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灯の消えた吉原、歌舞伎町…新型コロナ緊急事態宣言下の盛り場はいま【止まり木の盛り場学 第7回】

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続いて、文筆家・路地徘徊家のフリート横田が歌舞伎町、横浜、横須賀、千葉の飲み屋街をレポート。数ヶ月前までインバウンドで活況だった新宿をはじめ、当初から緊急事態宣言の対象になった「一都三県」内にある盛り場はどうなっているのだろうか。


飲み屋街はどうなった?電話取材で聞いた店主の戸惑い

横田 さて、続いて私のほうでは、歌舞伎町、横浜、横須賀、千葉の飲み屋街の今を探ってきました。ただ、無自覚に他の方にうつさないためにも車で出かけ、様子を撮って、引き返してきました。歌舞伎町では街角に立つ客引きの兄さんたちなどもいましたが……グッとこらえて接触はやめました。そのかわりツテや知り合いを頼って、電話取材をやりました。協力してくれた方々のところには、収束後必ず一杯いきたいですね。

歌舞伎町の風景は一変した。(4月14日、20時ごろ)

4月7日に政府から緊急事態宣言が発令されたのを受け、首都圏では実施区域に指定された東京、神奈川、千葉、埼玉がそれぞれ緊急事態措置を実施、休業要請が出されたのはご存知の通りです。開始日は若干ばらつきがありましたが、もう始まっていて、5月6日までの一か月間。「夜の街」、特に飲み屋は休業を求められた業種の本丸と言っていいほど、ほとんどの業態の店が指定されています。(4月17日、宣言の対象地域を全国に拡大)

盛り場のあちこちの店のシャッターは下がり、張り紙が増えた

千葉県の休業要請開始の前日(4月13日)に電話取材したのは、船橋市の名店、「一平」。客たちの人いきれと、長々としたカウンターを思い浮かべながら、店主・秋山猛さんの話を聞きました。煮込み、早くつつきたいものです。

平常時、客が思い思いの時間を楽しんだ、ほぼ満席状態の「一平」

あれだけの人気店も、宣言発令後は客足が3割に激減、昼12時から18時まで時短営業になっていましたね。淡々と話す秋山さんが一言だけ、語気を強めました。

「しっかり休んでくれと言われれば、補償がなかったとしても閉めるつもりはある」

休業を「要請する」というのは、自発的にそうするように促す、というニュアンス。命令ではない。「私権制限」に踏み込むのを避けていたのでしょうが、一杯飲み屋の親父さんたちにとっては、1日閉めれば1日の糧はゼロになるわけで、この迷いの感覚はよくわかりました。

宣言直後は、他の店主たちも似た感覚を持っていたと思います。でも、都が明確な線引きを発表したことで、他県もそれに準じています。ひとまず「開ける」「開けない」の迷いは解消されていくと思います。線引きとは、居酒屋は夜19時まで酒を売ってもいいが20時には閉めるべし、スナックやキャバレーなど酌をしてもらって飲む店は閉めるべし、ということです。

ハマの飲み屋遺産、都橋商店街ビル。人通りはほとんどない(4月14日、21時半ごろ)

「借りてやってる人たちは本当に大変」重くのしかかる固定費

神奈川県も多くの店が休業を決めました。一大飲み屋街・野毛で野毛飲食業協同組合理事長をつとめる田井昌伸さんに話を聞きました。田井さんは、老舗とんかつ店「パリ一(ぱりいち)」の店主。店は「宣言」が出たあと4/8~13まで休業しましたが、14日から18時~20時の三時間営業として再開しました。

あまりにもさびしい野毛の様子(4月14日、21時半ごろ)

「県の問題ではなく国の問題。市会議員や県会議員の先生に言ってもしょうがない」

もはや地域の問題として解決できるレベルのものではないと。陳情することも無理だと腹をくくってましたね。使える助成金の情報を集めている、と話してくれました。そして、(自己所有の自店と違い)多くの飲食店を気遣っていました。

「借りてやってる人たちは本当に大変だよ」

家賃など固定費は店を閉めても出ていきます。ちょうどその頃(4/14)、神奈川県は最大30万円の協力金支給を発表。東京都とは比べ物にならない県の財政力ですが、国からの臨時交付金(1兆円)を使うようです。国からの交付が遅くなるようなら、県の財政調整基金を取り崩してでも支給すると。支給も二週間後27日からと言っているので、私は現時点の、第一弾の支援としては評価しています。知事も、「家賃の支払いが厳しいという声が沢山あった」と会見で言っていました。

