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  • S-MAX
  • 2020年04月26日 11:25

秋吉 健のArcaic Singularity:コロナ禍は世界に何を突きつけたのか。社会と経済の構造を根底から見直すための「冗長性」について考える【コラム】

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■見習うべき通信会社の危機管理

筆者はモバイルライターという仕事柄、社会の冗長性について思案する際にいつも思い出すことがあります。それはNTTドコモのネットワークオペレーションセンター(NOC)の取材です。

NOCはその名の通り、同社のネットワーク管理の中枢を担う場所で、NOCがあるからこそ人々は何の障害もなく当たり前のようにスマートフォン(スマホ)で通信を行い、いつでもどこでも電話ができるのです。

この「通信の要塞」とも呼べるNOCを、NTTドコモは東京と大阪の2箇所に持っています。その理由は単純明快、「どちらかが壊れても正しく機能するように」です。


NTTドコモ NOCの心臓部。人々の通信の安全は、ここで24時間365日守られている

日本は世界でも稀に見るほどの災害大国です。台風、地震、火事、水害。ありとあらゆる災害が毎年のように降りかかります。

そんな国であるからこそ、社会基盤である通信インフラが途絶しないよう、平時は関東と関西をそれぞれに担当し、万が一の緊急事態には1拠点だけでも全国を制御できるだけの機能を2拠点ともに備えているのです。

同様の仕組みはKDDIやソフトバンクも持っており、各社ともに通信インフラの断絶がどのような状況でも起こらないよう、万全の体制を整えています。


KDDIは基幹となる通信ケーブルの迂回路も補強整備し、通信途絶への耐性強化に全力を上げる

数年ほど前、とあるイベントでNTTドコモのNOC関連のインタビュー取材を行っていたとき、災害時に出動する移動基地局車を災害対策室室長がじっと見つめながら、このような言葉をつぶやいたのを今でも覚えています。

「(移動基地局車は)本来は使われないことが理想なのです」

年間100億円近い予算を計上してネットワークの保全や災害対策を行う部署は、利益を1円も生み出しません。ましてや1台数千万円とも言われる移動基地局車が「使われないこと」を祈りながら全国に配備するという行為は、利益至上主義の社会では何かと避けられがちなことでしょう。

しかしそれでも配備を行い、万が一に備える。それが冗長性です。企業活動であるがゆえに、「余裕」などという言葉に置き換えるのは失礼だと理解してはいますが、しかしその余裕こそが人々の生活を守り、ひいては企業としての信用につながっているのです。


1円の利益も生まない赤字部署が、企業の信用と信頼を支えている

■人々が互いに助け合える社会を目指して

シャープの一件では、システムダウンを防ぐ方策として「人が殺到するオンラインショップで販売するべきではなかった」とする声が多く聞かれますが、筆者はそれ以前にシステムの冗長性の無さが気になりました。

アカウントシステムへのアクセス過多程度でシステムの広範囲に影響を与えるようでは、マスクの販売がなくともいずれは問題が起きるシステムだったと言えます。故意にDDoS攻撃などを行われた場合、あっさりと陥落してIoT機能は意味を成さなくなったでしょう。

テクノロジー企業であれば、サブシステムを持つなどの方策は取れなかったのか。もしくはシステムダウンする前にアクセスを制限する仕組みは作れなかったのか。さまざまに考えてしまいます。


ココロでつながる前に、ココロの余裕が欲しかった

個人単位でも、冗長性は大切です。例えば筆者の場合、取材用のカメラは常に2台用意しています(トップ画像がそれ)。これは一番分かりやすい例ですが、万が一片方が故障してももう一方で仕事ができるようにです。

事実、過去に1台が故障したことがありましたが、もう1台持っていたおかげで事なきを得ました。

取材時の移動でも、「電車が遅れるのではないか」、「移動先で何らかのイレギュラーに遭遇するのではないか」と常に考え、予定時間の30分~1時間前には現地へ到着するように移動します。

日々の生活を振り返っても、どんなときでも「無駄な時間」を必ず確保します。筆者はそれができる生活だから良いですが、みなさんはどうでしょうか。そんな余裕の作りようがない生活を送っている人も多いのではないでしょうか。


例えばスマホを常に2台持ち歩く。それもまた冗長性だ

シャープが起こした失敗は他人事ではありません。このコロナ禍の渦中にあり、最も恐ろしいことは「余裕の無さが生み出す恐怖」です。恐怖は人を簡単に支配します。そうならないためにも、企業であっても個人であっても、万が一を想定した冗長性が重要なのです。

何度でも書いておきましょう。「備えあれば憂いなし」。万全の備えをしたという自負さえあれば、仮にその想定を超えた未曾有の危機に遭遇したとしても動じることはありません。「あれだけの備えをしてダメなのなら何をしてもダメ」と思えるからです。

今からでも遅くはありません。恐怖に取り込まれないためにも、心と生活に余裕を作りましょう。ただし、無用な買い溜めなどはいけません。心の余裕とは他人への気遣いの余裕でもあります。自分だけの備えではなく、人々が相互に備えられる冗長性が必要なのです。

コロナ禍が過ぎ去った時、世界が効率ばかりを追い求めるのではなく、様々な困難や危機に対応できる冗長性を持った社会へと変革していることを、心から願っています。


人々が再び気兼ねなく手をつないで歩ける世界を目指して、今は頑張ろう

記事執筆:秋吉 健

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