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「地熱・風力」発電は脱原発の切り札か―夏目幸明(ジャーナリスト)

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※公開日:8月10日

地熱には「運用経験」が必要


再生可能エネルギーへの移行が論じられるなか、有望視されているのが地熱発電と洋上の風力発電だ。

なぜ、地熱発電は有望か。それは“計算できる電力”だからだ。太陽光・風力発電は出力が天気・風向き次第のため電力需要を賄う主戦力とはなりえず、使い方は「たまたま発電できているとき、出力の上げ下げが容易なガス火力・石油火力発電所の出力を下げる」といったものに限られる。しかし、地熱発電所は天候に左右されず、ほぼ一定の出力で24時間運転可能だ。

風力も「洋上風力発電」は有望とみてよい。設置場所が海の上だから適地(発電所を設置できる場所)が広い。出力は風任せだが、全国一律で無風という状態は考えにくいため、「全国の風力発電機で最低でも何万は発電可能」というデータが出せれば、その分は“計算できる電力”に組み込める可能性があるのだ。

将来的に、これらの発電方法は原発に代わる発電方法となるのだろうか。発電所の運用者や、発電機メーカーの技術者などを訪ね、展望を聞いた。

筆者が訪ねたのは、九州電力の八丁原発電所(大分県玖珠郡九重町)だ。出力は11万2000で、地熱発電所のなかでは日本最大。歴史も長く、地質調査を始めたのは1949年、運転開始は77年にまで遡る。立地は温泉で有名な由布院駅からクルマで1時間ほど山また山を越えた場所にあり、訪ねると、発電所を覆うようにもうもうと湯けむりが立ちのぼるさまに驚かされた。

同発電所の秋好真人所長によれば、東日本大震災による電力危機以来、見学者が増え、最近は細野豪志原子力担当大臣など政治家の視察も相次いでいるという。だからこそだろうか、説明もわかりやすかった。彼はまず、地熱発電所の適地の条件から解説する。

「まず、地熱発電所の建設には二つの条件が必要になります。一つ目は、地下に高熱のマグマが溜まっていること。二つ目は、マグマによって熱せられた地下水が簡単に地表へ出てこないように水を透さない岩盤があり、岩盤の下に熱水溜まりが形成されていることです」

この次に、秋好氏は発電の原理を説明してくれた。いわば家庭のコンロで圧力鍋を熱してお湯を沸かし、シュッシュッと出てくる蒸気でタービンを回す、といった状況に似ているようだ。

「地下のマグマはコンロの役割を果たし、周辺に流れ込んだ地下水を熱します。水を透さない岩盤は圧力鍋のフタに相当します。熱水がフタによって押さえ込まれているからこそ、われわれが井戸を掘って小さな穴を開けると、そこから高温高圧の水と蒸気が噴出し、この勢いで発電タービンを回せるのです」(秋好氏)

続けて彼は、地熱発電こそ理想の再生可能エネルギーだと話す。その理由は、24時間、天候に左右されず一定の出力を維持できることだけではない。

「燃料費も、燃料を運ぶ運賃もかからず、燃料の輸入が途絶えるリスクもない。運用の手間もかかりません。弊社の地熱発電所のなかには、ほぼ無人で運用しているところもあります。だから発電コストも安い。1本数千万~数億円の井戸を年に2、3本掘る必要はあります。蒸気に含まれる不純物が井戸のなかで固まり、詰まってしまうからです。それでも、現在のコストは石炭による発電以下にまで下がっています」(秋好氏)

だが、地下水や熱源が枯れてしまうことはないのだろうか? 秋好氏によれば、地下内部の構造はなかなかわからないが、ここ八丁原発電所に関しては枯れはしないだろう、とのことだ。

「地熱発電の永続性は、運営の技術・経験によって左右されます。われわれの場合は、ここで長いあいだ運転してきたため、たとえば汲み出した熱水をどこに戻すと、高温の熱水溜まりを冷やしてしまうかなどを熟知しています。電波や音波で地下の構造を極力正確に分析し、つねに熱源が枯れないように発電しているので問題はありません」(秋好氏)

