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世界保健機関(WHO)の実態に迫るーーコロナを巡る米国との関係

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WHO本部でコロナウイルスに関する記者会見に臨むテドロス・アダノム・ゲブレイェソス事務局長(2020年3月) (Photo by Fabrice Coffrini/AFP/Getty Images)

世界保健機関(WHO)の役割は? どのような組織なのか? 新型コロナウイルスによって再び脚光を浴びたWHOの実態に迫る。

世界保健機関(WHO)がニュースに取り上げられる時は、人類にとって決して好ましい状況でないことが多い。2020年の行く末を占う上で、伝染病の感染拡大に対する各国の対応の調整に追われる国連機関が数週間に渡って見出しを賑わせることほど、暗いニュースはない。

2019年12月に中国で発生したCOVID-19=新型コロナウイルスは、世界全体で82万人以上が感染し、4万人以上が死亡している(2020年3月末時点)。さらに世界経済への影響も大きい。WHOは定例会見を開いて感染拡大の状況を報告し、最善の対策についての情報を共有している。中国を持ち上げる態度に批判が集まったテドロス・アダノム・ゲブレイェソス事務局長だが、彼は時折、超大国のよくない行動を躊躇なく非難した。例えば2020年3月にトランプ米大統領がコロナウイルスを表現するのに人種差別的な言葉を使用した際には、「私たちは残念な状況を目の当たりにしている」と嘆き、「今私たちの前には世界共通の敵がいる。私たちは力を合わせて闘わねばならない時だ」と呼びかけた。

2014年に発生した西アフリカのエボラ出血熱に対するWHOの消極的な対応には、多くの公衆衛生の専門家らが組織の70年の歴史上最も低い評価を下した。それに比べて今回のコロナウイルス感染拡大への積極的なアプローチには勇気づけられる。「WHOは我々が想定した通りの働きをしてきたし、それ以上でもそれ以下でもない」と、1990年代からWHOを見てきたケリー・リーがローリングストーン誌に語った。彼はサイモン・フレイザー大学(カナダ)の公衆衛生研究の責任者を務めている。

WHOが必要なリソースを得るのを阻んでいるのは、加盟国に名を連ねる米国を筆頭とする超大国だ。感染拡大中にもかかわらず、トランプ政権はWHOに対する拠出金の削減を示唆すると同時に、WHOの配布するコロナウイルス検査キットの受け取りも拒んだ(トランプは同キットの”有効性は低い”などという誤った見解を示した)。コロナウイルスがどんなに猛威を振るおうが、大統領には国際的な公衆衛生機関を支援し強化しようという考えは無いようだ。

※訳注:16日、トランプは、WHOへの資金拠出を一時中断すると決定した。

きっと次期大統領は違った考えを持ってくれるだろう。そして米国以外の国際社会も。だからこそ、今後数ヶ月間でWHOが能力を発揮できるかどうかが重要になってくるのだ。コロナウイルスが先進国を襲う最後のパンデミックではない。WHOが十分な資金力と運営能力を持てば、将来的な大惨事の大きな砦となるだろう。残念ながら、国際的な公衆衛生機関が十分な「資金力」と「運営能力」を持っていたのは、だいぶ前の話になってしまった。グローバル化の進んだ今こそ、国際的な公衆衛生がますます重要になってきている。

1948年に設立されたWHOは、第二次世界大戦後の国際社会のさまざまな問題を調整する目的で国連が立ち上げたいくつかの専門機関のひとつだ(WHOの他には国際通貨基金=IMFや世界銀行グループ=WBGなどがある)。設立されて以降WHOは、世界中に広まったいくつかの伝染病対策の最前線に立ってきた。中でも有名なのは、1980年の地球上からの 「天然痘」撲滅宣言だ。また、ポリオの根絶を目指す取り組みにも大きく貢献し、SARSやジカ熱ウイルス流行時の働きは世界中から称賛された。

しかしWHOの仕事のほとんどは、データ収集、専門用語の定義、手順の作成や調整役など、ほぼ報われることもないが重要な役割だ。「特定の病気の治療を受ける際、どの医者も同じレベルで診断できるとわかっていれば安心するだろう」と前出のリーは言う。「そのためにWHOは国際的な調整役として、病気の名称を決め、病気の特徴や治療法を周知している。世界中の医療制度を支える多くの重要な技術的作業を担っているのだ」。

