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中小企業・自営業「未曽有の危機」になぜ「財界リーダー」は行動しないのか - 杜耕次

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「どちらが経済界の代表者か」

 冒頭に紹介したように、主要経済団体の3人の首脳は、政府との窓口役としてメディアで言動が報じられているが、予定調和的なコメントりを量産してさっぱり存在感がない。

 たとえば、4月12日の『NHK』日曜討論「緊急事態宣言 必要な対策を問う」に出演した経団連会長の中西は、悪評高い政府の雇用支援対策について「大変ありがたい話」と絶賛。 

 共に出演していた連合会長の神津里季生(64)が、

「緊急融資などの手続きに慣れてない中小企業経営者が多いので、政府は配慮してほしい」

 と、新型コロナ対策担当相の西村康稔(57)に注文をつけていたのに対し、「どちらが経済界の代表者か分からない」(全国紙デスク)との批判が渦巻いている。

 ツイッター社のドーシーはじめ、ザッカーバーグやベゾス、それに孫といったIT企業創業者のようなパーフォマンスを中西らに求めても、、所詮は”サラリーマン経営者”。「個人資産の規模が違う」と一蹴されるに違いないが、それでもカネを遣わずに出来ることはある。

 スイスでは3月26日、新型コロナの中小企業支援策として即日融資するシステムがスタートした。50万スイスフラン(約5600万円)までは政府が100%保証し、銀行は無利子・無審査で融資を行う。簡単な書類に必要事項を書き込み、メールで銀行に送信すれば、原則数時間以内に融資金が企業側の口座に振り込まれる。

 融資を行う銀行には、「スイス国立銀行」(中央銀行)が資金を無制限で供給する。

 この仕組みを提案したのは、金融大手「クレディ・スイス」で、このアイデアに120の銀行が賛同し、官民一体で苦境にある中小企業支援制度を短時間で作り上げたという。

経団連の“老人クラブ”化

 クレディ・スイス並みの金融機関はもちろん日本にもある。

 だが、飲食業やイベント関連業界を中心に「未曾有の倒産発生」が予測される危機的状況にもかかわらず、スイスのようにリーダーシップを発揮する金融界のリーダーは日本には現れない。

 経団連会長の中西は3月9日の記者会見で、今年6月2日に就任する副会長のリストを公表。「みずほフィナンシャルグループ」(FG)会長の佐藤康博(68)と「三井住友FG」社長の太田純(62)が共に新任となり、非改選だった「三菱UFJ・FG」会長の平野信行(68)を加え、メガバンク首脳3人が揃って経団連副会長ポストに就くことになった。

 前例のない金融界偏重で「おきて破りの経団連人事」(4月7日付『日本経済新聞』)と報じられ話題を呼んだが、名前りで機能しない面々を副会長として重用するなら、経団連の“老人クラブ”化を印象づけるだけの人事と言うほかない。

 コロナ対策で官民連携や民間企業の活用が進まない事例は他にもある。

 米国では3月22日、ドナルド・トランプ大統領(73)の「国防生産法」発動を受け、米食品医薬品局(FDA)が人工呼吸器製造に関する一部の規制を緩和。その結果、自動車メーカーの「ゼネラル・モーターズ」(GM)や「フォード」など異業種企業が、6月までに製品出荷にこぎ着けられる体制が出来上がった。

 日本では、「トヨタ自動車」が人工呼吸器メーカーへの支援を表明したが、製造参入ではなく、あくまで生産向上ノウハウの提供に留まっている。

「傍観者」を決め込むリーダー

 平時と有事の区別がつかず、相も変わらず規制緩和に後ろ向きの厚生労働省の姿勢が問われるのは言うまでもないが、トヨタ自動車社長の豊田章男(63)をはじめ財界有力者が、政府の方針に異を唱えることなく傍観者然としていることに、「日本の劣化」を感じ取る向きは少なくない。

 第1次石油ショック(1973年)の半年後に経団連会長に就任した土光敏夫は、未曾有の不況に苦しむ企業を訪ねて全国行脚すると共に、関係官庁の大臣や政権与党の自民党3役らを訪ね、進言と要望を繰り返した。

 当時、副総理兼経済企画庁長官だった福田赳夫が、

「1年間、私は土光さんに怒鳴られっ放しだった。ドコウさんではなく、ドゴウさんだ」

 と語っていたことはよく知られている。

 政財界に限らず、難局に際して「傍観者」を決め込むリーダーはあり得ない。

 3月初め、中国電子商取引(EC)最大手「アリババグループ」の創業者、馬雲(ジャック・マー=55)は、

「中国の医療物資が不足した時期に日本の皆様がマスクや防護服を幾度も寄付してくださいました」

 との感謝状と共に、100万枚のマスクを日本へ寄付した。

 このマスクは全国の都道府県の医療機関に配布され、段ボールに貼られた「青山一道、同担風雨(一緒に困難を乗り越えましょう)」という馬のメッセージが話題を呼んでいるという。

 ある地方経済団体の関係者は、

「経団連会長の名より、アリババ創業者の名の方が今では通りが良いかもしれない」

 と冗談交じりに話す。

 新型コロナ騒動の現状を見る限り、この国はリーダー不在で自滅の道を進んでいるように見えて仕方がない。(敬称略)

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