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改正郵政民営化法による郵政事業の展望と課題 - 石川 和男、冨田 清行


平成24年4月27日、改正郵政民営化法(=郵政民営化法等の一部を改正する等の法律)が成立した。主な改正点として挙げられるのは、(1)日本郵政の再編成、(2)郵政民営化の定義・目的の改正、(3)金融ユニバーサルサービスの復活、(4)郵政金融2社の株式処分の無期限化、(5)郵政金融2社の新規業務規制の変更などである。

平成17年10月の旧郵政民営化法成立以来、小泉純一郎元首相が当初掲げた郵政民営化の針路は大きく変わることになる。貯金、保険、郵便の主力3事業は、銀行、生損保、宅配といった民間企業との競争に必ずしも強いとは言えず、業績も年々厳しさを増している(直近のデータとして図表1〜3を参照されたい)。日本郵政の経営体質強化のための業務拡大が必要なことは重々認識されている一方で、改正法により国営事業の色彩が濃くなるため徒な新規事業への進出は民業圧迫との批判も大きい。

本稿では、そうした中での新たな船出となる日本郵政の展望と課題について、主な改正点ごとに考察し、残されている課題についても展望を示すこととする(主な改正点も含めた改正前後の比較については図表4、5を参照されたい)。

リンク先を見る (図表1) 郵便物の推移  

リンク先を見る (図表2) 貯金残高の推移

リンク先を見る (図表3) 保有契約の推移

リンク先を見る (図表4) 改正前後の比較

リンク先を見る (図表5) 日本郵政の再編成


(1)日本郵政の再編成

旧法では日本郵政を持株会社とする5社体制で郵政民営化が開始されたが、改正法によって郵便局会社に郵便事業会社を合併(合併後は日本郵便)させて4社体制に再編成された。日本郵政の事業遂行にとって何社体制が最適であるかについては多くの議論があるところだが、改正法による2社合併に関する前向きな評価としては、2社の業務重複部分の統廃合で520億円程度のコスト削減効果が見込まれる旨、平成24年4月26日の参議院総務委員会で川端達夫総務大臣が答弁している。

後述(3)の通り、改正法によって貯金・保険(郵政金融2社)のユニバーサルサービスが復活する。そうであれば5社を1社に戻すことが最適だ、との指摘もある。郵政金融2社は引き続き完全民営化を目指すわけだが、それ以外の3社(日本郵政、郵便局会社、郵便事業会社)は独立採算の確保が困難なので、3社と統廃合することで5社を3社にすることが最善だといった声も大きい。

しかしいずれにせよ、改正法によって当面は4社体制での事業を遂行していくことになる。将来、日本郵政の再々編成論が再び起こるとしたら、それは4社体制による不都合が大きく顕在化した時ではないだろうか。今後とも、時代の要請に応じて適時適切に編成していくべきであろう。

(2)郵政民営化法の定義・目的の改正

そもそも、「郵政民営化」とは何なのか。旧法においては、「平成16年9月10日に閣議において決定された郵政民営化の基本方針に即して行われる改革」と定義されていた。旧日本郵政公社を5社に分割し、持株会社の日本郵政の傘下に貯金・保険・郵便・郵便局の4社を置き、貯金・保険は民営化開始後10年以内に完全民営化をし、郵便・郵便局は日本郵政の傘下で存続させていくというのが主旨だ。改正法ではこれが、「株式会社に的確に郵政事業の経営を行わせるための改革」に変更された。この場合の「郵政事業」とは、「法律の規定により、郵便局において行うものとされ、及び郵便局を活用して行うことができるものとされる事業」のこととされている。

より具体的には、旧法ではユニバーサルサービスの対象を郵便事業だけに限定していたが、改正法では貯金・保険もユニバーサルサービスの対象として3事業一体での遂行を郵便局に義務付けることとなった。これこそが「郵政事業」だとして、その的確な経営を行わせるためにする改革が「郵政民営化」であると定義し直した。これにより、郵政金融2社を平成29年9月末までに完全民営化するとしたことに代表される「郵政民営化」の目的も、自ずと変わっていくことになる。

「郵政民営化」の定義を変更したところで、即座に「郵政事業」に大きな変化が訪れるとは思えない。ただ将来的には、これら3事業以外にも「郵便局を活用して行うことができるもの」が含まれ得る。その時には、「郵政事業」の追加による日本郵政の経営拡大も企図され得るはずだ。

