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外国からの選挙介入、「ディスインフォメーション」から民主主義を守れ - 川口貴久 / 国際安全保障

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1.民主主義が直面する選挙介入のリスク

2020年米国大統領選挙が近づくにつれ、外国政府による選挙介入のリスクが注目を浴びている。

もちろん外国政府による選挙介入は近年に限った現象ではないが、今日では選挙活動、有権者の合意形成、投開票といったプロセスが電子化・デジタル化され、選挙介入の規模とその影響がかつてない程大きくなっている。

そして、現在、民主主義国家・社会が直面している選挙介入は死活的な問題になりうるものである。なぜなら、選挙介入は特定の候補者・政党への攻撃に留まらず、選挙そのものや代議制民主主義に対する攻撃だからである。

言い換えれば、選挙介入の目的は、候補者・政党・政策等の「特定対象」への政治不信を高めると同時に、全般的な「政治制度」への政治不信を高めることである。少なくともロシアによる2016年米大統領選挙への介入は、この2つの側面で米国民の政治不信を高めることが目的であった。(注1)

より問題が大きいのは後者の「政治制度」への政治不信である。特定の政治家・政党・政策に対する有権者の信頼が失われても、その政治的信頼は民主主義の枠内(政権交代)で回復可能だ。しかし、民主主義という仕組み自体に対する信頼が失われれば、制度内での回復は困難である。そして、今のところ民主主義に代替可能な政治制度は存在しない。これこそが民主主義が直面する最大のリスクである。

当然、外国政府による介入が選挙結果を変えたかどうかは検証しようがないが、介入者にとってはそれで十分なのだ。国民が「外国の介入によって選挙結果が変わったかもしれない」(下線強調は引用者による。以下同じ)と疑問を抱くだけで、その選挙で誕生した政治家や政策の正統性は損なわれてしまう。

本稿では、まず、外国による選挙介入の手法を俯瞰する。その上で、介入の重要な構成要素である「ディスインフォメーション(disinformation, 以下、「ディスインフォ」とする)」を深掘りする。ディスインフォは一般的には「フェイクニュース」と呼ばれる場合もあるが、「フェイクニュース」という言葉は曖昧かつ多義的でミスリーディングであるため使用するべきではない。ディスインフォの本質は情報の真偽それ自体よりも、標的とする集団・社会に分裂と分断を引き起こすことにある。最後に、日本で講じるべき対策と論点を提示したい。

2.民主主義を揺るがす様々な選挙介入の手法

選挙介入の手法は、偽情報流布を始めとするディスインフォに限定されない。ロシアによる2016年米大統領選挙では、体系的な手法が確認された。(注2)米国に加え、欧州、台湾等を例に、いくつか特徴的な手法を列挙する。

政治家・政党や選挙関連インフラへのサイバー攻撃

第一に、政治家や政党に対するサイバー攻撃と機密情報の暴露である。これは、どちらかといえば、特定の候補者や政党を貶める狙いが強い。

2016年米大統領選挙では、攻撃者、すなわちロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)は民主・共和両党関係者300人超にフィッシングメールを送付し、不正に入手した権限情報を悪用し、米民主党全国委員会(DNC)の内部文書やクリントン候補の選挙対策責任者ポデスタ(John D. Podesta)氏のEメールを盗み、暴露した。

米国だけではない。2017年フランス大統領選挙決選投票日(5月7日)直前の5月5日、テキスト共有サイトPastebinに大量のファイルがアップされた。これはマクロン(Emmanuel Macron)大統領候補の選挙事務所から盗み出されたメール情報等であり、Twitter上では#MacronLeaksのハッシュタグとともに情報が拡散し、6日にはWikiLeaksが情報(マクロン陣営から漏洩した数万通のメール、写真、添付ファイル等の約9GB)を掲載した。

豪州でも選挙介入目的と考えられるサイバー攻撃が確認された。2019年2月18日、豪・モリソン(Scott Morrison)首相は、同国主要政党がサイバー攻撃を受け、その背景に「洗練された国家アクター」の存在を指摘した。報道によれば、翌3月、豪通信電子局(Australian Signals Directorate: ASD)は、攻撃を中国国家安全部によるものと判断した。ただし、攻撃者が収集した情報が5月の豪総選挙で悪用された証拠はないという。(注3)

