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弁護士の経済的困窮を主張できる国とできない国

 新型コロナウイルスによる、というよりも、より正確にはそれに伴う「緊急事態宣言」の影響は、ある意味、容赦なくこの国の司法に、そしてそれを支えている弁護士の経済的状況にも、深刻な形に現れつつあります(川井信之弁護士のツイッター)。それがどの程度の期間続くのか、先行きが見えない状況のなか、社会生活全体がおよそそうであるように、多くの弁護士も不安の中、未だ一定の冷静さを保ちつつ、事態の推移を見守っている観があります。

 日弁連の新執行部は、スタート早々、新型コロナ関連の対策に追われることになりました。イベント・セミナーの延期事務局の業務縮小を打ち出し、これまでに刑事施設の期日延期司法試験の実施延期入管施設の「三密」リスク解消感染拡大に伴う家庭内被害に関して、立て続けに会長声明を発表しています。

 一方、前例がない事態だけに、この「緊急事態宣言」下の「自粛」状況が続くということになれば、こうした対外的な問題対応のみでは済まなくなることも当然予想されます。しかし、弁護士会が会費納入を猶予するのかどうか、といったことまで一部で取り沙汰されているものの、会員の生活あるいは弁護士制度そのものの維持に関し、会主導層が、少なくとも現段階で会員の置かれた状況を、どこまで深刻に受け止めているかははっきりと分からない状況といわなければなりません。

 そうした中、ある弁護士ブログが、興味深い記事をアップしました(「弁護士金塚彩乃のフランス法とフランスに関するブログ」)。タイトルは、「緊急事態と弁護士と弁護士会」)。

  詳しくは是非、お読み頂ければと思いますが、端的に言って、ここでは、「緊急事態」下での、日本とフランスの弁護士・会の姿勢の違い、というよりも、むしろそうならざるを得ないといっていい、位置付けの違いのようなものが浮き彫りになっています。

 この状況下で、フランスの弁護士会は大きく次の二つの問題提起をして、行動に移している、と紹介されています。

 ① 危機的状況にあっても、国にとって根本的に重要な公役務として司法を位置づけることを求め、そして法治国家が蹂躙されることがないよう国に対し積極的に求めること。
 ② 弁護士の経済的困窮状態を正面から受け止めて、個々の弁護士を守るための政策を明確に国に対し求めること、なぜなら弁護士を守ることは法治国家を守ることであり、危機的状況下における民主主義にとっての弁護士の重要性を国に明確に認識しなければならない。

 注目すべきは、②の点の違いです。この国では、同じ緊急事態下で果たして弁護士会がこうした発想をストレートにぶつけられるのか、ぶつけることが許されているのか、という点です。ある意味、理念においては、おそらく日本の弁護士会主導層も、①②とも同じである、というかもしれません。しかし、むしろ同じであればこそ、やはりここは注目していいように思うのです。

 もちろん、こうした話を取り上げれば、すぐさま国柄・国民性や制度の違いを前提として、それで思考停止する人は沢山います。ブログにも、もちろん、この違いの理由についての、答えになるような言及もあります。

 「弁護士会としては、人権侵害を看過することはできず、また、そのためには強いプロフェッションでなければならないという事、強いというのは個々の弁護士のためだけでなく、民主主義の社会にとって必要不可欠な要素だという視点」
 「フランスでは、日本よりも弁護士会に対する愛着が強」く、「対外的には弁護士会が誇りをもって、弁護士が民主主義や法治国家にとって不可欠であると主張すること、そのために必要な手段を駆使すること、対内的には弁護士を守り抜くという姿勢を明確に、一貫して示すこと」

 そうしたことが常日頃からの発想として貫かれ、メッセージとして発出され、なによりもそれが社会に受けとめられている。それがゆえに、弁護士の経済的異変に際して、法治国家を守るために、ある意味、堂々と自分たちを擁護すべきことを掲げられる国なのだ、ということなのです。

 ここで話を終えようとする人は、やはり多いと思います。まるで取り上げても仕方がないことのように。しかし、あえて思い返せば、こういう発想がわが国で許されたのであれば、弁護士増員政策にしても、給費制問題にしても、全く別の展開になり、今の弁護士たちの現状も生んでいなかったかもしれない。そして、もはや経済的困窮を認めようとしなかったり、ストレートに口に出せない弁護士も沢山いるという話が聞こえてきます。

 それは、フランス人弁護士の目には、日弁連会長がどんなにこの状況下で、その社会的責務の自覚のなかで意義ある意見を発出しようとも、その一方で、日本の弁護士の位置付けとしては、あるいは、法治国家の担い手として、守られるべき存在として、そこまでは胸を張れない国の同業者の姿に映ってもおかしくありません。

 やはり、こういうときであればこそ、この点の違い、何がそれを生み出し、何から始めるべきかを考えていいように思えてなりません。

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