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「私たちは無目的に“今”を見ることができない」しょうぶ学園福森伸・猫町倶楽部山本多津也対談

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「違い」を持った人々が集まるために必要なこと

異なった価値観を持った人々が集まる組織づくりは、現代社会においても大きなテーマとなっている。では、そうしたコミュニティを生み出すために必要なことはなんなのだろうか。

福森「人間が人間らしくいるためには本来の性質が出せる場所が必要なんでしょうね。僕自身はもともと、人と“違う”ことへの関心が強いんです。子供の頃からマイノリティへの憧れがあった。障がいを持つ人達のことも“違う”からこそ次第に彼らのありのままを肯定したいと思うようになったんでしょう」

山本「猫町倶楽部にも、いわゆるちょっと変わった人が入ってきたりするんですが、そういった人を周りが一生懸命受け入れていこうと試行錯誤しているうちに、その人も周りの人も変わっていって、次第に対立構造が消えていく、というようなことがあります。変わった人を排除しようとするんじゃなくて、違いを面白がって許容する、という空気になっていく。人の意見を否定しない、というルールがあるからぐっと堪える。こういうことが広義では自分と違う相手を受け入れる訓練になっているんじゃないかと思うんです」


違いを面白がるという話に、福森さんは「よくわかる」と同意する。決して馬鹿にするわけではなく、面白がる。その態度が、これまでにないものを創造することもある。

福森「昔、ものづくりの工房で、僕に色々と指導してくれていたデザイナーの先輩が、僕が“違うでしょ”というところで決まって“面白いじゃん”って言うんですよ。たとえば木の工房で、普通はなめらかに仕上げるべき板の表面を釘で引っ掻いている利用者がいたんでする。僕は“違うでしょ”と言いたいんだけど、デザイナーの先輩は“釘でやってるじゃん、面白いじゃん。多分面白いかもよ”というんです。結局、その発想が発展して、板を釘で傷つけた上から漆を塗って、釘の穴ぼこのところだけが黒くなるんで線がくっきり出たのを装飾としてデザインしたお盆が商品になりました。僕らと違うことを面白がるところから始まる。面白がるっていうことは、人間の行為に興味を示すことだから」

※商品となったお盆

「ありのままがあるところ」の、ありのままでいたくない職員

しょうぶ学園は、利用者にとっては著書のタイトルのように、『ありのままがあるところ』だと福森さんは言う。では、職員にとってはどのような場所なのだろうか。

福森「しょうぶ学園は、利用者さんにとっては“ありのままがあるところ”だけど、職員はというと必ずしも皆がありのままでいたいわけではないんです。たとえば利用者さんの作った作品を、職員はより売れることを目標にしています。もちろん利用者にはそれを押し付けてはいけないけどね。何しろまずは売れないと次の材料が買えないし、売れるということは認められるということだから。外部にも評価を求めたんです。それが正しいかどうかがずっと分からなかったけど、やっぱり売れるということは「正しかった」という評価に繋がりやすいんですよね、世の中は。だから本当は、『ありのままがあるところにいる、ありのままでいたくない職員』が正しいですね」

福森さんはしょうぶ学園について「ありのままがあるところ」の意味を問われることも多いという。

福森「“みんなが今のままでいいと思っているわけではない。ありのままのある人たちはいっぱいいるけど、今から私はもっとこうなりたいというありのままの欲の強い人もたくさんいます。そういう意味で、それぞれのありのままがあるところなんです”と答えています。そう考えると結局、どちらもありのままなのかもしれませんね」

山本「両方いないと成立しないですよね」

***

福森さんの著書『ありのままがあるところ』には次の様な一文が登場する。

人の暮らしには、「能動的に自分で人との関わりをつくる」と「受動的な安心したケアのある暮らし」という、二つの条件が基本的に確保されることが重要になる。

私たちが生きている社会に、果たしてこの二つは確保されていると言えるだろうか。私にはどうしても能動的なあり方ばかりが重宝され、ともに必要であるはずの後者と、それを担う人々が、あまりにも軽視されているように思えてならない。

本書ではこの両方を施設で実現するためとして次のように書かれている。

何かを教えて利用者を社会に合わせていくのではなく、彼らの行いを支援者が社会化していく。社会の考えを変えていく。

障がいの有無に関わらず、人間がそれぞれ持っている本来の性質には多彩なバリエーションがあるはずだ。それらが仮にもし、社会システム維持のためのさまざまなルールによって埋没させられることさえなければ、誰かのできないことと誰かのできることをそのまま持ち寄って、私たちは今よりももっと“ありのままのあるところ”に暮らすことが可能になるのではないだろうか。

新しいウイルスの脅威にさらされた私たちの社会が徐々にその脆弱性をあらわにしつつある今、改めて私たちの社会のあり方について考え直したい。

〜プロフィール〜

福森伸(ふくもり・しん)
1959年鹿児島県生まれ。知的障がい者支援施設しょうぶ学園統括施設長。1983年より「しょうぶ学園」に勤務。木材工芸デザインを独学し、「工房しょうぶ」を設立。特に2000年頃より縫うことにこだわってプロデュースした「nui project」は、国内外で作品が高く評価されている。また、音パフォーマンス「otto&orabu」・家具プロジェクト・食空間コーディネートなど「衣食住+コミュニケーション」をコンセプトに、工芸・芸術・音楽等、新しい「SHOBU STYLE」として、知的障がいをもつ人のさまざまな表現活動を通じて多岐にわたる社会とのコミュニケート活動をプロデュースしている。

山本多津也(やまもとたつや)
読書会コミュニティー「猫町倶楽部」主宰者。
1965年、名古屋市生まれ。大学卒業後、実家の住宅リフォーム会社を継ぎながら、2006年、名古屋で読書会を始める。SNSを使った発信や独自の活動が新聞、テレビに取り上げられ参加者が急増。現在、読書会は名古屋、東京、大阪、金沢、福岡の5都市で開催され、1年間のイベント数は約200回、参加者数は延べ9000人を超える。著書に『読書会入門 人が本で交わる場所』(幻冬舎新書)がある。

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