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コメ買い占め騒ぎの反省とまだ不安な人への処方箋 - 山口亮子 (ジャーナリスト)

コロナウイルスへの不安から3月に起きたコメ買い占め。外食や給食向けといった業務用の需要が急減し、コメ相場が下がる中での合理性を欠く消費行動だった。その原因と、デメリット、コメ確保への不安の解消方法を紹介したい。

(ake1150sb/gettyimages)

急な需要に追い付かなかっただけ

スーパーのコメ売り場が空っぽなのを目撃した方は多いと思う。コメが買えなくなるとパニックになった人は少なくなかったようだ。実際は、農水省や関係機関が喧伝している通り、コメ不足はない。スーパーからコメが消えたのは、急な需要に精米が追い付かなかったのと、家庭向けの袋が不足したからに過ぎない。

買い占めされたコメが置かれている劣悪な環境を思うと、心が痛む。台所の隅に打ち捨てられ、忘れられてはいないか。直射日光が当たったり、水をかぶっていたり、においの強いものの横に置かれていたりと、言語道断な扱いを受けてはいないか……。買い占めてしまった方、至急コメの状態を確認し、冷暗所に隔離してください。

米屋を忘れた日本人

コメが不足していると誤解されたのは、多くの人がコメをスーパーやドラッグストアなどで買おうとしたからだろう。在庫を潤沢に持つ米穀店を訪れ、店員と話せば、そんな心配はないとすぐ分かったはずだ。米穀店の多くは、店頭での家庭向けの販売より、飲食店や施設の給食向けの業務用の取扱量が多い。注文の単位が大きい業務用の需要が減って、経営に窮しているところが少なくないのだ。家庭用の需要が多少増えても、品薄にはならない。

独自の仕入れルートを持っていたり、大きい貯蔵庫を備えていたりするので、たとえ米穀卸からの供給がストップしても、店頭でコメを販売できる店が多いのだ。餅は餅屋と言うけれど、コメは米屋なのだ。こんな常識を多くの消費者が忘れ果て、右往左往したのが今回の騒ぎである。

精白した途端に劣化が始まる

騒ぎは、主食であるコメへの一般消費者の無理解が生んだと感じる。買い占めは、デメリットばかりだ。コメは生鮮食品だから、精白した途端に劣化が始まる。家庭で精白したコメを消費するなら、精米日が直近のものを少量買い、においが移らないように密閉して湿気のない冷暗所で保管し、なるべく早く食べきる方がいい。基本的なことなので、ご存じの方は多いだろう。

買い占めは、劣悪な環境で貯蔵され、まずくなってから消費されるコメにも、生産した農家にも失礼なことだ。もみがついた状態のコメを買い占めて、もみすりができるコイン精米機で精白して食べる方法もあるかもしれない。しかし、品質を気にする農家や米穀卸は、コメを低温貯蔵庫で保管する。家庭での常温の貯蔵は、理想的ではない。

主食の確保にどうしても不安を覚えるなら、いざというときコメを送ってもらえる農家の知り合いを作ればいい。その実、国内のコメ消費に占める縁故米は1割近くもあるとされる。多くの人が親類縁者をたどれば農家に行きつくはずだ。棚田のオーナー制度に参加し、出資金と引き換えにオーナーになって、定期的にコメを送ってもらうこともできる。コメ農家が催す消費者向けイベントは全国でさまざまなものがある。方法はいくらでもあるのだ。

コメ先物で投資する手も

コメに投資する手もある。国内にはコメ先物市場があり、将来のある時点でコメを一定の価格で売買する契約を結べる。ただ、トン単位のコメを扱うので、個人では到底消費できないレベルになる。俺はこれだけコメを持っているんだ、という心理的な安定にはなるかもしれない。受け渡しの期日までに売り抜ければ、現物(コメ)を引き取る必要はない。

個人投資家が始めやすいものに、1万円以下の少額から投資でき、現物の授受のない「コメeワラント」がある。こうした取引に参加し、相場を知れば、不合理な消費行動をすることもない。加えて、運用に成功すれば儲けになる。

「主食であるコメを投機対象にするとは」と目くじら立てるのは、自民党の農林族とJAに任せておけばいい。先物取引の嚆矢は、江戸時代に大坂堂島米会所で始まったコメ先物取引だとされる。先人たちは、世界に先駆けて主食を投機対象にしていたわけだ。

米穀業界紙で流通を知る

「情報は力」と言う。業界紙を読んで、主食の相場や流通の現状を把握するのも手だろう。世の中には米穀業界紙が複数ある。その読者は、スーパーの棚にコメを買いに走るなんて愚行はしなかったはずだ。

ちょうど筆者の手元に「米穀新聞」 (米穀新聞社Tel:03‐3669‐5461)がある。毎週木曜日発行で、相場やスーパーの小売価格の変動、作付けの状況などを伝えている。購読料は年1万6200円(税込)。米穀業界紙の購読料は総じて安い。国内のコメ取引は相対取引(実需と卸や生産者の直接取引)がほとんどで相場が明らかでないので、米穀卸や米穀店、奇特な農家はこうした業界紙の相場情報を基に取引する。業界紙を読んでいれば、主食に関してパニックになることはない。

コメは米屋で買う

何より、米穀店でコメを買ってほしい。米穀店は有数の斜陽産業だ。コロナ禍で、その不景気さに世の中が追いついてきた感はあるが、業務用需要の急落で経営はさらに苦しくなっている。ある県など、40代の米穀店主が2人だけいて、あとは後継者がおらず、閉店するのが時間の問題の店ばかりだそうだ。都内でもすさまじい勢いで店舗数が減っている。

仕入れ先が画一化しがちなスーパーやドラッグストア、ホームセンターに比べ、米穀店は仕入れルートが多岐にわたる。食料安全保障の面で、食料自給率の向上うんぬんよりも、米穀店を存続させる方が、消費者にとってはよほど重要ではないか。もともと人でごった返すところではないので、感染予防の面でも米屋に行くのは合理的だろう。配達をしてくれる店も多い。

店頭精米をする店が多く、その場合、分搗きも対応してくれるから、五分搗き、七分搗きといった好みの搗き具合で、より美味しく食べることができる。店主はコメのプロだから、今年のコメの出来や、おすすめの品種、相場など、聞けば教えてくれるはず。訪れれば、コメとの距離が縮まること請け合いだ。

これで「瑞穂の国」と言えるのか

買い占めは、農家や卸、JAといった米穀業界と、消費者の距離が離れすぎたために起きたことだと感じる。精米日も見ずに漫然とコメを買い、美味しくない状態で食べているから、こんなことになるのだ。都市に暮らしながら、米屋ののれんもくぐったことがない人間が増える一方なのに、「瑞穂の国」なんて言ったら、先人に笑われるだろう。

令和の米騒動を、あなたとコメの関係を見直すきっかけにしてもらいたい――。農業界隈でものを書いている人間として、切に願う。

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