もう一か所、横須賀のスナック街、若松マーケットの現状も探りました。この街は戦後ヤミ市からスタートした飲み屋街で、木造二階建ての飲み屋がギッシリと崖下に並ぶ一角です。私も年中通っていましたが……。話をしてくれたのは、若松新生商業組合長の横須賀氷業・澤田勝彦さん。

コロナ騒動前、路地にネオンが連なる横須賀・若松マーケット

「組合店63軒と非組合店合わせて約120軒のうち、店を開けてるのは9軒だけよ」

スナック系の店ばかりとのこと。「10人座れるか座れないかの街」と澤田さんは表現していましたが、ヤミ市以来、間口の小さな店ばかりが並ぶ酒場通りです。でも、この10人の客が大きい。今開けている店は「開き直っている」と。苦肉の策として、フリーの客は断って、ネオン看板の灯も消して、電話予約した人のみ4人くらい入れて開けている状況でした。

こちらも騒動の前の様子。小さな店が多いのも、若松マーケットなど古い飲み屋街の特徴

それって、常連です。仲間です。スナックと居酒屋とは客の回転率も単価も違いますよね。このわずかな人数の人たちがボトルを入れて、週に何回も飲みに来ることで営業者の暮らしを支えています。休業と同時の補償は約束されず、こんな方式でも営業せざるを得ない人たちに、誰が止めろと言えたでしょうか。ようやく県の対策が出て来たので、これから休む店は増えると思います(完全に休業しないと満額の協力金が出ないことに決まったため)。

「営業してる、してないの線引きはどうするのか。今仲間うちに開けてる店があると言っても、一日の売り上げは数千円もいかない。そういう人に(協力金が)出ないとなったら大変」

澤田さんは心配していましたが、県も当初は線引きを明確にしていなかったので、対策発表後からの判定でお願いしたいですね。

「常連」が減り観光地と化した新宿ゴールデン街の現在

続いて新宿へ。ゴールデン街ではこの「仲間」「常連」をめぐる構造的な問題が、今回のコロナ騒動で皮肉にも顕在化した部分があります。

G2通りにある「フラッパー」は私もボトルを入れて、時々飲ませてもらったいいバーですが、こちらの日替わりマスターであり、講談師でもある神田春陽さんに話を聞きました。


通常営業していた頃のゴールデン街・フラッパー

「外国人客の多い店だと『薄利多売』になっていました。そういう店が特に今きついです。彼らが戻ってくるのはずっと先になるでしょうから」

近年、ゴールデン街はインバウンドたちの観光名所化して、特に欧米人が増えていたのですが、ラグビーワールドカップ以降はさらに増えたようですね。彼らは「チャージ(席料)」を避ける傾向があり、G街では慣例的に500~1000円程度だったチャージを、外国人客からは取らずに運営する店も出ていました(その分、1杯が割増になる)。

小さな店に外国人客が集まり、昔からの常連が何度もふられるうちに結局行かなくなってしまう、ということが起きていた下地がありました。

そこに来てのコロナ騒動。2月半ばから外国人客は減り、フラッパーでも「3月半ばは、金曜でもお客がゼロ」の日も出たと。外国人メインにしていた店は相当厳しいのでは、ということです。

京都や浅草など、外国人観光客が多数訪れる街でも聞く話ですが、商売は需要があればそれにこたえるものですから、インバウンド需要に応えた店作りが一概に悪かったとは言えませんが、飲み屋街としてどうやっていくか、組合でも各店でも考えていく事態にはなったと言えますね。

「酒を飲む店だからお昼に弁当を売ったりできないし、20時に閉めろといってもその時間から始まる街ですからね」

宅配業者の自転車が走り去る歌舞伎町・さくら通り(4月14日、20時ごろ)

テイクアウトを利用して飲食店を応援する動きは広がっていますが、神田さんの言うように、やれない業態の店もある。とはいえ、ほとんどの店は休業要請に従いました。

ゴールデン街は空きを待っている出店希望者が100人以上いるといわれるくらい、飲食業で一旗あげたい若者に人気の飲み屋街でもあります。老朽化した建物と3坪半の狭さにもかかわらず、結構な店賃になるんですね。

だから仮にこれから商売をやめてしまう店がいくつも出てしまったとしても、どれほど新しい人が入居するか。「街の『らしさ』を作っていたベテランの店が再開してくれるか」を神田さんも気にしていましたが、大きな資本のところでなく、小さな個人店が密集する「酒場の多様性」みたいなものは失ってほしくないですね。

歓楽街のど真ん中のガレージで、イタリアンレストランがワインや野菜の直売をはじめていて、ここだけは人が集まっていた

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