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特集
AIとはたらく
日常生活をはじめ、医療や学問、行政など様々な場面で存在感を増しているのがAI(人工知能)です。AIは今後、私たちの生活をどのように変えていくのでしょうか。そして私たちの仕事への影響とは。AIをめぐる”今”をのぞいてみました。

「AIが仕事を奪う」は本当なのか 専門家に聞く人工知能の弱点

  • 2020年04月22日 07:04
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AIに仕事が奪われる——さまざまなメディアで取り上げられたこのテーマは、現代社会で働く人々を動揺させるに十分なものだった。しかし、それは本当なのだろうか?現時点でのAIの活用状況と、その展望について、ビジネスにAIを活用することをサポートするテンソル・コンサルティング株式会社代表取締役社長で工学博士の藤本浩司氏に話を聞いた。

AI活用でリストラは進むが、仕事はなくならない

――「AIに仕事が奪われる、働く必要がなくなる」という話がありますが、それは本当なのでしょうか

何百年も先には実現するのかもしれません。しかし現状は、AIにはできないことが多く、まだまだといった段階です。今の若い人が生きている間でも、AIが全部やってくれるということにはならないでしょう。

――その一方で、AIで仕事を効率化する流れは進んでいます。金融業界などは影響が大きく、リストラもあるのでは、と言われていますが…

我々のお客様には金融機関が多いのですが、見込める収益を精度よく計算したり、支払の遅延が発生する確率をはじき出したりということは、AIに向いている作業なんですね。

それもあり、確かに現状では日本でも銀行の支店を減らす流れになっています。米国の銀行ですと、今後10年、20年で支店をゼロにするつもりでAIの研究をしているといいますね。

――結果としてそのような、ある種機械的な仕事はなくなっていく?

次のステップに進むために、機械的にできる仕事については機械にやらせましょう、ということです。その分、人間はもっと創造的な部分に注力できるようになります。

人間は機械的な仕事をやっていても、何も考えていないわけではありません。「もう少しこうしたら、新しい価値を生み出せそうだ」というように、色々工夫や発想を考えているはずです。そこをもっと活かせるようにするべきなんです。

AIが苦手なのは「意思」が重要な仕事

――AI、人工知能というと、映画などで観たロボットのようなイメージをもってしまいます。そもそもAIとは何なのでしょうか

私はAIのことを「コンピューターに知的な作業を行わせる技術」と表現しています。定義は、人によって多少の差はあっても、研究者の間での認識はおおむね共通しています。

映画『ターミネーター2』に出てくるような、人類を凌駕して「人間は不要」と言ってしまうようなAIが2045年にできていると思っている研究者はいないでしょうね。できるならすでに嬉々として語っているはずです。

――現状、AIはどの程度「知的」になったといえるのでしょうか

知性を「動機付け」「目標設計」「思考集中」「発見」の4段階に分けて考えると、「発見」はかなりできるようになっている。「思考集中」も一部はできますが、最初の2つはほぼできていません。

このことを、新型コロナウイルスの感染が始まったときを例にとってみてみましょう。

AIには意思がないので、まず真っ先に何をすべきかという「動機付け」自体ができません。感染発生に直面してもやるべきことはまったく分からないし、何かしなくてはいけない、という気持ちさえない。

仮に、人間が「リスクを減らしたい」という動機を与えたとしても、「リスクを減らす」には「感染が広がるリスク」「経済が停滞するリスク」「医療現場が混乱するリスク」など複数のパターンがある中で、どれをどう減らすべきかを考えるという「目標設計」もほぼできません。

さらに、感染リスクを減らす、特に濃厚接触を減らすなどの具体的な目標を定めた後でも、具体的にどういう情報を集めればいいか、どういうところに答えがありそうかという見当を付けて範囲を絞り込む。「思考集中」の部分も実は相当苦手なのです。

唯一できるようになっているのは、範囲を絞って集めた情報の中から「濃厚接触が増える要因として、こういう要素がある」ということを「発見」すること。ここはデータさえあれば人間よりも高速にできるようになってきています。特に近年は、複雑な要因であってもディープラーニングを使えばみつけられるようになりました。

戦略だったり、方向性を考えたりする労働はまだまだAIにはできませんが、「発見」に当たる仕事については、取って代わることになってきているということです。

「AIが選ぶニュース」は個人に最適化するために何を見ているのか

Getty Images

――すでにAIに取って代わられようとしている「発見」について、具体的にもう少し教えていただけますか

たとえば、私どもが提供させていただいている「LINE NEWS」のランキングアルゴリズムは、人間が感じる「赤丸急上昇」といった感覚を、AIで再現しています。通常、ランキングは単純に閲覧数の多さなどによって作られるのですが、LINE NEWSでは、本質的に見て注目を浴びるニュースかどうかを評価しながら判断しています。

――最適化の精度については、どのように確認していますか

定期的なモニタリングは必要ですが、基本的にはデータの量が増えるにつれて自動的に最適化されます。とはいっても、AIがその方針を考えているわけではなく、人間が目標を達成できるように仕向けて設計し、AIはその目標を目指して動くだけ。最適化の目標がズレているから調整しよう、という判断は人間の側で必要になります。

――人工知能というと自分で考えてくれていると思ってしまいますが、そうではないのですね

知能自体を追究する研究もあるし、我々も本当はそうしたいですが、そこにはまだあまりにもギャップがあります。そういう意味で人工知能という言葉自体が誤解を招いているところはあります。

