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「雇い止め」と言うより「雇い替え」

なぜ企業業績が回復しているのに給料は上がらないのか(プレジデントオンライン)

社員の給与をどのように決めるのかは、会社にとってもなかなか難しい問題だ。従業員の給与は言うまでもなく人件費だが、この人件費を決める際の目安の一つに労働分配率がある。

(中略)

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リーマンショックまでの05年から07年までは企業業績が過去最高益を更新したにもかかわらず、一人当たりの賃金が抑制されており、適正な水準より低かったといえる。なぜ、そのとき賃金が増えなかったのか。賃上げや時短にも配分されていた企業業績の向上が、最近は株主への配当や内部留保に回されたからとの指摘もあるが、大きな要因は、非正規社員を中心に賃金上昇につながっていないことだ。非正規社員の比率が増え、正社員と非正規社員との賃金格差が存在しているからだ。

正社員の賃金はそれなりに増えているのに、景気が良くなっても、非正規社員の賃金があまり上がらない構造になっていて、それが消費の低迷につながり、モノが売れなくなっている。このため企業は値下げを行うために賃金を削減し、それが物価下落に拍車をかける状況だ。そういう意味でも次の景気回復期には、非正規の人にも業績回復の恩恵が及ぶ仕組みを考え、労働分配率を適正な水準にとどめておくことが重要である。

 グラフからも分かる通り、98年以降は企業業績が上がっても雇用者報酬すなわち給料は増えないどころか下がっていることが分かります。企業業績の如何に関わらず働いて得られる所得は下がるのですから、マトモな国ならストライキが続発してるところでしょうか(中国やインドなら経営者が従業員に袋叩きにされているところです)。それでも世界最高レベルの従順さを誇る我が国の社畜達は黙々と働き続けるわけですが、いかんせん給与水準が上がらないので当然のことながら購買力も低下するばかり、国内ではモノやサービスが売れなくなるので結果として国内企業の売り上げも低迷するわけです。戦後最長の景気回復局面と言いつつ好業績を上げたのは、他国の好景気の「おこぼれ」に預かった輸出企業ばかりで、その輸出企業が「厳しい国際競争に勝ち抜くため~」と称して一層の賃下げに励んだりするのですから無茶苦茶です。

 なお引用した記事では、賃金が上昇しない要因として非正規社員の比率が増えたことが挙げられています。どんな分野でも社員を非正規に置き換えられるよう、雇用規制を緩和していった改革の成果として賃金水準の低下があり、ひいては国内市場の低迷、日本全体の景気回復の足を引っ張るという結果に繋がっているわけです。規制緩和が日本を貧しくしてきた、改革の否定なくして景気回復なし、と言ったところでしょうか。非正規の人にも業績回復の恩恵が及ぶ仕組みを云々と引用元では語られていますけれど、しかし非正規雇用への置き換えが専ら人件費抑制のために行われている現状、非正規雇用を巡る無法状態を放置している限り、日本国内で働いている人の給料=購買力は上昇しません。

 私が見る限り、非正社員の賃金が正社員のそれに比べて低いのは「昇給がない」ことに起因するところが大きいです。正社員だって簡単には昇給しない時代ですが、非正社員ともなれば尚更です。加えて非正社員はしばしば「雇い止め」という形でキャリアが断絶される、その度に一からのスタートを余儀なくされ、低い賃金からのやり直しを迫られるわけです。故に賃金も低くなる、と。ただ一般に「雇い止め」と言われる概念、働いている人の個人目線からであれば「雇い止め」なのでしょうけれど、俯瞰的に見るなら「雇い替え」とでも呼んだ方が適切なケースが圧倒的多数を占めるように思います。

 つまり、非正規雇用のポジションはそのままに、人だけを入れ替えているケースが多いのではないでしょうか。今まで非正規で働いていた人を雇い止めにして、新たに若い人を雇い直す、こういうケースは頻繁に見られますし、私自身も何度となく経験してきました。私は「5号 事務用機器操作の業務」という非正規での雇用期間に制限のない職種でしか働いたことがありませんし、私が直接に知っている人も似たようなものなのですが、だからといって「永遠に(非正規のまま)雇用が継続される」かと言えば全くそんなことはありません。何か機会のある度ごとに、入れ替えの対象にされるわけです。

 この辺は昔年の一般職の女性社員の扱いと似るところがあって、ある程度まで働いたら退社して欲しい、そうしたまた新たに若い娘を雇い入れようとするみたいな傾向があったはずです。非正規、とりわけホワイトカラーの派遣社員の場合は、そのサイクルを少し縮めたような形で雇用されるのが一般的でしょうか。とにかく非正規雇用にあてがうためのポジションは継続して存在するにも関わらず、その椅子に座る人は定期的に入れ替えられている、「雇い替え」の対象にされているのが実態なのです。この「雇い替え」に抜本的な対策を採らない限り、待遇改善もない、ひいては購買力の向上、国内景気の回復もないと言えるでしょう。

 そこで非正規雇用の期間に制限を課すのであれば、個人ではなく椅子の方を基準とするよう徹底させる必要があります。一定以上の雇用期間を理由に正規化を促しても、それを個人単位でカウントすることを許してしまえば、既に常習化している「雇い替え」によって回避されるばかりです。そうならないためには、「人」ではなく「ポジション」が継続的に存在しているかどうかを厳しく見なければなりません。どれだけ人が入れ替えられていようと、長年にわたって非正規雇用の人が従事するポジションがあるのなら、そのポジションは正規雇用によって担われるべきである、同じ人ではなく同じ職務を非正規で賄うことに制限を設ける、これを徹底することで逃げ道をふさいでおくことが必要なのです。

 例えばサッカーなら、チームを機能させるために選手個々の動きを制限することが時に求められます。フィールド上の各選手に好き勝手にプレーさせておけば最高の結果が得られるかと言えば、決してそんなことはないはずです。戦術上の拘束によって選手個人としてのパフォーマンスが低下することもあるかも知れません。しかし、チーム全体としての成功こそ指揮官たる監督に託されたものなのです。翻って日本の政治と経済の場合はどうなのか。個別の企業から見れば雇用規制は足枷に映ることもあるでしょう。しかるに雇用主が好き勝手に振る舞うことを許し、賃金が抑制されるのを後押ししていった結果はと言えば、国内でモノが売れなくなり、さらなる景気低迷に拍車をかけただけでした。特定の企業の経営者ならいざ知らず、行政に求められるのは日本経済全体の舵取りです。必要なのは個々の企業に自由を与えることではなく「全体として」機能させることなのですが…… まぁ日本の経済政策ってのはジーコサッカーとしか言えませんね。

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