運営経験さえあれば、恒久的に使える、と考えていいようだ。

「そして、数十年間運転経験を積み重ねれば、事業も黒字化する、というわけです」(秋好氏)

一企業の努力には限界


ではなぜ、もっと多くの地熱発電所が建てられていないのだろうか。地熱の研究者によれば、日本の地下に眠る地熱の資源量は「発電量に換算すると2000万以上」というデータもある。しかし、現在は全国17カ所、発電量は約54万にすぎない。

この状況をまるで電力会社の怠慢のように報じているマスコミも少なくないが、実際はどうなのか、秋好氏が語った。

「まず、地熱の資源量が2000万分といっても、マグマの上に水を透さない岩盤がないと地熱発電はできません。私見ですが、適地のみに限れば、200万分くらいかな、と考えています」(秋好氏)

現在、人工の熱水溜まりをつくる技術なども開発されているが、まだ実験段階だ。しかし、適地が200万分もあるなら、そこだけでもすぐ開発すればどうか。ところが、ここにも事情があった。

「じつをいうと、適地の多くは国立公園内にあり、法律上、開発することはできないのです。八丁原発電所も国立公園のなかにあります。しかしここは、国立公園に関する法が定められるより前から当社が開発を始めていたため、特例のような形で開発を進めることができたのです」(秋好氏)

言い換えれば、日本国は“理想の再生可能エネルギー”で発電するよりも、国立公園の景観を守ることを重視してきた、というわけだ。

では、今後の展望はいかに。ちなみに環境省は今年2月に有識者会議を開き、国立公園の区域外などから斜めに井戸を掘って国立公園下の地熱利用を認める、とする報告書案をまとめている。さらに、再生可能エネルギーの普及のため、太陽光・風力・地熱などで発電された電力を比較的高く買い取る「固定価格買取制度」でも、大規模な地熱発電による電力は1当たり27.3円で電力会社が買い取ると定められた。これら法改正を利用すれば、新たな開発が進むのではないか?

しかし秋好氏は、地熱発電と電力固定価格買取制度は相性がよくないのでは? と疑問を呈する。

「地熱発電は短期間で開発できるものでなく、経済性も、数十年後に黒字をめざすべきものです。まず、地下の構造は現代の技術でも把握しづらく、水をどの程度戻せば出力が安定するかなどがわかるまでには経験の蓄積が必要です。これに、当社は数十年かかりました。そのあいだ、安定した利益が出る例は少ない。井戸を掘っても、黒字になるのは20年後、30年後かもしれません。

じつはわれわれも、この事業単体では利益が出なかった時代、ずっと“国家百年の計”よろしく、研究を続けてきたのです。当社の先輩も『いまは苦労しようと、何十年後、理想の井戸が一本残ればそれが日本の財産になる』といいながら、この発電所を運営してきたんですよ」(秋好氏)

だが現状の電力買取制度だと、「高値で買い取ってもらえるうちに出力を上げなければ」という経済的な力学が働く。秋好氏によれば、「せっかく適地に井戸を掘っても、悪くすれば枯らしてしまう可能性もあると思います」とのことだ。

彼の懸念はこう集約できるだろう。エネルギー政策は“国家百年の計”であり、経済原理のみで動く会社との相性はよくない。とくに地熱発電所に関しては開発タームが長いため、経済性を無視せざるをえない場面も多かった――。

「見学者のなかには、電力事業への参入を考えておられる企業の方も多いのです。しかし、いままでの歴史や現状をお伝えすると、『利益が出るのは当分先か』といった感想をもってお帰りになります」(秋好氏)

秋好氏は決して、これらの企業が利益優先体質だといいたいわけではない。そもそも地熱発電の普及には、適地が国立公園内にあるといった問題がある。それに加え、黒字化には経験の蓄積が必要であり、目先の利益は出にくいことなど、一企業の努力では乗り越えにくい壁があることを伝えたいのだろう。

すると、100年後のエネルギーを考えるなど、利益を出すこととは別の視点ももった会社および省庁などにより主導されるべき分野だ、ということになる。

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