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ダイヤモンド・プリンセス号現地活動の概要

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 クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号は1月20日に横浜港を出港しました。1月25日に香港に寄港し、2月1日に那覇港に寄港、約3,700名の乗客乗員を載せて横浜港に向けて出発しました。ところが、香港で下船した乗客がCOVID-19(当時まだこの名前はありませんでしたが)に感染していたことが2月1日に判明、香港政府から連絡を受けた日本政府は、まず那覇検疫所が仮上陸許可証を取り消します。

2月3日に横浜港沖に到着後、横浜検疫所は他検疫所の応援を得てただちに臨船検疫を開始しました。検疫官らは医師による確認や質問票による健康チェック、有症者およびその同室者、また香港で下船した乗客に関する検体採取およびPCR検査を徹夜で行いましたが、4日深夜に相当程度のCOVID-19陽性者の存在が確認され、一気に重大事案となりました。

 この件に関し、私は2月10日に加藤勝信厚生労働大臣から自見はなこ厚生労働大臣政務官とともに現地対応責任者を命じられ、その日の午後に現地に下見に赴き、翌11日朝以降横浜に滞在してほぼ3週間にわたり毎日船内で対応にあたりました。3月1日、最後まで船に残っていたジェナロ・アルマ船長らの下船をもって、私も現場での務めを終了し、その後2週間の自己検疫期間に入りました。

 詳細は追って政府において検証されることとなると思いますが、現場にいた立場から、簡単に船内の状況やチームの活動について整理したいと思います。

人員体制

 ダイヤモンド・プリンセス号には、2月3日の臨船検疫開始から横浜検疫所の検疫官が他検疫所の応援も得て乗船し検疫にあたりました。その結果相当程度の感染者の存在が明らかとなり、5日早朝に正林督章審議官が乗船してジェナロ・アルマ船長に面会して感染症防止策を開始しました。上記の通り11日から私と自見大臣政務官が乗船。また14日から大坪寛子審議官も乗船して任務にあたりました。

おおむね、正林審議官が現地支援チームや厚労省スタッフなどを統括し、大坪審議官が本省や防衛省、国土交通省、外務省など他の関係省庁等との現地での連絡調整など、自見大臣政務官は医療関係者との幅広いネットワークを駆使した調整や医師の視点からの提言などを行い、私は全体を統括しながら加藤大臣や本省と方針を詰め、それを船長や船内の方々にお伝えをするといった分担で、相談しつつ任務にあたりました。厚生労働省本省リエゾンや横浜検疫所等の職員が船内や大黒埠頭に詰め、支えていただきました。

 また全国から、DMAT、JMAT、DPAT、AMAT、JCHO、薬事チーム、日本赤十字社、日本環境感染学会や国立感染症研究所、岩手医科大学、東京慈恵会医科大学、東京医療保健大学、長崎大学、国際医療福祉大学、国立国際医療研究センターなどの感染対策の専門家の先生方、国立長寿医療研究センターの先生などに乗船いただき、さまざまな支援を行っていただきました。

また物資の積み込みや人員輸送および救急搬送支援、医療的な支援などのために自衛隊の皆さまにも活動いただきました。毎日朝晩リーダーミーティングを行い、各チーム間の情報共有を密に行いました。さらに神奈川県、横浜市、防衛省、国土交通省、外務省、警察庁、内閣官房などが現地や本省で活動しサポートいただきました。

 また、船内は船長の指揮下にあるため、緊密に連携して取り組む必要があります。そのため毎日朝9時と晩21時に船長と定例ミーティングを行った他、細かく連絡を行いました。

ミッションと基本方針

 私は、11日に最初に船長にお目にかかった際、「私のミッションは、各人14日間の個室隔離による検疫を行うことで日本国内への新型コロナウイルス感染症の蔓延を防ぐこと、その範囲の中で乗客乗員の皆さんができるだけ健康に過ごし、帰宅していただけるよう支援することです」とお伝えしました。前者は検疫の目的そのものです。しかしそもそも検疫という仕組みは、公衆衛生という公共の福祉のために移動の自由その他の各個人の基本的人権を制限することに他なりません。法律上、一義的には検疫中の船舶の乗客乗員の生活の確保は船会社および船長の責任ですが、日本の法律に基づき自由を制限している以上、できるだけ健康を維持してお過ごしいただくようサポートする必要がありました。

