記事

PCR検査増やせ大合唱の謎

1/2

ドライブスルー方式で行われている新型コロナウイルス検査 米ペンシルバニア州モンゴメリー群 2020年3月20日 出典:ペンシルバニア州警備隊(U.S. Air National GuardPhoto By: Senior Airman Wilfredo Acosta)

安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・相変わらずテレビでは「PCR検査増やせ」報道が多い。

・「国民全員にPCR検査を」と主張する専門家もワイドショーに出演。

・100万人当り感染者率と死亡率が断トツに低い日本は成功例ではないのか。

前記事で「PCR検査増やせ派」がメディアを中心に勢力を増し続けている現状を指摘した。

その後、自分が現役時代に関わっていたBSフジLIVE「プライムニュース」に本庶佑京都大学大学院特別教授がゲストとして出演した回(2020年4月22日放送)で「PCR検査を増やせ」との趣旨の発言をしたとことを同番組の記事で知って驚いた。

タイトルは、「PCR検査の数断然足りない」…ノーベル賞本庶佑教授が語るコロナ対策「検査は大学研究室でもできる」だ。

本庶氏の主張は明確で、医療現場の感染拡大を防がねばならない、ということだ。その上で、

「私が一番心配していること。戦争でいうと一つの小隊がころっとやられる状況。こういうことが起こらないためにPCR検査を増やし、医者に来る前に陽性かどうかがわかるようにすれば、医師もきちんとした対応ができる。病院の庭で検査するとか、もっと数を増やしていかなければいけない。

とし、現在日本で行われているPCR検査の数について、

断然足りない。一桁増やしていい。これは技術的問題ではないと私は思う。保健所でなく、現場医師が受けるべきだと判断すれば検査を受ける仕組みがいい。」

と述べている。

また、PCR検査の技術者数の不足については、

「実際、この検査は大学研究室でもできる。試算したが、技術者3人の組で1日に100検体はこなせる。1万の検査のためには技術者300人。9時から17時勤務で、と考えると全く問題はないし、僕は制度の問題だろうと思っています。」

と述べた。

本庶氏はさらに、「PCR検査を増やすことに反対している方々がある。「検査で陰性だった人に感染していないというお墨付きを与え、いわゆる偽陰性を増やすのは有害である」というご意見。「ないことは証明できない」というのは科学の基本的な考え方で、PCR検査でも「ない」ということには何の意味もない。そこを誤解されている。PCR検査は陽性の場合だけを追いかけるもの。」としている。

その後キャスターが発した「検査することによって陽性の人や過去の感染履歴がある人を正確に把握すれば致死率が下がる、という理解でよいですか。」という問いがよくわからない。

致死率=死亡症例数/感染症例数だが、確かに分子(死亡症例数)が変わらなければ、分母(感染症例数)が増えれば増えるほど致死率は小さくなる。しかし、死亡者数は時系列的に増えていくので、この問いは意味が無い。そもそもPCR検査の精度は70%以下と言われており、正確に陽性の人の数を把握出来ないという問題がある。現時点の致死率をもっ議論しても意味は無い。

一方、この問いに対し、本庶氏は「そのとおり。ただこれから重症者が増える可能性はあります。10%が感染しているようなら致死率は低くなる。すると感染しようがしまいが気にせず、重症者の治療へフォーカスをあてるという戦略に切り替える必要がある。」と述べている。

「市中感染率」については前回の記事に書いたが、現時点で正確な数字はない。約6%という数字が一人歩きしているが、根拠があるわけでもない。今現在、10%感染しているなら確かに致死率は下がるかも知れないが、日本はもともと重症者の治療にフォーカスしているわけだからら、「戦略を切り替える」必要はないことになる。

PCR検査に医療リソースをより多く割くと、何故重症者治療が手厚くなるのか、説明してもらいたい。しかし、番組では誰もそれを指摘しなかったようだ。

▲写真 米ニューヨーク市のJavits New York Medical Stationでのコロナウイルス抗体検査 2020年4月29日 出典:Photo By: Army Pfc. Genesis Miranda

■ 「国民全員にPCR検査を」

そして、5月7日朝のテレビ朝日系列の「羽鳥慎一モーニングショー」を見ていたら、WHO事務局上級顧問で英国キングスカレッジ・ロンドン教授の渋谷健司氏が「極端な意見かも知れないが」と前置きしつつも、「国民全員にPCR検査を」と提唱していた。

国民全員にPCR検査を実施するだけの医療リソースは日本に無いだろうし、現実的では無い。それに、本庶氏が提唱するように大学の研究室で検査をするなどということも現実的では無い気がする。検体を色々な場所に運んだり、専門で無い人が検査することは、むしろ感染リスクを上げるような気がするのだが、間違いだろうか?

少なくとも今の日本の現状を見ると、新型コロナウイルス感染症による死亡者数は557名(2020年5月8日厚労省発表)で、欧米諸国と比べると圧倒的に少ない。

▲図 入退院等の状況(括弧内は前日からの変化)※今までに重症から軽~中等症へ改善した者は81(+4)名
※4 退院した者のうち2,196名、死亡者のうち154名については、個々の陽性者との突合作業中。
当該人数を表中の数値に含むため、入退院等の状況の合計とPCR検査陽性者数は一致しない。出典:厚労省5月8日公表分

検査を増やすことが、死亡者数を減らすことに繋がるというならそのわけを知りたいと思うのは筆者だけだろうか?

▲図 新型コロナウイルス死亡者数の分析 出典:厚労省(新型コロナウイルス感染症対策専門家会議資料 2020年5月4日)

あわせて読みたい

「新型コロナウイルス」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    れいわの甘い危機管理が致命傷に

    田中龍作

  2. 2

    国際法秩序破る中国に世界的反発

    WEDGE Infinity

  3. 3

    橋下氏「熊本知事の後悔分かる」

    PRESIDENT Online

  4. 4

    東出の自虐発言に長澤まさみが涙

    女性自身

  5. 5

    河井氏問題巡る検察と朝日の癒着

    青山まさゆき

  6. 6

    供託金300万円没収も「勉強代」

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  7. 7

    研究者に転身 いとうまい子の今

    NEWSポストセブン

  8. 8

    自民党内「国賓中止はやり過ぎ」

    赤池 まさあき

  9. 9

    男子中学生と性交 40歳妻の素性

    文春オンライン

  10. 10

    小池知事が都民ファ切る可能性も

    舛添要一

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。