値,東電公表データ(http://bit.ly/engea6) からグラフにしてみました.
荻上:『福島原発事故独立検証委員会 調査・検証報告書』財団法人日本再建イニシアティブ(ディスカヴァー・トゥエンティワン)に載っていたものですね。(P136)

早野:そうです。それが、多分、福一関係の様々なデータでグラフとして世の中に出た最初のものだと思います。これを見て色んな人たちがこういう形で貢献できるのかということで、皆でグラフ作ったり、地図を作ったりし始めた。

■「早野を黙らせるな」

早野:週末が終わって3月14日本郷に来たら、東大本部から「早野黙れ」と言われた。これは事実です。まあ、実際は黙らなかったわけですが。
「早野黙れ」と言われたけど……科学者は原発事故にどう向き合うべきか
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1112/29/news005.html

3月の17日に鈴木寛さん(当時文科省副大臣:モニタリング担当)に会いにいって、その時にSPEEDI(注1)のことも含めてずいぶん話をしてきました。本部に「早野を黙らせるな」と話をつけたのは、民主党の鈴木寛さんでした。3月15日かな、SPEEDIが動いているはずなのにどうしてデータが出てこないんだろう? とツイートしていますが、鈴木寛さんにどうなっているのかと聞いたら、この時点では、彼は動いているかどうかご存じなかった。(注1:原子力発電所などから大量の放射性物質が放出されたり、そのおそれがあるという緊急事態に、周辺環境における放射性物質の大気中濃度および被ばく線量など環境への影響を、放出源情報、気象条件および地形データを基に迅速に予測するシステム(「環境防災Nネット」http://www.bousai.ne.jp/vis/torikumi/030101.htmlより))

3月20日くらいになって「その後、調べたけど実は最初から動いていたようです」、「ようやく(23日に)公表にいたりました、ありがとうございました」といったメールを鈴木さんからいただいています。
この頃、技術的な内容を英語で解説してくれないかと官邸広報からリクルートされそうになったり、霞ヶ関、虎ノ門方面からお声はかかったのですが、断っていました。

当時は、炉の状態もわからないし、データを見て一喜一憂する状態でした。だから一瞬でもデータを見る時間を減らしたくなかった。放送番組に出ませんかとか、新聞インタビューなど色々言われましたが、とにかく寝る時間、食べる時間も惜しんでデータを見続けていました。

■自分が知りたかった

荻上:早野さんが最初にグラフを作られたことは、とても大事なことですよね。そうすることによって、他の学者さんたちも、「そうだ! それができるんだ」と思ったと思うんですよ。

早野:皆やり始めてくれました。

荻上:どうして、冷静にこういうことをしようと思われたんでしょうか? 

早野:やはり、科学者の習性だと思います。最初は自分が知りたかったから始めたんです。当時は福島第一原発から送られてくるあのデータ以外、データってどこにもないわけです。
まずは元のデータと、その後だんだん出てくるモニタリングのデータなどを可視化して、それから皆で可能な限り議論しようと、それに尽きているわけです。

最初のグラフを出した時に、九万人くらいが見た。事故前は僕のフォロワーは2500人くらいでしたが、この頃から増えていって、3月15、16日で十五万人くらいになった。

でも、僕は昨年3月の終わり頃に、そろそろやめようとしていました。東大病院の中川恵一先生のチームがツイッターを始めて、彼のフォロワー数が僕のフォロワー数を抜いた。やはり、皆が知りたいのは健康の問題であって、Svなんて言っていても要はわからないし、結局、この水飲んでいいのかとかそういうことを、人は知りたいのだろうな、と思いました。

僕は、そこは専門外ですから。健康への影響というのは皆に伝えなくてはいけないけど、それは、医者である中川さんがやるべきで、中川さんの出番になったと思ったので、「僕はそろそろやめてもいいですね」と、3月28日に鈴木寛さんにメールを送り、「ごくろうさまでした」って返事ももらっています(笑)。

あわせて読みたい

「福島第一原発事故」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    徴用工で対抗? 河野氏が「誤解」

    河野太郎

  2. 2

    「TV局は株主」吉本の癒着を暴露

    BLOGOS編集部

  3. 3

    れいわ 3議席以上獲得で政界再編

    田中龍作

  4. 4

    若者の投票では変わらぬ日本社会

    西村博之/ひろゆき

  5. 5

    男の愛撫は痛い SOD女性社員訴え

    AbemaTIMES

  6. 6

    宮迫への無神経質問に非難が殺到

    女性自身

  7. 7

    よしのり氏 山本太郎に投票した

    小林よしのり

  8. 8

    韓国の日本大使館突入に抗議せよ

    tenten99

  9. 9

    よしのり氏 京アニ火災に虚しさ

    小林よしのり

  10. 10

    落選後に実感「政治は数が全て」

    山田太郎

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。