第二に、選挙インフラや関連ベンダー等に対するサイバー攻撃である。これは、特定候補というよりも、選挙自体の正統性を失墜させる狙いの方が強い。

選挙インフラ等へのサイバー攻撃と聞いて、イメージするのは投票結果・集計結果の改竄かもしれないが、米国土安全保障省をはじめ各国当局や専門家は、「改竄のリスクはゼロではないが極めて低い」旨と評価している。(注4)

しかし、有権者にとっては重要なことは、選挙関連インフラに対してサイバー攻撃があったという「事実」である。サイバー攻撃の事実や改竄の「恐れ」だけで、その選挙の信頼性は失われる。

また結果を改竄されなかったとしても、投票場や社会インフラ(電力・交通等)に混乱が生じれば、選挙のやり直しや無効の声があがるかもしれない。

ディスインフォと影響工作

以上は、どちらかといえば「サイバー攻撃」に近い選挙介入である。だが、第三の手法は、偽情報流布に限定されないディスインフォであり、影響工作・浸透工作(influence operation)である。米司法省によれば、影響工作活動とは「社会分断を生じさせ、民主制度への信頼を貶め、あるいは地政学上の目標を達成するために、政治感情や公の議論に影響を与えることを意図」した活動である。(注5)

したがって、この手法は、確かに特定の候補者・政党・政策への支持・不支持に焦点を当てる場合があるものの、本質的には選挙そのものや民主主義に対する攻撃とみて良い(この定義はかなり幅広いため、前述2つの手法も影響工作活動に含まれるだろう)。

2016年米大統領選挙および2018年米中間選挙に関連し、ロシア・サンクトペテルブルクに所在するインターネット・リサーチ・エージェンシー(以下IRA)社は、手動また自動プログラムを用いて、Facebook、Twitter、Instagram上で、米国の政治感情に影響を与えうる大量のメッセージを投稿した。またIRA社は2016年米大統領選挙前後、Facebookの正規サービスを利用し、同社に費用を支払って、少なくとも3,393点の政治広告を出稿した。RTやSputnik等の政府系メディアも同様のメッセージを発信・拡散した。

ロシアだけではない。米国情報コミュニティは大統領令13848号に基づいて、外国政府による米中間選挙(2018年11月6日)への介入を調査し、「投票妨害、集計結果の改竄、集計妨害等の米国の選挙インフラへの攻撃」は確認できなかったものの、「ロシア、中国、イランを含む諸外国による影響活動と情報キャンペーン」を確認した、と評価した。(注6)

欧州で有名なディスインフォは、2017年ドイツ連邦議会選挙中の「Our Lisa」物語であろう。「Our Lisa」物語とは、アラブ系イスラム教徒の移民らが13歳のロシア系ドイツ人の少女Lisaを誘拐し、暴行したと報じたもので、後に捏造と判明した。しかし、路上では反移民・難民デモが起こり、独語のロシア系メディアは右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」に好意的なメッセージを発信し、AfDの躍進を支えた可能性がある。(注7)

メルケル(Angela Merkel)首相の報道官が米オバマ(Barack Obama)政権の報道官ローズ(Benjamin Rhodes)に対して語ったところによれば、ドイツ政府は調査の結果、こうした捏造された情報は最終的に「ロシア人」によるものとの判断を下した。(注8)

2018年11月の台湾統一地方選挙(九合一選挙)も中国からのディスインフォがあった可能性がある。台湾の公安事案・防諜を主管する法務部調査局の呂文忠局長は立法院内政委員会での答弁で、台湾統一地方選で「外国勢力による選挙介入」を把握し、外国勢力とは「中国大陸」であると明言する。(注9)

とくにオンライン上のディスインフォの疑いが強かったのは高雄市長選挙である。下馬評では不利とみられていた国民党・韓国瑜候補(2020年総統選挙の候補者)が、民進党の牙城・高雄市で当選した。選挙期間中に公開されたYouTube動画「王世堅大戰韓國瑜 竟讓柯文哲笑到翻過去」(2018年11月15日公開)は再生数が伸び、1,500万回再生され、「韓流」ブームの一翼を担った。

だが、台湾や高雄市の人口・有権者数を踏まえると、この再生回数は作為が働いた可能性が高い。問題は作為の発信源(台湾有権者or大陸)とその組織性であり、大陸からの関与が指摘されている。(注10)

上記以外にもアフリカ大陸や東南アジア各国で選挙介入が疑われる事態が多数確認されている。(注11)