(3)金融ユニバーサルサービスの復活

前述(1)の通り、日本郵政の体制は再編成されるものの、貯金・保険の形態は変わらない。ところが、郵政金融2社の業務面では大きな変化が起こる。旧法では、全国の郵便局における貯金・保険のユニバーサルサービス義務は解除されたが、改正法では、前述(2)の通り、それを復活させたのである。

改正法の最大の肝は、郵政金融2社のユニバーサルサービス義務付けにあろう。従来から郵便局で一体的に行われてきた貯金・保険が、旧法の施行により、郵便局から実質的に切り離された形で行われるようになった。その結果、経営改善どころか、利用者に不便を強いる場面ばかりが目立ってきた。

郵便局ネットワークの維持という観点からも、危機感がより一層顕在化した。郵便局会社は郵便・貯金・保険の3事業からの窓口業務受託手数料が主な収益源だ。内訳は平成24年3月期決算ベースで、郵便から1800億円、貯金から6200億円、保険から3800億円と、金融2社合計が83%を占める。こうした状況下で郵政金融2社が各地の郵便局から撤退し始めたら、特に各地域の小規模局は維持できなくなる。そのため旧法では、「社会・地域貢献基金」が設けられており、民営化開始後10年で貯金・保険の収益金や株式売却益で1〜2兆円の積立を目指し、その運用益からの交付金によって郵便局ネットワークや郵便事業を維持することとされていた(この基金は、3事業一体化の改正法によって廃止される)。

つまり、郵政金融2社がなければ郵便局は成り立たないのは明らかで、また、実質的にも旧法の施行により利便性が低下したことを是正するために、より郵便局と郵政金融2社を強固に結びつける必要性が出てきたのであるが、そうした観点からすれば、郵便局と郵政金融2社を切り離した、旧法の「郵政民営化」とは、やはり採算性至上主義への変革であって地方切り捨てということなのではないか、となる。

改正法では、郵便局において旧法以前のように、郵便・貯金・保険の3事業を一体的に行うことが全国の郵便局の利用者にとって必要であるとして、そのための措置を規定するに至った。

しかし、郵便局と郵政金融2社が密接不可分という構図は、郵政資金の膨張志向をもたらす。郵便局ネットワークの維持のために、郵政金融2社は資金を集め続ける必要があるが、それは民業圧迫という批判に直結する。一方で、改正法下での郵政金融2社の縮小は郵便局ネットワークの縮小も引き起こすことになり、そのバランスを取ることは至難の業だ。結局のところ、郵便局ネットワークの規模に応じて、郵政金融2社の規模も決定されるという、金融市場とは別の論理で対応せざるを得ないのだ。

(4)郵政金融2社の株式処分の無期限化

前述(3)で見た通り、郵便局ネットワークを今後とも持続可能なものにしていくための制度変更が改正法の肝である。貯金・保険・郵便の「郵政事業」が公共インフラであることを改めて法的に認知することに等しい。ただそれの維持については、収益事業でもある郵政金融2社の帰趨に依るところが大きい。

旧法では、郵政金融2社の株式を平成29年9月末までに「全部を処分する」ことになっていた。改正法ではこれについて、「全部を処分することを目指し」、郵政金融2社の経営状況などを勘案しつつ、「できる限り早期に、処分する」としている。非常に理解しにくい書き方になったと思われるが、要は、郵政2社の株式処分の期限を無くしたということだ。

郵政金融2社の完全民営化を目指しつつも、「郵政事業」の収益源である郵政金融2社を日本郵政の傘下に極力置き続けるにはどうすべきか。これを同時に追求した結果、このようなわかりにくい規定が産まれたのであろう。

ゆうちょ銀行は国内最大の銀行であり、かんぽ生命は国内最大の生命保険会社である。これら郵政金融2社について、改正法で「郵政事業」の要として再度位置付けられたとは言え、金融機関として銀行や生損保など民間金融機関と健全に競争しながら経営を維持・継続していくには、「郵政事業」での金融2機能の在り方を柔軟に考えておく必要があるはずだ。

そうした観点から、「郵政事業」における貯金機能と保険機能をゆうちょ銀行とかんぽ生命だけに委ねる体制は当面続くだろうが、今からでもゆうちょ銀行・かんぽ生命以外の金融機関(例えば地方銀行や信用金庫など)への金融2機能に係る業務委託について真剣に模索し始めるべきではないか。それが郵政金融2社依存体制からの脱却の第一歩である。