 ただ、その実現には、3,700人という規模や感染症への恐怖の壁に阻まれて相当な困難がありました。特に私が乗船した時点では、当初問題となった医薬品の不足が徐々に解消されつつあったものの、発熱者や健康不調の方が毎日数十人発生し、船内フロントの電話は鳴りやむことがありませんでした。船内には医師・看護師が配置され外来や病床を備えたメディカルセンターがありましたが追いつかず、DMAT診察チームによる診察も容態の重い人を優先せざるを得ず、救急搬送も毎日数十件という状況でした。

また同時にこれらの方々に対して行ったPCR検査の結果陽性が判明した方も順次医療機関に搬送する必要がありました。その頃は船の運用上3日ごとに外洋まで出航する必要があり(途中で解消されました)、またギャングウエイ(上陸用の可動式連絡橋)も人ひとりが通れる程度の狭さで当初一本しか開設されずスムーズな搬送に困難があるという事情もありました。また12日に検疫官の感染者があったことが発表されて以来、DMAT等の増援要請に対し医療機関からの派遣に影響があったことも事実です。

 また、本来乗客も乗員も検疫対象でありともに個室管理を行うのが理想でしたが、毎日3,700食の弁当を3回調達し、かつ約1,300の客室や約1,000人の乗員に感染症のリスクがある中で配膳サービスを引き受けてくれる組織など全く見当たらない中、乗客のロジスティクスは乗員によるサービス継続に頼らざるを得ませんでした。これをやり遂げてくださったダイヤモンド・プリンセス号の船長はじめ乗員の皆さんの勇気とホスピタリティには敬意と感謝しかありません。

しかし検疫の観点からは乗員と乗客の対応のアンバランスは不健全であり、また感染拡大のリスクも念頭に置かなければならず、現実的な課題を整理した上で一刻も早く解消すべき課題でした。乗客が乗船している限り、乗員の検疫は始まらないということは、早々に理解されました。さらには乗員だけになっても約1,000人の規模を船内において隔離することは実行可能性上不可能と考えられました。

 そこで、検疫の実施を大前提としつつ、まず乗客をできるだけ早く分散して下船させ、次いで乗員も下船させて検疫期間を過ごさせる、ということが基本方針となりました。当初は、大規模な宿泊施設に一括で乗客の方々を移動させるようなことも考えましたが、約2,600名の収容可能な施設および移動手段は現実的にはありませんでした。

具体的な取り組み

 この方針を具体化するにあたり、下記のような取り組みを組み合わせて行いました。

1)医療機関への搬送

 COVID-19と関わりなく船外での医療提供が必要とされるニーズが発生した方や、COVID-19のPCR検査(以下「PCR検査」とのみ記します)で陽性になった方は、医療機関に搬送しました。搬送先の調整はDMATや神奈川県庁対策本部、厚生労働省医政局などが協力して行い、症状の重い方は神奈川県内や都内など比較的近隣の医療機関、PCR検査陽性でも無症状の方などは遠方(概ね関東から関西までの広範囲にわたりました。

多くの方を引き受けてくださった愛知県岡崎市の藤田医科大学岡崎医療センターもこの分類です)といった形で状況に応じて搬送先を調整しました(それでもなお病院到着後ただちに症状が悪化してしまう方がおられるなど、この感染症のわかりにくさによる苦労もありました)。移動には、横浜市消防局の救急車に加えて民間救急車や自衛隊の救急車にもご協力をいただき、2月3日以降同行家族を含む約800人を医療機関に搬送しました。

2) 希望者の宿泊施設への早期の移送

 新型コロナウイルス感染症は、高齢者や基礎疾患のある方について特に重篤化しやすいことが専門家により示唆されています。また窓のない船室の存在など、個室管理の環境そのものが健康リスクとなる可能性もありました。そのため乗客のうちPCR検査が陰性でかつご高齢の方等に希望者を募り、政府が用意した宿泊施設での検疫を継続していただく取り組みも行いました。2月14日~17日にかけて実施し、合計約70名の方に移動していただきました。

3) 海外への退避

 2月16日にアメリカがチャーター便を飛ばして約300名の乗客乗員を帰国させ、現地にて検疫を継続することになりました。これを皮切りに、3月1日のインドネシアまで合計13の国・地域がチャーター便を日本に送り、乗客乗員約1,600人近くを船から直接国外に送り出しました。

