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【佐藤優の眼光紙背】李明博韓国大統領の竹島上陸に抗議するだけでなく、竹島返還を要求する国会決議が必要だ

"実効支配"されている竹島には、韓国国旗も。(8月10日、AP/アフロ) 写真一覧
佐藤優の眼光紙背:第139回
 近く国会が、韓国の李明博大統領が10日に竹島に上陸したことに抗議する決議を採択するようだ。産経新聞の報道を引用しておく。

竹島上陸を抗議する国会決議で一致 民主、自民

 民主党の城島光力、自民党の岸田文雄の両国対委員長は17日、国会内で会談し、韓国の李明博大統領の竹島上陸を抗議する国会決議の採択を目指すことで一致した。香港の活動家らによる尖閣諸島上陸事件も含めるかは今後協議を続ける。

 また、外交問題をテーマにした衆参の予算委員会を来週開催することでも一致した。ただ開催日について、岸田氏が21日を求めたのに対し、城島氏が参院側との調整が必要という理由で即答を避けた(8月17日、MSN産経ニュース)

 国権の最高機関が採択する決議には、重みがある。また、国際社会に対して与えるメッセージを送ることにもなる。報道ならびに国会議員や政治部記者から筆者のところに入ってくる情報によると、この産経新聞の報道にある通り、民主党と自民党は、李明博大統領の竹島上陸に関する国会決議を採択しようとしているようだ。率直に言って、外交的センスがよくない。

 領土は国家の礎である。この基本に立って決議を行うべきだ。李明博大統領の竹島上陸は、現象面の出来事で、本質は韓国がわが国固有の領土である竹島を不法占拠していることだ。竹島問題に関して、日本が対話と交渉に基づき平和的解決を希求していることを韓国だけでなく、国際社会に強く訴える必要がある。

 国会決議は、「竹島返還交渉を本格的に行うことを政府に対して要請する」という内容にすべきだ。

 韓国との間に竹島をめぐる領土紛争があるというのは、1965年の日韓国交正常化の時点から日本政府の一貫した立場である。しかし、東西冷戦化、日韓間の領土紛争を顕在化させることが、結果としてソ連、中国、北朝鮮などの共産陣営を利することになると考え、日本政府は韓国に対して竹島問題で本格的な交渉を行ってこなかった。

 東西冷戦後も、日本政府は惰性で、竹島問題を積極的に取り上げなかった。特に竹島に対する不法占拠を熟知しながら、事態を放置していた外務官僚の不作為が厳しく追及されなくてはならない。竹島問題を自民党が「政争の具」にしようとしているが、これは間違っている。鈴木宗男氏(新党大地・真民主代表)が、「自民党が今回の件で勇ましい事を言っているが、自民党政権時代に竹島が実効支配されてしまった。自民党政権時代、日韓首脳会談で誰が竹島問題を発言したのか、平成8(1996)年3月2日橋本龍太郎総理が、金泳三大統領の会談で触れた以外聞いた事がない。なのに、民主党政権を弱腰外交だと批判しているが、何とも腑に落ちない。」(8月18日付、「ムネオの日記」)と述べているが、その通りと思う。領土問題については、国家的な見地から与野党が一体となって取り組むのは当たり前のことではないか。

 竹島問題解決の端緒をつくりだすことは、それほど難しくない。竹島問題が紛争であることを韓国に認知させればよい。1965年6月22日、椎名悦三郎外相と韓国の李東元外務部長官の間で署名された「紛争の解決に関する交換公文」がある。そこで両外相は、「両国政府は別段の合意がある場合を除くほか、両国間の紛争は、まず、外交上の経路を通じて解決するものとし、これにより解決することができなかった場合は、両国政府が合意する手続きに従い、調停によって解決を図るものとする」という合意をしている。日本政府は一貫して紛争に竹島問題が含まれていると主張しているが、韓国は「独島」(竹島に対する韓国側の呼称)が韓国領であることは明白なので、紛争は存在しないという立場を取っている。日韓当事者間では水掛け論になるであろうから、今後は国際社会の判断が鍵になる。一方が「紛争がある」、他方が「紛争がない」と主張する場合、客観的に見れば紛争は存在するので、国際世論を日本の味方につける外交戦略を構築することは、それほど難しくないはずだ。

 李明博大統領の竹島上陸を非難する決議ならば、韓国の行動に対して日本が受動的に対応しているに過ぎない。これに対して、竹島返還を要求する決議ならば、国権の最高機関である政府が「竹島を取り返せ」という積極的な要求を政府に対して行っていることになる。日本政府はこの決議を最大限に活用し、「国権の最高機関である国会の意思は無視できない」と韓国政府に対して働きかけることができる。

 今回の決議に尖閣問題を含めるべきではない。尖閣諸島・魚釣島への中国人の不法上陸並びに魚釣島周辺領海への不法入国は、国際法的には私人の行為である。国家元首である李明博大統領が国家の行為として竹島に上陸し、日本の主権を侵害したことの方が悪質性がはるかに高い。このあたりの区別をきちんとつけておかないと、日本人は国際法を理解していないと国際社会から見られる。

 日本は大国だ。既存の国際社会のゲームのルールを尊重した対応をすることが、結果としてわが国益の極大化につながる。国会決議の文案も、国際社会の反応をよく計算して作成すべきだ。(2012年8月19日脱稿)

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プロフィール

佐藤優(さとう まさる)
1960年生まれ。作家。1985年に外務省に入省後、在ロシア日本大使館勤務などを経て、1998年、国際情報局分析第一課主任分析官に就任。 2002年、鈴木宗男衆議院議員を巡る事件に絡む背任容疑で逮捕・起訴。捜査の過程や拘留中の模様を記録した著書「国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて」(新潮社、第59回毎日出版文化賞特別賞受賞)、「獄中記」(岩波書店)が話題を呼んだ。
2009年、懲役2年6ヶ月・執行猶予4年の有罪判決が確定し外務省を失職。現在は作家として、日本の政治・外交問題について講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。近著に「功利主義者の読書術 (新潮文庫)」がある。

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