- 2020年05月06日 08:51
“緊急事態”延長の首相会見でテレビが伝えた政府批判の「街の声」の中身は?
1/2“緊急事態”延長の発表記者会見でテレビは「人々の声」をいかに伝えたのか?
長引く新型コロナ禍。5月4日夕方、安倍首相は記者会見で「緊急事態宣言」を解除せず5月末まで延長することを発表した。
ニュース番組や情報番組の中でどのように「街の声」を伝えるのかは番組の特徴や局の特徴が表れる。
フジテレビの夕方ニュース番組『Live News it!』が記者会見の中継映像を流しながら、ちょっとユニークな放送をしていた。
首相の中継映像を流しながら、それを見ている「街の人」らがフリップに感想を書いてみせるという放送だった。
首相会見当日に会見中に「街の人」に意見をフリップで掲げさせたフジテレビの夕方ニュース
フジテレビの『it!』は首相の記者会見の放送と同時に、教育評論家の尾木直樹さん、埼玉県戸田市でスーパー「マルヤス」を経営する松井順子さん、千葉県南房総市で割烹旅館を経営する女将の清都みちるさん、東京都北区赤羽で「やきとん大王」の店長を務める篠原裕明さんを生中継で結び、会見を見た感想をフリップで示してもらった。首相の会見の映像と同時にこの4人の中継映像をワイプ映像(小窓の映像)で放送するユニークなスタイルだった。
安倍首相が“緊急事態”の1か月の延長の判断を断腸の思いだと話して企業への支援策などを話したところでは、4人のワイプ画面にそれぞれの人が書いた手書きのフリップが掲げられた。
(旅館の女将)
「収入ゼロは本当に大変」
(「やきとん大王」店長)
「個人経営のデリバリー支援を!」
(スーパー経営)
「人手不足のため求人費用の補助を」
尾木直樹さんは会見が教育の話になると次のフリップを掲げた。
(尾木直樹さん)
「学校と先生に人的支援を!」
首相が「10万円給付の追加対策」の有無について記者の質問に対して答弁した場面では以下のようなフリップが並んだ。
(旅館の女将)
「状況に応じた追加補償を!」
(「やきとん大王」店長)
「働く店がなければ意味がない」
(スーパー経営)
「継続的な支援をお願いします」
(尾木直樹さん)
「あと10万円追加お願いします」
番組では首相の会見を聞いたそれぞれの人たちに感想を聞いていた。
旅館の女将として登場した千葉県の清都みちるさんは「お客様が来るか…再開しても不安」''''''とフリップに書いて語った。
(旅館の女将・清都みちるさん)
「総理をお気持ちは今回の会見で十分伝わってまいりましたけれども、やはり我々宿泊業界は強制はされていませんが、自主的に休業せざるえない状況にいます。また再開したとしてもお客様が本当に来ていただけるかとても不安になっています。観光立国であり、また日本の文化でもある宿屋をなんとか保っていただきたいと思います」
(加藤綾子キャスター)
「最初の方では『収入ゼロは本当に大変というフリップも上げていましたが、安倍総理の会見をご覧になって気持ちとしてはどうでしょう?」
(旅館の女将・都みちるさん)
「具体的なことはどうしても見えてきてないのでみんな不安に思っています」
東京・北区赤羽「やきとん大王」店長の篠原裕明さんは「個人経営のデリバリー支援を!」とフリップに書いて感想を語った。
(「やきとん大王」店長・篠原裕明さん)
「いろいろ(総理が)言われていることはわかるんですが、けっきょく自分たちがやっているこういう商売に対して何も出してくれていないという一言ですね。この間から『デリバリーの支援もある』と言っているんですけど、もう私たちは仲間うちでデリバリ~サービスを始めたんですが、そういうことに支援も一切ない。もう少しそういうのも考えてほしいと思います」
(加藤綾子キャスター)
「『新たな生活様式』を実際に行う上で準備費というのはやはりかかるということですよね?」
(「やきとん大王」店長・篠原裕明さん)
「そうですね。だから少しでも安く収められるように、仲間うちで最小限のものでみんな持ち合ったりしてやっているんですけど、(支援は)何もないかな?という感じです」