4) 検疫終了による下船

 ダイヤモンド・プリンセス号の検疫においては、(1)健康観察期間14日間(多くの乗客は感染防止策がとられた2月5日が起算日、陽性判明者の同室の方はその方が部屋から退去してから24時間後が起算日)を隔離されて過ごすこと、(2)健康観察期間中のPCR検査が陰性であること、(3)医師による健康チェックおよび下船時のサーモグラフィーによる検温を受けて問題がないこと、の3つの条件をクリアすることで、検疫所の上陸許可を行うこととしました。その結果、2月19日~22日にかけて乗客約1,000人が下船しました。

 これらの方々の検疫法に基づく上陸許可のためには、自衛隊医官の方々やJMATの方々をはじめ多くの医療スタッフにご協力いただき、乗船していた乗客全員のPCR検査用の検体採取や、健康チェックをしていただきました。それらの要件を無事にクリアして、スーツケースを押して歩いて下船していかれる乗客の方々を船内から見送っていると、いささか涙ぐみそうになりました。また、この実現により、乗員による乗客向けサービスは23日正午をもって停止されました。

 残念ながら、下船された方々から陽性者が発生しています。新型コロナウイルスのPCR検査の感度と特異度の正式なデータが公表されていない現状においては正確なことはいえませんが、いずれにしても感度と特異度がそれぞれにおいて100%ではないという前提に立てば、これはPCR検査の限界による可能性も考えられます。

またネット等で、「なぜ14日間で下船させたのか。他の国は帰国後もさらに隔離しているのに。」といったご意見もあるようですが、そもそも14日間という健康観察期間はWHOが公表しているCOVID-19の潜伏期間を上回るものです。また国外退避にあたり各国はそれぞれの基準を設けており、例えばアメリカは、日本基準では検疫終了とはならないPCR検査の結果が出ていない人も含んで帰国させましたので、飛行機等で移動中の相互の感染の可能性をはじめから想定していたものとも思われます。

 なお、検疫を終了して下船された方々は、さらにご自宅にて14日間健康監視下におかれ、厚生労働省から定期的に電話で確認が行われました。正しい健康カードが配布できなかったミスはあったものの、下船後に陽性が判明した方も含め、下船者から国内に感染が拡大した例は確認されていません。

5) 検疫継続者の宿泊施設への移動

 乗客の船室は個室ではなく、2人~4人部屋でした。検疫上は個室での管理が始まった日を起算点としますが、限られた空間のもと、そのお部屋で過ごしていただかざるを得ません。そのため、ある船室でPCR検査が陽性の方が出ると、その同室の方はご本人のPCR検査の結果が陰性であっても、濃厚接触者とされることとなり健康観察期間の起算が陽性の方が搬出された24時間後から健康観察期間が再スタートすることになります。こうした濃厚接触者とされた乗客約90人には、22日に宿泊施設に移動していただき、そこで検疫を継続していただくこととしました。以上により、乗客の下船はおおむね終了しました。

6) 船室の消毒・清掃

 乗客下船がおおむね終了した頃に船長から、乗員について陽性判明者の同室者を乗客下船後の船室に移したいが消毒清掃する人員がいないため作業してほしい旨、依頼がありました。そこで乗員間での感染拡大を防ぐ観点から、厚生労働省、検疫所、日本赤十字社でチームを組んで、23日~24日に検疫終了者の船室について合計約140室について消毒・清掃作業を行い、乗員に提供しました。

7) 乗員の宿泊施設への移動

 乗員の方々への医療的な対応は、発熱した方などに個々に対応していたのみとなっていました。そこで14日から乗員全員の健康チェック、20日からほぼ全員のPCR検査の検体採取を行いました。乗員の多数を占めるフィリピンやインド、インドネシアなどは、PCR検査の結果を見てチャーター便の帰国者リストを作成したので、この際の取り組みが生かされることとなりました。

 残っている乗員の多くは、27日~28日の二日間で順次宿泊施設に移動していただき、そこで個室で健康観察期間を開始しています。

 なお、引継ぎなどのため最後まで船に残った船長はじめ船の維持に必要な方(約60名)、およびインドネシアへ帰国する方々(約70名)は3月1日に下船し、それぞれ宿泊施設や故国に移動されました。

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