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日本はガダルカナルの戦力の逐次投入の愚を再び繰り返すのか?

一週間前の4月7日に緊急事態宣言が発出された。期間は5月6日までの1ヶ月間で、人との接触機会を最低7割、極力8割削減させ、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせることを目標に掲げ、各自治体での取り組みが始まっている。

接触機会の8割削減は生半可な対応では到底達成できない水準だ。8割削減の理論的根拠を示した西浦博教授は、8割削減が実現できなければ感染者数が減少に転じるまでの期間が長くなると警告している(65%であれば105日)。それにも関わらず、大臣や担当部署から6割や7割では駄目かと値切るような問い合わせがあったという。理論的には8割削減が必要なのに、緊急事態宣言において「最低7割、極力8割」とされたのは、政治判断のようだ(「このままでは8割減できない」 「8割おじさん」こと西浦博教授が、コロナ拡大阻止でこの数字にこだわる理由)。

また、休業要請に巡っては、経済への影響を懸念する政府と、早期に休業要請に踏み切りたい東京都の間でせめぎあいがあった。国はもともと緊急事態宣言から2週間ほど状況を見た上で、休業要請を検討するとのスタンスであり、「休業要請を出させたくないのが本音」だったという。

東京都が6日に示した措置案においては、基本的に休止を要請する施設として、大学、スポーツクラブ、劇場、ライブハウス、ネットカフェ、漫画喫茶、パチンコ店、理髪店、百貨店、ホームセンターなどを例示していたが、経済への打撃を恐れる国の意向を踏まえて、7日夜の都知事会見では例示がなくなり、徹底した外出自粛の要請だけになった。結局東京都が休止を要請する施設リストを公表したのは10日にずれ込んだ。

4月14日時点の状況


さて、以下は先日のエントリでも示した100万人あたりのCOVID-19死者数推移を示したものだ。前回から2週間が経過し、様相がかなり変わっている。日本の100万人あたりの死者数は0.4人から1.1人と3倍近くに伸長した。最近のトレンドにおいてもはっきりと上昇傾向が見て取れ、感染爆発が近づいている(あるいはすでに起こっている)ことを示している。

COVID-19_2020-04-14

インタラクティブ版(Tableau Public)
PCによるアクセス推奨(日次更新)。右上のメニューから国を選択可能。また100万人あたりの死者数と感染者数を切替可能。マウスのポイントで当該国のみハイライト。

緊急事態宣言による外出自粛の効果が現れるのは宣言の2週間後であり、現時点で増加傾向が続いているのは想定内ではあるが、政府はモバイル位置情報の解析などに基づき、「最低7割、極力8割」の接触削減には届いていないと認識しており、危機感を強めているという。西村経済再生担当大臣は経済3団体に出勤する従業員を最低7割減らすよう改めて要請した。その一方で政府は休業補償には慎重であり、首相は休業補償は「現実的でない」と改めて否定している。

感染終息には8割の接触削減が必要だと分かっているにも関わらず、経済への打撃を恐れて、外出自粛という強制力も保障もない施策しか実行できない。こんなことで本当に感染爆発を阻止し、1ヶ月で終息への道筋をつけることができるのだろうか。

戦力の逐次投入の愚


この状況は第二次世界大戦において日本敗北を決定づけたガダルカナル島の戦いを彷彿とさせる。ガダルカナルでは日本は圧倒的な物量を有する米軍に対し、戦力の逐次投入を行い敗北している。興味のある方は「太平洋戦争 日本の敗因2 ガダルカナル 学ばざる軍隊」を一読されると良い。

  • 1942年8月、一木大佐率いる一木支隊900名のイル川渡河戦
  • 1942年9月、川口少将率いる川口支隊6,200名の第一次総攻撃
  • 1942年10月、丸山中将率いる第二師団15,000名の第二次総攻撃
日本軍は米軍の兵力を過小に見積もった楽観的な分析に基づき、戦力を逐次投入、圧倒的な物量を誇る米軍になすすべも無く敗北した。第二次総攻撃においては日本軍は陸海軍戦力を統合発揮すべく臨んだが、計画にあった人員・輜重の輸送が敵軍の攻撃によって阻止されたにも関わらず、攻撃は予定通り実行され、その時までに準備万端整えた米軍の圧倒的火力の前にあえなく惨敗したのだ。

ガダルカナルの敗戦から我々が教訓として学ぶべきことは、楽観的な分析に基づき敵戦力を過小に評価してはならないということと、戦力の逐次投入はせず最初から十分な戦力をもって当たらなくてはならないということである。

翻って、いまの新型コロナ対策は感染者数や感染拡大の速度・広がりを過小評価していないだろうか。医療体制のキャパシティを過大に期待していないだろうか。休業補償や国民への現金配布など取りうる対策の逐次投入になっていないだろうか。どうにも状況が重なって見えてしまう。

なお、ガダルカナル島奪還作戦を立案したのは大本営陸軍部作戦課のエリート(恩賜組)だが、立案においては積極的な精神論が重視され、論理ではなく場の雰囲気と勢いによって決定された。一方で責任の所在は曖昧で、彼らが罰せられることはなかったのである。

新型コロナウイルス感染症対策本部においては、専門家の科学的な知見に基づき、精神論や政治力学ではなく、論理に従って妥当な意思決定が迅速になされこの未曾有の国難に対応されており、最終意思決定者においては全責任をもってその決定を行っていると信じたい。

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