3.「フェイクニュース」とディスインフォ

これらディスインフォへの対応は難しい。前項で紹介したディスインフォは、明らかな捏造(偽情報)もあれば、そうではない政治広告や特定候補の応援が含まれるからである。

ここでは「フェイクニュース」と比較検討しながら、ディスインフォの概念や特徴を検討してみたい。

「フェイクニュース」という言葉は使うべきではない

政治やメディアのみならず、「フェイクニュース」という言葉は日常会話でも市民権を得たようにみえる。しかし、この「フェイクニュース」はミスリーディングな概念であり、使用すべきではない。本稿では(また筆者によるその他の著作でも)「フェイクニュース」という言葉を可能な限り避けてきた。

「フェイクニュース」とはニュースの形式を装った偽情報であるが、(注12)この定義は曖昧でかなり幅広い。こうした定義に基づけば、「フェイクニュース」は風刺、単なる誤報、イエロージャーナリズム、ミスリーディングな記事、(外国政府等による)悪意ある捏造等の全てが含まれる。

大手プラットフォーマーも「フェイクニュース」を幅広い概念として捉えている。例えば、Facebook社は「フェイクニュース」の定義として、「偽の事実」「偽のアカウント」「偽のオーディエンス(筆者注:フォロワーやムーブメントの偽装)」に加えて、「偽のナラティブ(物語)」をあげる。「偽のナラティブ」とは、「不一致を利用し、紛争をつくるため、意図的に対立的なヘッドラインや言い回しをすること。事実関係に同意していたとしても、異なるメディアや視聴者は適切な物語が何であるかについて全く異なる見解を持っているため、もっとも対処が困難な領域」である。(注13)

性質の異なる現象、つまり異なる対策が期待される現象を「フェイクニュース」と一括りにするのは、その実態把握や効果的な対応を妨げている。

もはや「フェイクニュース」という言葉は、「テロリスト」の様に、権威主義国家において政府が反体制派を取り締まるためのレッテルと化し、民主国家においても政敵やメディアを貶めるための手段と化している。「トランプ大統領は史上最高/最低の大統領である」という単なる価値判断すら、「フェイクニュース」として批判されることとなる。また、「フェイクニュース」という言葉は外国による選挙介入のリスクを過小評価させる恐れもある。(注14)

ディスインフォの焦点

「フェイクニュース」研究でよく引用されるワーデル(Claire Wardle)らの研究によれば、少なくとも以下3つを峻別すべきである。

  • Mis-information:「誤った情報」であるが「悪意がない」もの
  • Mal-information:「正しい情報」であるが「悪意がある」もの
  • Dis-information:「誤った情報」かつ「悪意がある」もの(注15) 

他方、安全保障研究の中では、ディスインフォの本質は情報の真偽そのものではなく、社会の矛盾や分裂を極大化する点を重視する分析もある(ワーデルの分類でいうMal+Dis-informationの重視)。ジョンズ・ホプキンズ大学のリッド(Thomas Rid)は次のように指摘している。

ディスインフォとは感情的反応を活性化させるもので、その目的は対象エンティティを分断させ、腐食させることにある。情報の真偽に焦点を当てるのはミスリーディングであり、感情と共鳴する時、手段(measures)はアクティブ(active)になる[注]。腐食(corrosion)がもっともよく機能するのは、それが既存の亀裂や歪み、または「矛盾」を悪用するときである。…後略… (注16)
筆者注:Ridの氏新著のタイトルおよびテーマであるActive Measuresとかけている。

「矛盾」とは、対象エンティティ(国家、社会、特定のコミュニティや選挙区)が抱える問題や争点である。実際、攻撃者は「矛盾」に焦点を当てている。例えば、2016年米大統領選でIRA社が投稿したコンテンツの大部分(Facebookへの投稿の92.9%,Instagramへの投稿の81.9%,Twitterへの投稿の94.0%)は「クリントン」「トランプ」に言及せず、米国社会・有権者の分断を促すような移民、人種、銃規制、ジェンダー等に係るものであった。(注17)

こうした状況は、情報の真偽に焦点を当てるアプローチはディスインフォ対策として十分ではないことを示唆している。

コンテンツではなく発信源にもとづく対処

選挙介入の話に戻ろう。外国による選挙介入対策で重要となるのは情報の発信源である。前述のとおり、ディスインフォは必ずしも情報(コンテンツ)の真偽だけで判断できないことに加えて、情報の真偽判断や規制は国民の「表現の自由」等の規制に繋がる恐れがある。

