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特例の特例

【告知】 新著「国益ゲーム」発売中です。通商のテーマが主ですが、これを読んで今の日本政治やアメリカ大統領選挙を見るとかなり見え方が変わると思います。

 先日、小さな記事ですが「特例公債法の特例法の期限が来るので検討開始」という記事がありました。今のCOVID-19の経済対策とも絡むテーマです。

 これは何かと言うと、「国が赤字国債(借金)を立てる時は、本来はその都度、法律(特例公債法)を作って通さなくてはならないが、2012年に複数年度に亘って赤字国債を認める法律(特例公債法の特例法)を通した。その期限が来る。」という事です。もっとザクッと言うと「国が借金をするために必要な法律の見直し」です。

 2012年度までは赤字国債を発行する際、その都度「特例公債法」という法律を通していました。日本では赤字国債が通例化していますから、この法律が通らないと予算が成立しても執行できません。昔はこの仕組みについて「赤字国債を発行して後世にツケを回す事への贖罪意識を持つようにするために、この法律を通す苦労をする事が必要なんだ。」と言われていたそうです。蓋し至言です。

 民主党政権時代、2010参議院選挙で敗北して少数になった後、参議院でこの法律が通らなくなりました。参議院で生殺与奪の権を握られるので、衆議院でも国会運営が滞るようになります。2012年は本当にこの法律が通らず、財政が崩壊寸前まで行きました(当時の野党は間違いなく財政の健全性より政局を優先しました。)。

 これに懲りたのか、財務省は「毎年、特例公債法を通さなくてもいい法律」を持ち出してきました。具体的には将来3年間の赤字国債を認める法律でした。多分、政権が替わる事を想定して、自民党関係者とも協議した上で、「質面倒くさい特例公債法を飛ばせるような法律を民主党政権の内にやらせよう。」という事だろうと思います。当時の野田政権は野党自民党から脅されたはずです、「この内容を盛り込まないと、今年度(2012年度)の特例公債法は通さない。」と。

 ただ、私は当時からこの「特例公債法飛ばし」には反対でした。上記に書いたような「赤字国債を発行する贖罪意識」が国会の中に無くなり、財政規律がどんどん緩んでいくからです。当時、野田第三次改造内閣でして、この「特例公債法飛ばしの法律」の意義をしたり顔で説明する政務三役も居ました。「こいつ、底抜けにバカだな。」と思いました。あの法律を閣議決定した閣僚は「歴史の法廷に立つ覚悟を持ってやったのか」と、今でも怒りが込み上げます。

 その後、2016年にこの「特例公債法飛ばしの法律」を更新します。今度は5年間延長でした。この時、現政権はこの法律と東日本大震災復興関連の予算関連法をくっ付けて出してきました。野党が反対しにくいようにです。セコいやり方だと思いましたけど、現政権としても「特例公債法飛ばし」について何処か疚しい気持ちがあったのでしょう。そして、その5年の期限が今年切れたという事です。

 昨今、国政全体で「借金をする事への心理的障壁(赤字国債発行)」が下がっています。それには色々な事情がありますが、「政治家が特例公債法を通す苦労をしなくても良くなったから」というのも一因でしょう。赤字国債は予算書に書いてあるだけですから、誰も意識しなくなったのです。正直、国会で「ボーっと生きている」と赤字国債の事など全く意識する事なくやれてしまいます。「特例公債法の特例法」は、確実に国会における財政に対する意識を下げました。

 そして、今、COVID-19の対策で「何処まで財政出動できるのか。」という議論になっています。「補正予算はショボい」、「100兆積め」、「財務省の陰謀だ」、色々と言われています。ただ、私が第一次補正を見て思ったのが、「本当に財政が厳しくて、これしかやれないのではないか。」という事です。財務官僚については大いなる誤解があって、どんな時でもケチ臭いわけではありません。勿論、どの国でもケチ臭い事を言うのが財務省でして、それは職責のようなものです。ただ、日本が苦境に陥っている時には何とかしなくてはという思いを持っているのも財務官僚です。今、私の同期が数多く課長ポストに居ますが、苦境にある時に誰かを見捨てるような事をやる人達ではありません。それを踏まえると、「やりたくてもやれないのではないか。」という事が懸念されます。

 やるべき財政措置については勿論やるべきです。財務省だってそう思っているはずです。しかし、赤字国債を増やす事に対する恐れを持たないのは怖い事です。「自分だったら●●兆投入する」、気前の良い事だけに焦点を当てて喧伝する政治家の言葉には必ず嘘があります。その観点から、先日、テレビで法政大学の小黒一正教授が長期的な財源調達(消費税1%×20年)とセットで50兆調達の話をしていました。ここまで聞いた中で唯一現実味のある政策だなと思いました。

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