埼玉県戸田市でスーパー「マルヤス」を経営する松井順子さんはフリップに「三密を避けるための安全対策費」をと書いて感想を語った。
(スーパー経営・松井順子さん)
「コロナウイルスが終息していない以上、緊急事態宣言の延長はやむをえないと思っています。ただ、今営業を続けている店舗。スーパーだけに限らず、三密を避けるための安全対策費がかなりかかっている。そういったところの支援をしていただくことができたら各店舗でもっと手厚い安全対策ができます。それが感染拡大を防ぐためにつながっていくと思っています」
(加藤綾子キャスター)
「(新型コロナで打撃を受けた事業主などに出る)持続化給付金についても早い方で5月8日から給付ということですすけど、これ早い方で、ということなってきますから、一刻も早い支援策、そして給付金が手元に届くようにしていただきたいです」
==尾木ママも痛烈に批判==
その後で登場した教育評論家の尾木直樹さんは「学校と先生に人的支援を!」とフリップに書いて感想を述べた。
(尾木直樹さん)
「僕はやっぱり学校の再開をするところがだいぶ増えると思うんですけど、再開の仕方については(総理も)いろいろと述べておるられるんですけど、これは学校の先生方だけでは絶対にできない。安全配慮、消毒して机の配置を変えたりしながら、子どもの勉強も見るわけでしょう?
不可能ですよ。ですから人的な支援をするということと、もう一つは1年と言わず、オンラインの整備ですね。これ1年ではダメです。5月中に完了しなければ、これから第2波、第3波が来たときにまた休校して、どんどん学力格差が広がってくるんですよ。これはダメですよ。
だから本当に急いで、もう予算化もされているとおっしゃっているわけですから、後は地方(自治体)とやる気の呼吸を合わせて、一気にやってほしいと思います。ニューヨークはわずか10日でやったんですから日本ができないわけはないと僕は思います」
(加藤綾子キャスター)
「安倍政権は教育に力を入れてきたと言って、教育格差についても『あってはならない全力で取り組んでいく』と総理も言っていますが、これについてはどうですか?」
(尾木直樹さん)
「(安倍総理の)主観的にはそうなんだと思いますが、今じゃオンラインで授業をやっているところとプリントだけしか配らないところ、何も(教材などが)ないところもあるんですよ。電話もかけてこない担任がいたりとかね。こんなに差がついちゃって。
やっぱり教育現場のヒダヒダの部分が全然(総理などに)伝わっていないなという感じを持ちましたね。やっぱり現場の声を聞いて、ときには視察にでも行って、そして、これは大臣がやればいいんですけど、密着して、現場に添った支援をしてほしい。子どもたちの学習権というのは、憲法でも保障されているんですから、それをしっかりと守るのが僕たち大人の責任だと思います」
安倍首相の会見そのものについては様々なメディアが伝えているため内容はそちらに任せることにして、この首相会見について各局のテレビ番組が「人々の声」をどのように伝えていたのかをまとめてみたい。
というのも、この日のフジテレビの『it!』のように様々な一般の人たちの声を同時に伝えながら、首相の記者会見を報道していくやり方は非常にユニークなだけでなく、「庶民の実感」をどれだけ反映させているのかという点で報道番組の本質にもかかわってくる。
ときに政府の「政策」「発表」に対して、批判的な視点も含まれてくる。
「人々の 声」を放送する「街頭インタビュー」(テレビ番組の中では「街の声」などと呼ばれてよく使われる)は、テレビのニュース番組や情報番組の常套手段でありながら、放送のされ方に対して、政権がかなり神経質になってきた歴史がある。
特に安倍政権は2012年の第二次政権以降、テレビ番組の「街の声」(街頭インタビュー)での批判に従来のどの政権に比べても神経をとがらせてきた。
「街の声」は芸能人の問題から生活実感、経済的な状況など様々な問題について庶民の率直な実感が反映される。
それだけではない。