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「私たちは無目的に“今”を見ることができない」しょうぶ学園福森伸・猫町倶楽部山本多津也対談

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休まず学び、効率的に生産し、24時間消費する。

私たちの社会では長らくこれが当たり前のこととされてきた。当たり前の背景には、ときに生死にも関わるさまざまな社会問題が無数に横たわっているが、それらは当たり前を維持するためにはやむを得ない犠牲だという空気が世の中の大部分を占めていたように思う。

けれども、約1ヶ月前に突如として現れ、各所に大きな影響を及ぼし続けている新型コロナウイルスは、あの東日本大震災を経てもなお変わることのなかった私たちの社会に、いよいよ逃れようのない転換を迫っている。既存の社会システムに組み込まれ生活することで、私たちが何を得て、何を失っていたのか。当たり前だと思ってきた営みが半ば強制的に足止めされたこのタイミングでこそ、私たちは改めて、本当の幸せや豊かさについて、考え直さなければならないのではないだろうか。

そのヒントを探るべく、昨年12月に著書『ありのままのあるところ』(晶文社)を上梓した鹿児島県の障がい者福祉施設「しょうぶ学園」園長の福森伸さんと、日本最大規模の読書会「猫町倶楽部」代表の山本多津也さんにお話を伺った。山本さんは昨年『読書会入門』 (幻冬舎新書)を出されており、私も編集に協力している。私が注目したのは、お二人の理想とするコミュニティのあり方が、業種は異なれど、ともに人に社会化を強いることなく“より自分のままでいられる場所”である、という点だった。


「しょうぶ学園」は1973年に鹿児島に誕生した。現在は知的障がいや精神障がいを持つ130人ほどがここで生活し、約90名の職員が彼らの支援を担当する。この施設が他と一線を画すのは、入所者にとっての、まさに「ありのまま」を許容しながら運営されているという点だ。一般的にこういった施設の多くは、障がいを持つ人達が、持たない人たちと同じ様に暮らせるようになるために、職員の指導の下、できないことを一つでも多くできるようにする訓練が行われる。ところがしょうぶ学園では、入居者達が社会生活を送るための訓練などに重点を置くことはせず、入所者達は毎日好きなことを好きなように、好きなだけやる。ある人に針と糸を渡せば布が丸まってしまうまで縫い続ける。またある人に板とノミを渡せば木くずになるまで板を彫り続ける。職員たちは、入所者たちがそんな風に好きなことを満足のいくまでやり続けられるようサポートを行っている。

私たちは無目的に「今」を見ることができない

20代半ばの頃、福森さんは親が経営していたしょうぶ学園で働き始めた。当初は社会性や協調性を入所者に身につけてもらおうと、熱心に指導訓練を行っていたそうだ。ところが、なかなか上達はしない。仕事に追い詰められた福森さんの転機となったのは、同じく施設で働いていた妻の「できないことはしょうがないんじゃないの? やりたくないことをなんでやらせるの?」という一言だった。 入所者の作業を見つめ直す中で、福森さんには大きな気付きがあったという。

福森「私たちはいつも、これをやり遂げるために今はこうしようと先の目標や成果のことばかり考えています。でも利用者さんたちはどうもそうじゃないぞ、と。彼らは“無目的的”に、ただ目の前のことだけに注意を向けている。例えば私たちは洗濯機を回すと終わるまでの間に何をしようかと考えます。でも利用者さんの中には、洗濯機を回すと終わるまで30分間じっとその場で立っている人がいるんです。“何をしているの?”と聞くと“待ってる”と答える。最初はなんだかよく分からなかったけど、よく見ていると段々わかるようになってきました。彼にとってそれは“待っている時間”であって、無駄な時間じゃないんです。私たちは先の目的ばかりに囚われすぎて“今”の自分を認められない。利用者さんたちは、そんな無目的な今の価値を知っているんです」