しかし、外国政府やその下部組織によるディスインフォは全く事情が異なる。(注18)それは「国際違法行為」、(注19)国際法が禁止する「不介入原則違反」に該当する恐れがある。選挙介入は国際法の不介入原則に違反すると、例示的に宣言されている。

2016年米大統領選挙直後の11月10日、国務省法律顧問のイーガン(Brian Egan)は声明を発出した。彼によれば、国家によるサイバー活動は、他国による違法介入(unlawful intervention)を禁止する国際法と衝突する可能性があり、具体例として「例えば、国家によるサイバー活動、他国の選挙開催能力を妨害したり、他国の選挙結果を改竄したりするような活動は、明らかに不介入原則違反となるだろう」と述べた。(注20)

ディスインフォがそれ単独で直ちに武力行使(use of force)に該当する可能性は低いものの、サイバー攻撃等の他の手段との組み合わせやその効果によっては、自衛権行使の要件とならないとはいえない。ディスインフォに限定したものではないが、2016年米大統領選投票日の直前の10月31日、オバマ大統領はプーチン大統領に緊急回線で「国際法は、武力紛争法を含めて、サイバー空間での行為にも適用される」との言葉とともに警告したと報じられた。(注21)

これが事実なら、ロシアによる選挙介入を武力紛争法の範疇内と捉えたことになる。またドイツのある専門家は前述の2017年総選挙を前に「ロシアによる選挙介入があれば、欧州各国は北大西洋条約5条を発動すべきである」と主張した。(注22)

国際法上の解釈と宣言政策は慎重に区別されるべきだが、ディスインフォを含む外国政府による組織的かつ大規模な選挙介入が重大な報復を引き起こす可能性は否定できない。

報復を前提とした場合、問題はディスインフォの発信源の特定(アトリビューション)である。サイバー攻撃やディスインフォのアトリビューションは、情報機関の判断と同様に100%断定できるものはない。アトリビューションは常に一定の不確実性を有するものである。(注23)

プライベートメッセージへの浸透

ディスインフォのアトリビューション問題をさらに複雑にしているのは、端末間(Peer to Peer: P2P)通信プラットフォーム、つまりプライベートメッセージアプリである。

FacebookやTwitterは公開範囲の設定にもよるが、基本的にはオープンなプラットフォームであり、投稿者のコンテンツに誰でも自由にアクセスできる。他方、LINEや海外で普及しているメッセージアプリWhatsAppは基本的に個人間のクローズドな空間であり、外部からは見えない。

しかし、そこでは公然と選挙活動や政治活動が行われている。WhatsApp社は2019年4月2日、直近のインド総選挙に関連する偽情報が流布されていることを踏まえて、対策を強化すると発表した。その発信源の多くは、インド国内の政治政党とみられている。

状況は台湾でも同様である。台湾では人口の90%以上がLINEを利用し、シニア層も当然のように利用している。2020年の台湾総統選挙・立法委員選挙期間を通じて、LINEにより有権者間での政治的メッセージが交換されている(写真1を参照)。投票日前夜、台北市内・総統府前の凱達格蘭大道で開催された民進党支持者の大規模政治集会でも、参加者はスマホを片手にLINE等を操作し、受信・情報を拡散していた(ただし、集会会場は人混みのせいでネットワークが非常に繋がりにくい状態であった)。(注24)

写真1: 台湾有権者のLINEの政治的メッセージ

(左)高雄市内のあるタクシー運転手(国民党支持者)のLINEプロフィール画面、(中・右)プライベートメッセージを経由する民進党支持のメッセージ。
出典:いずれも2020年台湾総統選挙・立法委員選挙期間中に筆者が撮影したもの。

こうした個人間のメッセージはサービス提供・運営側のプライバシー保護により、当局や研究者によるディスインフォの検知・対応や攻撃者の特定を困難にしている。台湾に本社をおくセキュリティ企業TeamT5の分析によれば、LINEは台湾のシニア層コミュニティでも広く普及し、シニア層は若年層に比べてデジタルリテラシーが相対的に低いため、ディスインフォのもっとも脆弱な標的となっている。同社は、マレーシア、シンガポール、中国等の外資企業が発信する親大陸・親国民党の偽情報を多く確認したという。(注25)

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