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「失敗」を認めない日弁連会長

 さまざまな角度から司法改革と弁護士界の現状に切り込んでいる、ダイヤモンド・オンラインの連載特集企画「弁護士界の憂鬱 バブルと改革に揺れた10年」の第10回で、山岸憲司・日弁連会長のインタビュー(前編)を掲載しています。今回のポイントは、「改革」が生んだ弁護士の増員政策について、山岸会長が現在、どうとらえているのか、また、その結果からして、「改革」をどう評価しているのか、ということに尽きます。

 全体的な印象からいえば、少なくともこれまでに今回の選挙などを通じて、彼の主張に触れ、また彼のスタンスを分かっている弁護士の方々からすれば、おそらく想定内のご発言であり、彼のイメージを大きく塗り替えるような話ではありません。

 しかし、このインタビューが改めて浮き彫りにしていることもあります。それは、彼が、この「改革」が「失敗」したという受けとめ方を極力しない、つまり「失敗」を認めないという立場である、ということです。このインタビューで記者は明らかに意図的に、「失敗」という認識について会長に質しています。司法制度改革から10年。新司法試験への移行と法科大学院創設による法曹人口の増加、弁護士活動領域の拡大などを進めてきたが、現実にはさまざまなひずみが出てきていて、成功しているとは到底思えない、と。これに対し、概ね次のような見方を示しています。

 ○ 司法制度改革は市民がいつでも、どこでも、だれでも、法的サービスを受けられ、法律によってすべての市民の権利が守られ、司法サービスを受けることができる社会を目指したものであり、法の下の平等を、本当の意味で実現するのは恣意的な権力の行使を排除するということを意味し、透明で公正なルールに則った紛争の解決ができる社会にしなくてはならない。
 ○ それが市民社会でも、企業内でも、行政庁の活動であっても、そのために弁護士が求められ、業容拡大が必要だった。司法試験合格者数を増やし、法曹人口を増やす。企業内弁護士もどんどん増えて行くだろうということだった。
 ○ 社会的法的ニーズに応えられる弁護士を育てる必要が考えられ、法曹養成制度を改革し、法科大学院を創設した。法科大学院については、成功か、失敗かということではなく、現状の分析がまず必要だと考えている。なぜこういう状況になったのか、ということを明らかにしなくてはならない。私としては、司法制度改革の理念は良かったと考えている。しかし、その理念に従って進めてきたけれども、法科大学院は想定されていた学校数より予想以上に多く全国に乱立した。
 ○ 最初に3000人という目標ありきで、いってしまった。司法試験合格者数1500人を超えたあたりからひずみが出てきたというのが、実感としてある。急ぎ過ぎた、急激すぎた、ということだと思う。見誤った、ということについては素直に認めて、軌道修正をして行かなければならないというのが私の思いだ。司法制度改革が失敗だったのか、失敗ではなかったのかということではない。

 半ば推進した側の弁明のように聞こえる彼の発言は、改革の理念は間違っていない、ある種の見通しがあった、まだ改善すればなんとかなる、だから「失敗」ではない、ということのようです。ただ、素直に読めばこれは、不思議な文章です。弁護士のニーズにしても、法科大学院にしても明らかに見通しとは違う結果が出た。ひずみも生まれた。それでもそれを生み出した「理念」は疑わない。結果は明らかに違う形となって現れても、まだ思想は正しいといっていることになります。問題は、なぜ、日弁連がそういう立場を押し通さなければならないのか、ということです。

 記者は、この回答に納得していないように見えます。そして、司法試験合格者年3000人の根拠について質します。山岸会長は例の「フランス並」という、いわば3000人にいたる「通説」ともいえる経緯を言いますが、「なぜフランス並みか」と問われ言葉に窮します。そして、法曹人口の適正人数を出すのは難しい。司法制度改革推進本部で一気に法曹養成制度や新司法試験などをやるということで、大変なエネルギーを使ってやった。3000人は理念で決めた。もっと増やせという話もあった。だが、将来的な社会のニーズと比較して、人口増加のスピード感は合わなかった。1500人については3000人の時より「地に足のついた議論」をしている――と。

 そのあと被疑者国選弁護、労働審判、偏在解消といった、いわば成果につながることに話を移してしまいますが、ここでもなぜ「理念で決めた」という問題に立ち返らないのかは分かりません。分かることと言えば、関係者の方々の「大変なエネルギー」への評価ということでしょうか。

 この記者は、最後の経済誌の記者らしく、次のような突っ込みをしています。

  「弁護士界側の目標人数に、企業での採用数を結びつけるべきではないと思う。なぜなら、企業は企業の論理で、個々の企業の戦略に合わせて、必要なときに、必要な数だけ採用するからだ。弁護士界の要望を聞いて、目標人数を達成させるために必要でもない弁護士をわざわざ採用するような、お人好しの企業はないと思う」

 つまり、これは「受け皿」として引き合いに出される企業ニーズについての、現実です。あくまで採用は企業側の論理であり、「過剰期待はしてくれるな」という、むしろ彼ら側からも聞こえてくる論調の反映とみることもできます。

 これに対する山岸会長の発言が、やや奇妙な印象を与えるものです。

  「弁護士側が、企業にもっと弁護士を採ってくれということではない。司法制度改革審議会で、経済界はもっと弁護士が必要なんだと言っていた。法廷作業ばっかりやっているんじゃない、国際戦略から遅れてしまう、と。経済同友会は弁護士大増員論者だった。経団連は必ずしもそうではないが、増やしていくべきだという立場だった。弁護士界が弁護士を企業に押し込む、ということではなくて、本当は経済界がもっと採ってくれるはずだったということだ」

 山岸会長は何が言いたかったのでしょうか。司法審や経済界は「言っていたじゃないか」と、その責任を言いたいのでしょうか。ただ、こうして見てくると、一つだけ想像できるのは、彼が「改革」の「失敗」という認識から、これからどうすべきか、という発想に立たない、あるいは立てない最大の理由は、やはり「バイブル」とその当時の議論の呪縛にあるのではないか、ということだけです。

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