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批判まみれのコロナ報道を生産的にするための視点

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危機対応というと、脊髄反射的にスピード感をもって使えるものは全部使って、といった論調が支持され、強い口調で主張・批判する勢力がメディアをジャックする傾向が強くなるものだが、現実の対応はそんなに早くもできなければ、使えないものがすぐに使えるようになるものでもない。

こういった「早く早く」という世論に押されてか、安倍首相がトランプ大統領にかけあって無償提供にこぎつけた(らしい)レムデシビルだが、肝心の効果はハッキリしない。

5/7メディカル・トリビューン誌の記事では、「臨床的改善」「死亡率」「ウィルス量」ともにプラセボ群とremdesivir群で有意差がなかった、との(Lancet4/29初出ネタの)データが紹介されている。

記事の終わりごろに出ているエディンバラ大学のNorrie氏の付随論評が振るっている。

「観察研究で得られた有望な結果は、質の高いRCT(試験)で厳格に確認または否定されなければならない。それはパンデミック下ではいっそう困難になるが、エビデンスの判定基準を下げるという誘惑に負けてはならない。効果がなく安全でない介入法の採用は有害であり、真に有効かつ安全な介入法を見出す試験の実施がさらに困難になるからだ」

一方で、米国国立衛生研究所(NIH)が4/29に公表したremdesivirの臨床試験では、プラセボ群と比較して、死亡率に差はないが、患者の回復を4日間早める効果がある、との結果が出ている。

Lancetネタのデータ素材は中国で、NIHネタのデータ素材は米国や日本、ほぼ反対の結果を同日にリリースしているのは何か政治的な意図があるのか。
(背後にはポストコロナ時代を見据えた市場プレゼンスをめぐる争いはあるだろう。)

ともかく、両試験とも死亡率には影響を与えない、との結果が出ているので、これをもって夢の治療薬というのは少し無理がある。

強力な治療薬やワクチンはそう簡単にできそうにない、という見込みが浸透し始めると、じゃあ抗体陽性者を増やして集団免疫にしちゃえ、という方向に行きがちだが、これもそう簡単にいかない。

歌手のマドンナが新型コロナウィルスの抗体陽性が出たとのことで、早速「私には抗体があるから、明日ドライブに行ってコロナの空気を吸い込もう」と発言した(記事)らしい。
抗体陽性=免疫獲得という短絡は先述した脊髄反射の一断面で、日本でもそういう受け取り方があるように見える。

太融寺町谷口病院の谷口恭氏によると、抗体検査陽性の結果の解釈は3通りに分類される。(参考
1.現在感染している(抗体はウィルスが完全に消滅する前に出現する)
2.既感染で自然治癒した
3.未感染(主に検査精度の問題)

抗体検査の精度については、ロシュのCEOが欧米の現状を酷評したり、日本感染症学会が性能検査でダメ出ししたり、と何かと議論のあるところだが、技術的問題のハードルはそう高くはなさそうので、今後は改善していく可能性が高い。

抗体陽性が免疫パスポートの獲得といえない理由は精度の問題以外にもたくさんある。
そもそも今まで人間が経験したことのないウィルスなので、免疫のメカニズム、有効な期間、抗体量の推移などを手探りで解明していくしか手はない。(参考

さらに、ウィルスの変異についても徐々に解析が進んでいるが、ワクチンや免疫がどの程度変異に対応しうるのかは全く未知数というしかない。

残酷な結論としては、新型コロナウィルスに対して一発回答で満点の答え(対処法)は少なくとも今のところ見当たらない、ということだ。

現状、メディアで批判を繰り返す論者の多くは正解(例えば、PCR大量検査)があることを前提にしているが、正解は今のところわからない。
さらに言えば、結果のポイントをどの時点に合わせるかによって、正答と正しい解決方法は変わってくる。
そもそも技術的、政治的、自然的(ウィルスの浸透、変異、耐性化等)な状況は時間と共に変化していくので、有効な方法論も変わっていかざるを得ない。

秘密兵器のような解決方法はないので、「とりあえず抑えられている」という状態を長く続けられるような社会の仕組みにしていくしかない。

従って、つまらない答えにはなるが、社会の持続性と医療資源を両天秤にして、社会的距離の置き方を決定していこうとする日本のやり方は当座の対策として、理にかなっていると言える。

で、このやり方では、結局のところ、キモになってくるのは、技術でも法でもなくて、実際に生活を営む人間(その国の人々)の行動ということになる。

政治のリーダーシップは(人々の行動の)枠組み作りとして必要だが、決定的要因にはならない。

東日本震災のとき、災厄に対して効果的だったのは、防潮堤(技術)や逐次的な公共の情報よりも人の教育、こういうことが起こった場合、こういう風に行動するとわかっていて、実際に行動できたか、であったといわれる。

多くの人は「STAY HOME」でずっと持続的に生活できないし、また社会の活力のためにもそうあってはならない。

持続可能な生活パターンで、できるだけ感染しない/させないためにはどういう行動をすべきか。

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