(5)郵政金融2社の新規業務規制の変更

旧法により発足したゆうちょ銀行とかんぽ生命は、発足当時から銀行業界と保険業界で資金量でそれぞれ首位を保ってきている。近年、資金量はともに漸減傾向にあるものの、両社とも国内最大規模のメガ金融機関であることに変わりない。民営化が始まったとは言え、特殊会社である日本郵政が全株式を保有する郵政金融2社が同業他社への民業圧迫にならないよう、新規業務を行うに当たっては政府による認可が必要とされた。

これに関して、改正法では当初は認可制のままであるが、日本郵政が郵政金融2社の株式を2分の1以上処分すれば届出制にすることとした。これは一見すると大きな規制緩和に思えるが、届出後でも政府の監督命令の対象になるため、実際には認可制に極めて近い運用になるのではなかろうか。届出制の導入は、将来的な新規業務への参入を円滑にしていくためのものと解するべきだろう。

しかし、認可制の下であっても郵政金融2社が新規業務に参入できないというわけではない。与信分野や保険分野では、民間の金融機関では手付かずの部分が相当ある。既得権益が大きく存する領域への参入は批判の対象にもなり難しいが、そうでない領域については積極的に進出していくことを企図すべきだろう。郵政金融2社の参入により、新たな金融事業が芽生えることも十分あり得ることなのだ。

これは前述(4)の郵便局によるゆうちょ銀行・かんぽ生命以外の金融機関への業務委託と相俟って、郵政金融2社と民間の金融機関との健全な競争環境の整備を促していくことにも繋がっていくであろう。

今後の展望:郵便局の活用に関する意思決定をどうするか

そもそも、「郵政事業」とは何か。定義が見直されたとしても、一般的には郵便局で提供されているサービスが郵政事業として認識されることには変化がないであろう。つまり、利用する側にとっては「郵便局」というアクセス・ポイントが重要なのではないだろうか。全国に2万4千局を超えるポイントを有していることは、基本的に歩いて利用できるユニバーサルサービス網の根幹となっている。これに並ぶものが小学校(全国約2万2千校)であることを考えれば、郵便局ネットワークの重要さがより強く認識される。

これまでの郵政改革議論において、この郵便局網の活用策に関して必ずしも明確でないままに今に至っていることは、郵政の本当の価値を見出せていないことを示している。平成21年から22年にかけて開催された政府の郵政改革関係会議で、郵便局をパスポートや年金、介護などの地域の行政・福祉サービスの提供拠点として活用する案が提示されたが、結局のところ、郵便局へのニーズは地域によって異なると考えるのが妥当であり、それをユニバーサルサービスとして固定させることは困難である。

今般、郵便に加え郵政金融2社をユニバーサルサービスとして位置付けたことは、郵便局ネットワークの維持という以上の意味を見出し難く、その先にある持続的な郵便局ネットワークの活用策は次の段階まで持ち越されている。地域に貯金事業が必要だとしてもゆうちょ銀行に限定すること、同様に保険事業をかんぽ生命に限定することの意義はどういうものであろうか。地域で郵便局の活用方法を考える際、前述(4)で述べた通り、地域の金融機関等が郵便局で金融機能を担う可能性も出てくるのではないだろうか。

旧法でも改正法でも、郵便局は特殊会社として株式会社となっているが、郵便局の組織形態を株式会社にしたのは、旧法における大きな失策の一つだ。改正法では、郵便事業会社との合併によって日本郵便となるため特殊会社として存続することになる。だが、各地域の3事業拠点としての郵便局ないし郵便局ネットワークを合理的に持続可能なものとしていくには、株式会社形態ではなく、公営形態に戻していくのが本筋であろう。その際、各地域の経済社会情勢によって柔軟に個々の郵便局を維持管理できるよう市町村行政組織の一部に組み込むという直営方式や公設民営方式など、地域の実情に合った最適な運営方法を実現させるべきではないだろうか。

郵便局を利用する私たちは、どのような郵政事業を求めているのか。いずれ、こうした観点も含めた郵便局と郵便局ネットワークの在り方を再検討していく時が来るであろう。そして、その時は全国一律でサービス内容を決めるのではなく、運営方法も含めて、地域で考えることが求められることになるだろう。



(参考)
 政策提言「郵政改革試案(中間報告)〜住民が決めるユニバーサルサービスへ〜」(2010年2月)

 政策提言「郵政改革試案〜国民ニーズに合致した郵政サービスへ〜」(2010年3月)

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