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権限のずれ

 何度か今回のCOVID-19対策関連で「道府県と政令指定都市との関係」について書いているのですが、事柄の性質上、とても目に付くのが「教育委員会」と「保健所」での権限関係のずれです。今後の課題だと思うので、書き残しておきます。

○ 教育委員会

 今回、全国的に道府県内での道府県立学校(主に高校)と市町村立学校(主に小中学校)との間で休校措置のずれが出かねなかった所は多いと思います。特に政令指定都市を有する所で顕著でしょう。これには理由があります。道府県教委と政令指定都市教委が対等の関係にあるという事が背景にあります。ちょっと説明していきます。

 すべての教育委員会は独立しています。これは大前提です。ただ、市町村立学校の教員給与は道府県から支払われています。つまり、市立中学校、市立小学校の教員を任命するのは市ですが、給与は道府県から支払われています。人事と給与がずれているんですね。

 人事権は市にあるのに、給与の権限は道府県にあるという事で、例えば教員の定数配置とかで道府県にお伺いを立てなくてはならない事に政令指定都市側は不満を抱えていました。そこで、給与支払い権限と財源を道府県から政令指定都市に移管する事が平成26年成立の第4次地方分権一括法で決まります。人事と給与のずれを解消するという事で、これまでの地方分権の中で(珍しく税源移譲の伴う)超大型の案件でした。

 直接の指揮命令系統下に無い組織に影響力を行使するやり方としては、主として人事と予算があります。そして、これまで政令指定都市教委は給与権限を道府県に握られていたので陰に陽に影響があったのですが、これが解消され、現在、政令指定都市教育委員会は道府県教委の影響下にほぼ無いという事になります。

 ただ、実はこの地方分権が成立する前から、新型インフルエンザ対策において道府県と政令指定都市の教育委員会の権限関係を整理して欲しいという要望は、全国知事会から上がってきていました(ココ)。リンク先の資料に「府」と書いてあるので大阪府の事例でしょう。全国知事会は、新型インフルエンザ対策等で休校措置をする際の政令指定都市との権限関係調整の困難を既に分かっていたのですね。新型インフルエンザ等対策特別措置法が出来たのは平成24年。民主党政権末期時です。残念ながら、この知事会の要望は取り入れられませんでした。そして、平成26年、自公政権下で上記の地方分権が成立しますが、この時も特段何らかの措置が取られたわけではありません。つまり、誰も危機管理時の教育委員会の権限関係には注意を払わなかったという事です。

 新型インフルエンザ等対策特別措置法において、各都道府県の対策本部長は知事です。しかし、このように道府県教委にほぼ依存しない政令指定都市教委がある事によって、休校措置等で調和的に対策を取る事が難しくなっています。そこを調整するメカニズムは、同法には全く盛り込まれていません。法改正で県教委、政令指定都市教委の協議体の仕組みを法定してはどうかと思います。

○ 保健所

 似たような事情があるのが保健所です。広域行政の観点から、県が主体となって保健所を設置していますが、産業、地理的条件や人口といった要素を考慮して、政令で保健所を設ける事が出来る市が決められています。この保健所設置市は政令指定都市よりももっと対象が広く、この市が一つも無いのは徳島県と佐賀県だけでして、あとの都道府県には保健所設置市が必ずあります。神奈川県は6市、大阪府に至っては9市もあります。なお、福岡県民として付言しておくと、今年の4月1日に大牟田市が財政上等の理由からこの保健所設置市から外れました。

 ここについても、全国知事会は新型インフルエンザ等対策特別措置法策定の際に要望を出しています(ココ)。都道府県と保健所設置市との権限関係を整理してくれとはっきりと書いています。ただ、最終的にこれも明示的には法律に書いてありません。当たり前ですが、県の保健所に勤めるのは県職員、市の保健所に勤めるのは市職員です。それを繋ぐ糸はあまり強いものとは言えません。ただ、今回のような危機的な事態においては、都道府県対策本部長の指揮の下、広域行政として都道府県単位で統一的にやっていく事が必要なのは言うまでもありません。それぞれの保健所の管内にある色々な医療リソースの相互融通が可能になるようにするには、コミュニケーションの場が必要です。やはり、何らかの協議のメカニズムを法定した方が良いのではないかと思います。

 こういうふうに書くと、「教育委員会」についても、「保健所」についても、都道府県対策本部長は(新型インフルエンザ等対策特別措置法における)各市町村に対する一般的な権限の中で処理すればいいではないかという意見もあるかと思います。しかし、学校にしても、保健所にしても大きなテーマです。明示的に法律に書いてもいないような権限でガチャガチャ口を突っ込む事は全く適当ではありません。

 政令指定都市が3つある神奈川県では、人口の7割弱が政令指定都市住民です。我が福岡県でも5割弱です。保健所設置市という事になると、県の管轄から外れる人口は更に大きくなります(神奈川では8割以上外れるのではないかと思います)。なので、何処かで調整を付けるメカニズムを法定する必要があるでしょう。ともすれば政令指定都市とか保健所設置市といった特殊性のある案件は国政の中で忘れられがちになります。是非、やってほしいと思います。

 ここまで書いた上で、最後に一言。新型インフルエンザ等対策特別措置法における都道府県対策本部長は知事である。これは改めて確認したいと思います。だからこそ、県は政令指定都市や保健所設置市(のみならず傘下のすべての市町村。以下同じ。)に少し頭を下げる気持ちが必要です。法律上、そして事実上、県知事が「大将」である事を否定する者は何処にも居ません。大将側が上位下達ではなく、少し頭を下げる気持ちを持てば、政令指定都市や保健所設置市との関係は潤滑になります。気持ちよく大将の指揮下に入ろうと思うでしょう。これは上記に書いた協議の場を法定しようがしまいが、常にそういうものだと思います。

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