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安倍首相に直接会って確かめた「なぜ日本の緊急事態宣言は遅れたのか」

AP

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、国が4月7日に緊急事態宣言を発してから2週間が経過した。政府の対応については「緊急事態宣言が遅すぎた」という批判も多いが、舞台裏では何が起きていたのか。宣言の直後に首相官邸に赴き、安倍首相に直接会って取材したという田原総一朗さんに、安倍首相とどんな話をしたのかを聞いた。【田野幸伸・亀松太郎】

ほとんどの閣僚が「緊急事態宣言」に反対した理由

僕が安倍首相に会ったのは、4月10日。緊急事態宣言の3日後だ。

まず「緊急事態宣言がこんなに遅れたのは、なぜなのか」と問いただした。「財務省が強い反対をしたから、遅くなったのか」と。

安倍首相は「そうではない」と答えた。実際は「ほとんどの閣僚が緊急事態宣言に反対した」というのだ。なぜか。

実はほんの数カ月まで、日本の新聞やテレビはみな一様に「日本の財政状態は先進国で最悪だ」と政府を批判していた。国と地方自治体の長期債務残高は約1100兆円、GDP比200%という巨額の「借金」を抱えている。

先進国の中で最悪で、このままだと数年後には破綻するという厳しい指摘が絶えなかった。だから、閣僚たちも「こんな財政事情では、大きな財政出動は難しい。経済に悪影響を与える緊急事態宣言など、とんでもない」と考えたのだ。

僕も最初は、緊急事態宣言に反対だった。ところが、ヨーロッパ諸国やアメリカでコロナの感染が広がり、次々に緊急事態に突入していくのを見て、考えを改めた。世界は「戦時」に突入しているのだから、日本も戦時に即した対応が必要なのだ、と。

これまで僕は、もし第三次世界大戦が起こるとすれば、それは「核戦争」なのだろうと思っていた。ところが、新型コロナウイルスによって引き起こされている現在の状況こそが「第三次世界大戦」なのだと気づいた。

ならば、政府は緊急事態宣言をすべきである。僕が意見を伝えると、安倍首相は「我々もいまは戦時だと考えている」と答えた。

「罰則規定を設けるのは、憲法改正に匹敵する問題」

戦後日本は戦争から距離を置く姿勢を取ってきたので、これまでは「戦時」という発想がなかった。しかし、いまは人類が新型コロナウイルスと戦わないといけない。その意味では、まさに「戦時」だ。

安倍内閣もようやくそういう認識に至って、遅ればせながら、緊急事態宣言を出した。その結果、安倍内閣の支持率が上がるだろうと、僕は思った。しかし、世論調査を見ると、むしろ安倍内閣の支持率は落ちている。

なぜ、落ちているのか。おそらく、国民の多くは「緊急事態宣言なんか出しても、コロナウイルスの感染拡大は止められない。どんどん増えるばかりだ」と考えているからだろう。

国民がそう考える背景には、日本と海外の制度の違いがある。ヨーロッパ各国やアメリカと違って、日本の場合は、休業や外出自粛の要請に強制力がない。アメリカなどでは、政府の指示に反する行動を取ると罰則が科せられたり、逮捕されたりするが、日本ではそのようなことはない。

だから、国がいくら緊急事態を宣言しても、その方針に従わない人が出てくる。休業を要請しても、休業しない店がある。「人とできるだけ会わないように」と言っても、いままで通り友人同士で集まる人たちがいる。

「日本には罰則規定がない」という点について、どう思うか。安倍首相にたずねてみた。

安倍首相は「自民党の内部でも、罰則規定を作れという意見が強い。しかし、戦後は、そういうことをしないようになった」と答えた。そして、「罰則規定を設けるのは、憲法改正に匹敵するような問題だ。野党とも討論して、国民の合意を得なければいけない」と見解を述べた。

逆に「田原さんはどう思う?」と聞かれたので、「僕は罰則規定は反対だ」と意見を述べた。「その代わり、国民と企業にきちんと補償すべきだ。そこがどうも曖昧ではないか」と指摘した。

いまの世界の空気は「ヒトラーが登場した時代」に似ている

BLOGOS編集部

新型コロナウイルスの問題で気になるのは、世界中で「反グローバリズム」のムードが強まっていることだ。どの国も外国からの出入りを遮断している政策を取っている。

さらに、罰則規定に象徴されるように、政府が国民の生命と生活を守るために管理強化の流れが起きている。そして、少なからぬ国民が「政府に頼りたい」という気持ちになっている。

これは、現在の状況からするとやむをえないと言えそうだが、とても危険なことだ。第一次世界大戦の後、ヒトラーが登場した時代の空気に似ているのではないか。

トランプのアメリカや習近平の中国などは自国第一主義でも行けるだろう。しかし、日本にはグローバリズムが必要だ。だから、ポストコロナをどう考えるべきかというときに、日本から世界に向けて「新しいグローバリズム」「新しいデモクラシー」のあり方を提言すべきだ。

そう安倍首相に伝えると、「それはぜひ必要なことだ。今後、考えていきたい」という答えが返ってきた。

後日、西村経済再生担当大臣にも同様の提案をしたら「大賛成だ」と。「そういうチームを作って考えていきたい」と話していた。

新型コロナウイルスのために、世界はいま大きな転換点を迎えている。ピケティなどの学者からは「資本主義が行き詰まっている」という指摘もある。むしろ世界の考え方を変えるチャンスだと捉えて、新しい提言をしていくべきだろう。

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