ディープラーニングが使われているのはごく一部

――「ディープラーニング」という言葉もよく聞きますが、AIの活用事例では、ディープラーニングが広く使われているのでしょうか

実際に使うのは我々が受ける仕事の5%くらいです。案件によっては、逆に通常のアルゴリズムよりも精度が悪くなることもあります。

そのため、ディープラーニングが得意な分野にだけ、適材適所で使われているのが現状です。

――たとえばどのような分野がディープラーニングに適していますか

画像、言語、音声、それからゲームでも使われますが、多いのは画像です。ゲームでいえば、囲碁は19×19の盤面が画像に近いのでディープラーニングに向いています。

ただ、囲碁はAIが名人に勝てるようになりましたが、その人よりも人間的に賢くなったといえるわけではありません。そもそもコンピューターはずっと前から、計算という知的な作業を人間よりも圧倒的に速くできるようになっていますが、「賢い」ということとはまた別ですよね。

――たとえば私たちは「文章を書く」という仕事をしているのですが、これはどうでしょうか

文章や絵をゼロから書くというような、創造性が必要な分野はまだAIには難しいです。最近では「ゴッホっぽい絵を描くAI」のように、ある程度アートの世界にも入り始めていますが、あれはゴッホの絵のパターンを細かいところまで模倣できるように学習して再現しているだけで、AIに創造性があるわけではありません。

本物のアートのように、表現したいことを自分で創り出して人間を感動させる素晴らしいものを生み出す、というやり方とは本質的に違うのです。

データ量で圧倒するGoogle翻訳にも課題あり

――Google翻訳は数年前より格段に性能が向上していると思いますが、それはどうしてなのでしょうか

昔のAIの言語処理というのは、「言語っていうのはこうだよね」「人間ってこういう風に考えているよね」というのを、構造化して翻訳させようとしていました。しかし、人間が感じるすべてを構造化することは難しく、それゆえ性能の限界に直面していました。

現在のGoogle翻訳のやり方は、物量と高速演算でそれをなんとか解決しようとしています。英語と日本語の翻訳文のセットが大量にあれば、翻訳における文章の変換パターンを大量に見出せる。つまり、ざっくりいえば「パターン的にみて、この文章をこれに置き換えれば翻訳できる」というアプローチになっています。

これは結局、文章の変換の仕方を学んでいるだけです。変換方法を学ぶ上で必要な理解の仕方で言語を捉えているので、人間が文章に対して感じる意味とはどうしてもズレがあるのです。日本語なのか英語なのかということも実は分からないし、極論すれば字面が同じかどうか判別しているにすぎないともいえます。ただそれでも、性能がいいのです。

とはいえ、次のような問題は残されています。

Photo by Pisit Heng on Unsplash

“provention bio”という医薬品会社の会社名を入れると「防止バイオ」と出てきます。でもこれは間違いです。「防止」は、正しくは“prevention”ですが“provention”という間違いが多いのでそのように結果が出ています。人間なら他の文章と照らし合わせればミススペルだと判断できますが、AIは文章が間違っているかもしれない、などとは疑いません。

もうひとつ、「GReeeeN」というグループがありますね。これを翻訳すると「貪欲な」という訳になります。これは恐らく“greedy”という単語のミススペルなどに影響を受けていると思われます。日本人なら「GReeeeN」を見て、正式な表記でなくともグループ名だと分かります。少なくとも、「貪欲な」という訳し方はしないでしょう。

――たとえば、米国のグループだったら分かるかもしれないでしょうか

分かるかもしれません。これは、学習に使ったデータにもよる面があるからです。ただ重要なことは、Google式の翻訳はすごくパワフルで非常に役に立ちますが、人間の翻訳者の考え方とは違うということです。人間が感じるニュアンスの違いも適切に表現はできません。結局人間のように言語が分かっているのかというと、分かってはいないんです。

AIを進歩させるのは「人間の勘」?

――ビジネスにAIを導入しようと考えるとき、どのように話を進めますか

我々のところには、「データはあるので、リスクを減らし、売上を増やしたい」という相談が多いのですが、その際はまずデータ量や、データを結びつける価値があるかどうかを人間の経験や判断で見極める必要があります。

――人間の経験則のようなものは必要になるんですね

その辺りをAI化する研究も進めてはいますが、難しい部分でなかなかできていません。それと、データの質や量も重要です。目的を解決できそうな情報源が含まれているかどうか、目的を達する上でデータ量が十分かどうかです。

ちなみにデータを分析する際には、統計的な知識が必要になってくるのですが、伝統的な統計学では数字の世界で物事を判断しなければいけないとされていました。しかし、近年の統計学では人間の勘や経験も取り入れています。この手法がAI研究にも浸透すれば、AIはさらに進化していくと思います。

当たり前ですが、AIの得意な数学的な世界だけで物事は進まないよね、という話です。AIが今後進歩するためには、数字で表されていない部分に対しての情報を積極的に取り込めるかどうかが重要です。そういう意味では、人間の役割が当面の間なくなることはないでしょう。

プロフィール
藤本浩司
1985年上智大学理工学部数学科卒業
1999年東京農工大学大学院工学研究科博士後期課程修了、博士(工学)
製薬会社、クレジットカード会社などを経て、2007年よりテンソル・コンサルティング株式会社代表取締役社長。
東京農工大学客員教授。
著書に「AIにできること、できないこと」「続・AIにできること、できないこと」など。

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