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医療崩壊に加え“葬儀崩壊”も? 感染の有無が未確認の遺体と向き合う葬儀業者の苦悩

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「ものを怖がることは易しいが、正しく怖がることはなかなか難しい」と戦前の物理学者で随筆家の寺田寅彦は語ったという。その名言にある通り、未知のウイルス・新型コロナを恐れてか、真偽不明の情報が出ては消えている。

それは業界全体の信用に関わる死活問題だとして、ある葬儀社はデマ封じ込めにかかった。いっぽう別の葬儀社は、団結して立ち上がった。共通する思いは、コロナに生命を奪われた人への哀悼。世界一の火葬国・日本の「おくりびと」たちが警鐘を鳴らす理由とはーー。

Getty Images

〝隠れコロナ〟を遺族立ち会わせずで火葬? デマが拡散

新型コロナで亡くなった人の葬儀をめぐって、いくつかの噂がSNSやテレビで飛び交っていた。感染者数・死者数ともに勢いが衰えず、「明日は我が身」と感じる昨今、すんなりと無視できない気になる。

そのなかの強烈な一発が、「PCR検査をしていない肺炎の死亡者を、遺族に会わせず火葬を行っている葬儀会社がある」。こんな物騒な話を取り上げたのは、『羽島慎一モーニングショー』(テレビ朝日系)のコメンテーター・玉川徹さんだ。

3月中旬にTwitterで発信された、「心苦しいですが、未検査肺炎患者様も同様の扱いとなります」という匿名葬儀社のつぶやきを話題にした。コロナ感染が判明せず亡くなった人とも最後の別れもできないのかと、胸の詰まる思いをした人も多かったに違いない。本当に遺族は心ゆくまで最後のお別れをできないのか。はたまた単なるデマなのかーー。

関係者はデマと否定 拡散にテレビ局が加担か

「デマですよ」とYouTubeで噛みついたのは、「葬儀葬祭ch」を運営する一級葬祭ディレクターで佐藤葬祭・社長の佐藤信顕さんだ。

佐藤信顕さん

「感染の疑いのある遺体かどうかを判断するのは医療機関です。実際には検査されないまま引き渡される可能性は決してゼロではない。また、〝感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第30条〟では、24時間以内に火葬できるとされていますが、勝手な判断で納体袋のまま火葬するなんて、葬儀社としてできるわけがない。そんな会社なら、とっくに潰れていますよ」

ツイートした葬儀社を斬った佐藤さんは、返す刀でテレビ朝日をも痛烈に批判した。

「国はPCR検査をもっとやれってことを言いたいがために、テレビ局がよく分からないデマを垂れ流すのは本当に止めてほしい」

厚労省は遺体の扱いをどう定義しているか

コロナ感染で亡くなった人にまつわる聞き捨てならないデマ。その火元はどこかと遡っていくと、厚生労働省のサイトに辿り着いた。「新型コロナ感染症についてのQ&A」(葬儀業者の方向け)には、「遺体の搬送作業や火葬作業に従事するものが留意すべき点」が、「感染防止策に係る留意」として、次のように記されている。

・遺体の搬送や火葬場における火葬に際しては、遺体からの感染を防ぐため、遺体について全体を覆う非透過性納体袋に収容・密封するとともに、遺族等の意向にも配意しつつ、極力そのままの状態で火葬するよう努めるものとする。
・また、遺体の搬送に際し、遺体が非透過性納体袋に収容、密封されている限りにおいては、特別の感染防止策は不要であり、遺体の搬送を遺族等が行うことも差し支えない。(手袋、マスク、眼の防護の使用については中略)
・火葬に先立ち、遺族等が遺体に直接触れることを希望する場合には、遺族等は手袋等を着用させる。

「極力そのままの状態で火葬」としつつ、「遺体の搬送は遺族が行える」「手袋をすれば火葬に先立って触れることができる」と、遺族の立場で読めば光明を見る思いがするような柔らかめな書き方。その反面、弔い方についての拡大解釈もできそうな曖昧さが感じられる。そう言えば、「コロナで亡くなっても最後のお別れで触ることはできるらしい」というツイートもあった。

家族とお別れできなかった志村けんさん その背景は

「いやいや、ご遺体に触ったりなどもできません」と、佐藤さんは一蹴した。

「コロナで亡くなった方のご遺体は、医療機関から直接火葬場のほうにお移しして火葬するということになっています。お別れするときにも蓋は開けないで、遺体にも触らないでと。火葬に立ち会うのは葬儀社スタッフを入れて5人までとか、火葬の時間は夕方からとか、詳細な注意点を記した通達が、火葬場から葬儀社各社に届いています」

どうやら、現実はガイドラインより厳しいようだ。ダブル・スタンダードとなった経緯について、佐藤さんはこう続けた。

「新型コロナが指定感染症とされたのは2月初旬ですが、3月に入って、火葬場からの通達が来て厳しくなりました。業界にとって〝火葬場からのお知らせ〟は、ほぼ厚労省の通達に等しい。当初から二類感染症に相当すると考えられていた新型コロナは、一段強い一類感染症に準じた措置へと保健所の判断が変わりました」

感染症には一類から五類まであるが、同じコロナウイルスだとされるSARS(2003年に流行、重症急性呼吸器症候群)とMERS(12年に流行、中東呼吸器症候群)が二類だったため、当初、新型コロナは二類に相当すると考えられていたという。一類と二類の葬儀に対する措置の違いは、一類の場合、感染症に関する法律では24時間以内に火葬できるとされているが、二類についてはその制限がない。つまり、普通に葬儀することが可能だ。



佐藤さんの言う「3月になってから」の経緯を辿ると、東京都の場合、2日に東京都保健局健康安全部長名で葬儀業者の連合会や組合、霊柩車自動車協会などに宛てた一通の文書に行き着く。題して、「新型コロナウイルスにより亡くなられた方の遺体と火葬等の取り扱いについて」。

その内容を厚労省のガイドラインと比較すると、次の部分が削除されている。

・火葬に先立ち、遺族等が遺体に直接触れることを希望する場合には、遺族等は手袋等を着用させる。

2行の消えた通達文は、言外に、「火葬に先立つお別れ(葬儀)は不可」と告げているようにも読める。都内の葬儀社に勤めるベテランのHさんが言う。

「確かにコロナでも普通の葬儀はできるといった解釈や、お棺を開けてお花を手向けられるなど、まるでデマのような話は自分も聞きました。ただ、そういう業界人の解釈も分からないでもない。SARSやMERSのときには、日本で流行らなかったこともあってか普通に葬儀ができたわけですし、保健所からの通達もなかった」

新型コロナウイルス感染による肺炎で死去した志村けんさん=Getty Images

葬儀業界がなかば迷走していた最中の3月29日、新型コロナにかかり闘病中だったコメディアンの志村けんさんが死去した。

「顔を見られずに別れなくてはならなくて、辛い」と、兄の知之さんはワイドショーのカメラの前で語っていた。その悲嘆に暮れる姿を見たとき、私たちは一類に匹敵する新型コロナの本当の恐ろしさを知った。

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