記事

【佐藤優の眼光紙背】尖閣に不法上陸した5人と不法入国した9人の扱いを区別すべきである

逮捕者の釈放を求める、香港の活動家。(16日、AP/アフロ) 写真一覧
佐藤優の眼光紙背:第138回
 政府は、尖閣に不法上陸した5人と不法入国した9人をあわせて国外退去にするようだ。産経新聞の報道を引用しておく。

沖縄県の尖閣諸島に不法に上陸した香港の活動家らを含む14人は強制送還される見通しとなった。「捜査を尽くすべきではないか…」。早期送還が「妥当」との流れに、現場の捜査関係者や海上保安庁関係者からは、毅然とした対応を求める声もあがった。繰り返される“弱腰”決着は議論を呼びそうだ。

 「起訴するのが本来の姿だが、政治的判断が加わるので、単独で判断はできず、従うしかない」。海保幹部はこう話す。

 「限界」ともとれる発言の背景には、平成16年に尖閣諸島で起きた中国人活動家7人の上陸事件の幕引きがある。活動家らは不法に上陸を断行した上、島内の石碑などを壊したため、器物損壊容疑も加えて身柄送検の方針を固めていたが、小泉純一郎首相(当時)の政治判断で強制送還となったのだ。

 さらに今回は、上陸直後に県警や海保に身柄を拘束され、構造物を壊すなどの違法行為にはいたっていない。海保の巡視船が停船を求めた際、抗議船から、れんがやボルトなどが投げつけられ、巡視船の船体の一部が損傷したが、損壊の状況や程度、けが人が出ていないことから、公務執行妨害罪や器物損壊罪の適用も見送られるという。

 「違法な所持品がない限り、現段階では送還が順当」(警察庁幹部)、「不法入国だけで初犯なら、送検しても起訴猶予となり、最終的には強制送還となる」(検察幹部)との判断に傾くのはそのためだ。

 「起訴したら法廷が彼らの主張の場になってしまう」(入管関係者)との声もある。(8月17日、MSN産経ニュース)

 本件に関しては、国際法的要因とそれ以外を区別して考える必要がある。

 まず、国際法的要因としては、わが国の固有の領土である尖閣諸島に対する日本国家の実効統治が確認されているという基本を政府が押さえていれば、特段の問題はない。強制送還にするか、送検するかは、日本の国内的判断の問題である。

 しかし、今回の事案に関しては、現実的な再発防止策を講じなくてはならない。その観点で、尖閣諸島の魚釣島に不法上陸した5人と尖閣諸島周辺のわが国領海に不法入国した9人の取り扱いを区別すべきである。

 日本国家の領域は、領土、領海、領空に分かれる。領土・領空と領海は、国際法的な取り扱いが異なる。外国の船舶が日本の領海を航行しても、無害通航ならば領海侵犯にはならない。今回の抗議船の場合、尖閣諸島に不法上陸する意図があるのだから、無害通航とはいえない。いずれにせよ、領海に侵入するだけの不法入国と、わが国の領土に不法上陸することの間では、後者の方がはるかに悪質である。

 中国人は、今後も尖閣諸島への上陸を試みる。このことを考慮に入れ、今回、魚釣島に不法上陸した5人に関しては、送検し、背後事情、中国の公権力の関与などを徹底的に調査する必要がある。この機会に、「尖閣諸島に上陸すると送検され、長期勾留される」という「ゲームのルール」を定着させることが重要と思う。(2012年8月17日脱稿)

■関連記事
尖閣問題をめぐり国際世論を日本に引き寄せる外交戦略を政治主導で構築せよ - 8月16日
李明博韓国大統領が『光復節』の演説で竹島に言及しなかったことの真意を見誤ってはならない。竹島返還国会決議と『竹島の日』の全国化で反撃せよ - 8月15日
李明博韓国大統領の暴言を封じ込める現実的方策を外務省は考えよ - 8月15日
竹島問題の対話と国際法による解決を韓国と国際社会に毅然と主張すれば、状況は日本にとって有利になる - 8月10日
李明博韓国大統領の竹島訪問に抗議して、日本政府はただちに在韓国大使を召還せよ - 8月9日

プロフィール

佐藤優(さとう まさる)
1960年生まれ。作家。1985年に外務省に入省後、在ロシア日本大使館勤務などを経て、1998年、国際情報局分析第一課主任分析官に就任。 2002年、鈴木宗男衆議院議員を巡る事件に絡む背任容疑で逮捕・起訴。捜査の過程や拘留中の模様を記録した著書「国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて」(新潮社、第59回毎日出版文化賞特別賞受賞)、「獄中記」(岩波書店)が話題を呼んだ。
2009年、懲役2年6ヶ月・執行猶予4年の有罪判決が確定し外務省を失職。現在は作家として、日本の政治・外交問題について講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。近著に「功利主義者の読書術 (新潮文庫)」がある。

あわせて読みたい

「尖閣諸島」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    悪意感じたオリラジ中田批判記事

    たかまつなな

  2. 2

    植松被告 翌朝小指噛みちぎった

    篠田博之

  3. 3

    疑惑の政治家に不逮捕特権が復活

    渡邉裕二

  4. 4

    女性題材にして炎上 触るな危険

    中川 淳一郎

  5. 5

    中国の年金使い込み 大変な事態

    団藤保晴

  6. 6

    「安倍は嘘つき」桜の会で浸透か

    メディアゴン

  7. 7

    小栗旬社長就任へ 現社長認める

    女性自身

  8. 8

    漫画村を追い詰めた天才ハッカー

    文春オンライン

  9. 9

    「AI美空ひばり」は腹話術の人形

    毒蝮三太夫

  10. 10

    石破氏の根拠ない自衛権論に疑問

    篠田 英朗

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。