ルールの少ない読書会、ルールを疑う施設

「“無目的的”という言葉にとても共感しました」という山本さんが主宰する猫町倶楽部の読書会は、2006年に名古屋で生まれた。当初、住宅リフォーム業を営む山本さんの仕事仲間数名で始まった読書会は、現在では東京、名古屋をはじめとして日本各地で年間200回、延べ9000人が参加する巨大コミュニティへと成長した。読書会へ参加するには必ず課題本を読了している必要があるが、当日のルールはたった一つ。“人の話の否定はしない”ということだけだ。正解や一つの結論を目指したりはせず、ただそれぞれが自分の思ったことを言い合うという読書会も、「無目的的」だと山本さんは言う。

山本「誰かの感想に対して“私はそうは思わない”とは言っていいけど、“あなたの考え方は間違ってる”という言い方はしてはいけないと。14年間ずっとそれだけのルールでやってきました」

コミュニティを運営する上で「ルール」はひとつの指針になる。しかし、しょうぶ学園ではルールをどんどんなくしていったと福森さんは話す。ルールは直感的に「間違っている」と思うというのだ。

福森「ルールというのは多数決で多数派が決めたものに過ぎません。法律だって時代によって変わるでしょう。いずれ変わり得るものに従えというのは、間違っているかもしれないものに従えということと同じことです」

山本「猫町倶楽部でルールを最小限にしているのは、ルールを作るとみんながルールを守ることしか考えなくなるからなんです。みんなが面白い、心地がいいと思ってやってきているこの場所が、どうすれば心地いい場所であり続けるのか。僕が上から“こうしましょう”と言うんじゃなくて、みんなが考えて作っていこうという意図があるんです」

対する人がいるからこそ、理解が深まる

読書会というコミュニティを運営している山本さんにもある気付きがあった。猫町倶楽部では、ルール頼みにせず、読書会を運営するために理念を共有し、1年で交代していくサポーターと一緒に方針を立てている。中には当然、山本さんに反対する人も出てくるというが、その存在のおかげで得られたものもある。

山本「猫町倶楽部ではルールがないからこそ、読書会を一緒に運営してくれる1年交代の参加者兼サポーターたちに猫町倶楽部の理念を毎回説明するんです。するとたまに“こういう方針でやっていこう”と話しても、それにものすごく反抗する人がいたりする。正直驚いたり、腹を立てたりもするんですが、一方で反対する人っていうのは実はすごくいい役をしてくれているとも思っていて。というのも10人で話し合いをしていると、だいたい9人は“いいと思います”と言ってくれる。でも厳密に言うと恐らくその中にも、本当は“どうかな?”と思ってる人も含まれているんですよね。そういうときに一人、反対する人がいることによって、すごく時間をかけて説明することになる。それによって、結果として全体の理解度がどんどん深まっていくんですよね」

福森「今の話で、学園に勤めた最初の頃を思い出しました。10人くらい、職員が一度一気に辞めてしまったことがあって。当時の園長であった僕の父親にも僕にも、当時働いていた人のほとんどはイエスとしか言わなかったのです。本当はどう思ってるかを知りたいと伝え続けて、意見を言ってくれるようになるまで10年ほどかかりました。よく考えると僕の方も、当初は利用者さんの味方ばかりして、ちっとも職員の味方をしていなかったんです(笑)。40代で学園を経営するプレッシャーもあり、不安も多かったからこそ、自分の枠の中に入れて安心したいという気持ちもあったんですね。50代になった頃から、自分に分からないこと、まだ見えていないことこそ面白いとようやく思えるようになりました。これからは価値観の異なる、正反対とまではいかないけど、だいぶ違う人達が寄り集まる組織にしていきたいと思っています」

山本「僕もいろんな価値観を持った人たちのコミュニティが面白いと思ってやっているんですけど、そういう形だからこそ別に全員仲良くならなくてもいいよとも言っているんですね。仲良くならなくてもいい、でも排除しない。ただ、気が合わないと思っても出て行けとは言わないでくれと。……で、そうとは言っても当然いざこざはしょっちゅう起こるんですよ。価値観の多様さっていうのを認める、“多様性”とか“ダイバーシティ”とかって言葉で言うと綺麗なんですけど、それを実践しようとすると結構大変ですよね」

福森「うん、僕も協調性とか共生という言葉に疑問を持っています。違いを認めるといいながら、みんな同じ格好をしているからね。僕はあなたの意見に対してNOとは言わないけど、好きではない、と言うべきだと思う。それでも肩を組めるかということが課題で」

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