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東京水道は「世界一」のシステムで海外市場に挑む!

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「与えるだけ」のODAは見直せ

ところで、マレーシア訪問ではもうひとつ強く印象に残ったことがある。ミッション団は、日本のODAで開発を進めている導水事業の現場も視察した。マレーシア北部から首都圏まで、内径5メートル、総延長45キロのトンネルを掘って、原水を運ぶという事業だ。プロジェクト総額は1200億円で、うち820億円を円借款で賄っている。

リンク先を見る日本のODAによる導水事業の現場を視察

マレーシアにとって意義深いプロジェクトであることは間違いないが、話を聞いているうちに腹が立ってきた。日本のODAの「足りなさ」が、凝縮されているように思えたのだ。日本の建設技術の粋を尽くして一生懸命ダムを造り、トンネルを掘って、そこで終わり。なぜ浄水場まで造ろうという発想にならないのだろうか。浄水場があれば、例えば東京水道がその維持管理に進出することができる。ハノイのように、とりあえず水を卸すことだってできるだろう。もし“水メジャー”が目をつけたら、「利権」は彼らのものになるのだ。

そんなことが起こるのは、さきほども述べたように、そこに「ビジネスをつくる」という発想がないからにほかならない。ただ最低限のインフラを提供して「あとはご自由に」というのと、日本の海外ビジネスに結実させる——もちろんそれは、当事国にも多大なメリットをもたらす——のとでは、雲泥の差がある。「与えるだけ」のODAのあり方は、そろそろ真剣に問い直されなければならない。

縦割りを廃し、オールジャパンで

携帯端末は、「中身」の多くがメイド・イン・ジャパンであるにもかかわらず、最終製品になると外国製。バラバラに部品を売るだけならば、必然的にそうなる。鳴り物入りの新幹線輸出にしても、いまひとつうまくいっていないのは、事実上車両メーカーが単独で商売に行っているからだ。運行システムなども含めたパッケージとして販売すれば、競争力も付加価値も飛躍的に高まるし、中国に車両だけ持っていかれるようなこともなかったはずである。

実は水道技術に関しても、ろ過装置など優れた「部品」(要素技術)が日本から世界中に輸出されている。それを活用したパッケージでヴェオリアやスエズが稼いでいるという構図も、他の産業分野と大差はない。

我々がやりたいのは、水ビジネス市場に戦艦大和の旗を立てて、民間企業を結集した連合艦隊のパッケージを確立することである。それができれば、利益も雇用も日本に戻ってくるだろう。繰り返すが、日本には水道に関して他にまねのできない技術とノウハウがあるのだ。

海外進出を目指す過程でもあらためて痛感したのは、そうしたオールジャパン体制を築こうとする時に最大の障害となるのが、旧態依然の“省庁縦割り”だということである。東京水道のメンバーは、都の考えを説明するために5つのお役所を回らなければならなかった。水道事業を経営するのは自治体だから総務省の管轄だが、水質管理に関しては厚生労働省。海外展開の窓口は外務省で、企業の海外進出を統括するのは経済産業省。さらにインフラ整備は国土交通省——という具合だ。水ビジネスひとつに5省が縦割りで絡むというのは、やはり尋常ではなかろう。

海外進出失敗の根底にある「思想の欠如」

それにしても、これだけグローバル化の重要性が叫ばれながら、日本が世界市場で次々に失敗を重ねていくのは、なぜなのか。その根っこには、思想レベルの問題が横たわっているように、僕には感じられる。

例えば19世紀後半、欧米列強の脅威にさらされた日本で醸成されたのがアジア主義だった。立ち遅れたアジアの国々の近代化を促し、共に列強に対していこうという考え方である。そうした思想の片鱗でもあれば、さきほどの水道インフラのODAのような話にはならないはずである。アジア諸国に対しては何か戦争の贖罪意識のようなものをいまだに引きずって、「あげるだけ」の経済協力に終始しているかのように見える。

リンク先を見る「思想の欠如」は、戦前にもあった。決定的だったのは、人材育成システムの硬直化だ。旧日本陸軍を例に取れば、陸軍士官学校の成績いかんで陸軍大学校に行けるかどうかが決まる。陸軍大学校で1点でもいい成績を残した者が出世し、大将になる。そうやって生み出されたのが、国家存亡の分かれ道において決断できなかった東條英機をはじめとする「秀才」たちだった。

それ以前には藩閥があり、出世にコネもあれば、大胆な抜擢もあった。露骨なコネの横行の反動として広まった「日本的公平主義」とでも呼ぶべきものは、組織を活性化するのに不可欠な抜擢の芽も摘んでしまった。そうした公平主義が蔓延したのには、平時が長く続いたという時代背景も大きく影響している。日露戦争までの混乱期には、「とにかくできそうな奴」を抜擢しなければ、組織が立ち行かなくなる危険性が常に意識されたのである。

「変人」が世の中を動かす

戦後も同じことが繰り返された。混乱期を経て、優秀な官僚たちは、とにかく日本を再建しようと奔走した。呼応するように、ソニーやホンダが荒々しく立ち上がっていった。しかし1970年代ごろから、日本社会は秀才が組織の上層に跋扈(ばっこ)する形に徐々に変貌した。試験で他人よりも1点多く取る術には長けているものの、東條のように「リーダーシップのないリーダー」ばかりになってしまったのである。

昨年、僕は自分のツイッターに「若者は隣の秀才を目指すな、変人になれ」と書いた。自分よりも秀才である「隣の秀才」を追いかけていても、オリジナルの考えは生まれてこないし、リーダーシップも身につかない。僕が仕事を共にした小泉純一郎とか石原慎太郎のような、秀才とは無縁の「変人」こそが、世の中を動かすのだと思う。

日本の集団主義的な組織は、きめ細やかな仕事を行うのには適している。だからこそ、東京都水道局も3.1%の漏水率や時々刻々の水量・水圧調整を実現できた。これらの仕事ぶりはまさに「宝」だ。しかし、そうした宝をビジネスにつなげるという発想は、「変人」でなければ生み出すことができない。今の日本には、「宝を売る」と宣言できるような、既存の考え方を打ち破るリーダーが必要なのだ。

日本の社会に潜在的な力がないとは思わない。数ある宝を生かし切れていないのだ。あの戦争以来、初めて「国難」という言葉が使われた「災後」の今こそ、宝を探し当て、新たな物語を書き始める時である。数ある物語の一つに加われるよう、東京水道の海外進出事業を何としても成功に導きたいと思っている。

(2012年4月24日 談)

写真提供=東京都
構成=南山 武志
インタビュー撮影=大久保 惠造

 

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東京都水道局「国際貢献の新たな取組」

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Profile
聞き手・間宮 淳 MAMIYA Jun
nippon.com編集委員。中央公論新社編集委員。1959年大阪府生まれ。東洋経済新報社『金融ビジネス』編集長、『中央公論』編集長を経て現職。

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