・米国立アレルギー・感染症研究所の所長、新型コロナが「史上最悪」の伝染病である理由を語る

WHOの働きが話題になることはまずないが、活動はほぼずっと注目されてきた。機能不全とまでは行かないにしろ、WHOはずっと組織とスタッフの問題に悩まされてきた。さらに、各国の調整役としての政治的センスに欠ける専門家の集まる閉鎖的な公的機関だ、という評価を受けている。「いつでも彼らは、”我々が世界保健機関だ。我々こそが最高の知識を有している。我々が対処し、後で皆に教えてあげよう”という態度だ」と、ハーバード・グローバル・ヘルス・インスティテュートのアシシュ・ジャー所長は言う。「信頼性を高めようとしている組織としては、まずいやり方だと個人的には思う」。

WHOの抱える問題の原因は、世界中の公衆衛生のニーズに応えねばならないという幅広いミッションと、同組織を資金的に支える各国の政治的な思惑との板挟み状態にある。WHOのリソースの大部分をどのように振り分けるかは、194の加盟国とその他の関係組織にかかっている。

WHOの運営予算は、各加盟国に割り当てられた分担金と、任意による拠出金という2種類の歳入で賄われている。各加盟国には割り当てられた分担金を支払う義務があり、WHOは自由に用途を決められる。拠出金は、加盟している超大国に加えてNGOや民間組織、慈善団体、例えばカーターセンター、ブルームバーグ・フィランソロピーや、長期に渡るWHOの大口寄付者のひとつであるビル&メリンダ・ゲイツ財団などからの寄付金だ。

WHOの執行理事会に出席したテドロス・アダノム・ゲブレイェソス事務局長(2020年2月 ジュネーブ)(Photo by Salvatore Di Nolfi/EPA-EFE/Shutterstock)

一方の拠出金は国際的な公衆衛生のニーズに合うか合わないかは問わず、寄付者の意向に沿った目的に充てられることが多い。例えばゲイツ財団の一番の関心事はポリオの根絶で、2018年には1億ドル(約110億円)近くを寄付している。これは米国を除く他の国々が拠出している金額の2倍近い。ちなみに米国は約1億3200万ドル(約143億円)を拠出している。つまりWHOの予算の大半は、ポリオ根絶のための取り組みに充てられていることになる。そのため、ポリオに対してWHOは必要以上に力を入れ過ぎだとする批判の声も上がっている。

「ポリオ対策へ向けられている全てのリソースを考慮すると、ポリオ感染の症例がほとんどない現状では、果たして適切な対応と言えるだろうか?」と、グローバルな保健ガバナンスに詳しいジェレミー・ユードは言う。ユードは、ミネソタ大学ダルース校教養学部の学部長も務める。「はしかやマラリアなど、より多くの感染者が存在する病気に使うことはできないのだろうか。それほど深刻でない案件に多額のお金を費やしているようにしか思えない」。

・米大御所キャスター、トランプ大統領のコロナ対策「大統領として恥ずかしい」と猛烈批判

WHOの比較的乏しいリソースは、ゲイツ財団からのような大口の拠出金によって補われている。WHOの2年間(2020〜2021年)の予算は約48億ドル(約5200億円)。ちなみに米国疾病予防管理センター(CDC)の予算案は、2021年の1年間で約70億ドル(約7590億円)だ。WHOの収入の80%は寄付によって賄われている。つまりWHOが自由に使えるのは、わずか20%ということになる。WHOは、各国に割り当てられた負担金の増額を働きかけたり、任意で寄せられた拠出金の使い道の自由度を高めようとしてきたがうまくいかず、長年に渡り自由な活動ができないでいる。(本件に関してローリングストーン誌はWHOにコメントを求めたが、返答がない。)

「WHOには194の国が加盟していて、194通りの方針がある」と前出のユード教授は言う。「WHOは相反する利害の調整に苦労している。加盟国がWHOの広い裁量権を認めない限り、いくらWHOが望んでもがんじがらめのままだろう」。

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