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初版部数100万部、報奨契約やポスティングも話題の『史上最強のCEO』仕掛け人が語る出版業界の未来

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BLOGOS編集部

世の中が新型コロナウイルスの話題一色になる前、SNSを中心に大きな話題になった一冊の本がある。それがフローラル出版が刊行した『史上最強のCEO』だ。

出版不況と言われる時代に初版で100万部を刷ったことや、一風変わったポスティングでのプロモーションが注目を集めた同書は、どんな目的と狙いをもって刊行されたのか。仕掛け人であるフローラル出版・代表の津嶋栄氏に聞いた。

「初版100万部」で業界に投じた一石

―初版100万部、前例のないポスティングによる販促など『史上最強のCEO』が話題になっていますが、この企画はどのようにスタートしましたか?

正直に申し上げると著者からの提案がきっかけです。私自身もジェームス・スキナーの主宰する経営者塾に参加しており、彼に色々なことを教わりながらフローラル出版を立ち上げることができました。

実際、フローラル出版はM&Aで取得したんですけど、立ち上げから骨組みを作るまで自己資金ゼロという、まるで魔法のようなアクロバティックな方法で設立しました。そういった点も含め、私自身が彼の教えを体験している立場でもある。その集大成がこの出版社であり、この本のビジネスモデルという形になっているんです。

―本書の内容を簡単に説明すると、どんなことを目指した本なのでしょうか。

この『史上最強のCEO』は、著者のジェームス・スキナーが日本の経営者を奮い立たせたいという本なんですね。日本全体が「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の時代と比べると色々な意味で元気がなく、国際競争力がかなり落ちてきている。

世界を牛耳っていると言われるGAFAの一角にも入れず、ユニコーン企業は先進国の中でも少ない。でも日本は精神性が高い国であって、いろんな意味で世界から尊敬される部分もある国なので、もっともっと元気になって世界をリードしていくべき存在であってほしいし、経営者が消極的になっている状況をなんとか打破したいというメッセージが込められています。

個人的に気に入っているのは第三部で、ジェームスが経営者をめった打ちにしていくパートなんですけど、「会社の唯一の問題は社長」「あなたが変わらないと会社は変わらないよ」と伝えています。ここで挙げた7つの問題点をクリアすることで日本企業が発展を目指していけるんじゃないか、もっとチャレンジしていこうよ、という思いが込められています。

―初版100万部という数字はどのように決定したんでしょうか。

本人は著名な経営コンサルタントで、これまでに色々な本を書いていますが、実は経営本を書くのは初めてだったんです。つまり、ジェームス・スキナーの30年の集大成となる特別感がある本になります。著者と信頼関係を築いていく中で、そうした本に見合うプロモーションをやっていきたい、という話をしていました。

あと、これまでのミリオンセラーとは違った100万部の作り方にチャレンジしていきたいという思いがありました。私自身としても出版界を元気づけたいと常々考えてきたので、新興出版社でも業界にインパクトのある活動ができることを示したい、チャレンジしようというメッセージを込め、「100万部」という数字に決めました。

―思い切った数字ですね。

多少は「ズルい」的な見られ方もするんですけど、でも出版業界は実売部数を公表せずに発行部数で動いている世界なので100万部は嘘ではない。100万部発行したら「ミリオン」と言っても間違いではないんです。知り合いからは「考えたことはあるけど、実際にやるやつは初めて見た」と言われましたが、やろうと思ったら、初期コストやランニングコストをどうするかという問題さえ解決できれば、このスキーム自体は誰でもできる。だから、こういう100万部の作り方もあるよ、と業界に一石を投じてみたかったんです。

こうしたこちらサイドの思いと、著者の「100万部を日本の経営者すべてに届けたい」という思いがうまく噛み合って形になったのが、今回の初版部数ですね。

書店を巻き込むとうまく行く

―書店との画期的な報奨契約も注目されていました。

書店さんは色々な出版社が報奨企画を持ってくるので、それ自体は特別視していないんですけど、今回新しかったのは仕入れに報奨がついていることと、フローラル出版の刊行物すべてを対象とした基本施策であることだと思います。仕入れ100円・実売100円という通常では考えられない報奨を設定したんですけど、ただそれも原価計算の問題なんです。

この本の価格は1800円ですが、1400円くらいの値付けをする出版社もあるスペックだと思っています。でもこの本では、定価を上げて、そこから書店に還元するモデルを試してみたんです。業界の現状を見ると、書店も取次もタイトル数を減らして単価を上げてほしいという要望が多く聞こえてきます。出版社は経営的な問題で出版点数を減らせない、何が当たるか発売してみないとわからない、など様々な理由からそこに踏み切れないんですけど、そこを確実に当てる方法でやっていこうと。

―なるほど。

私が高橋書店にいた頃から思っている仮説に「書店さんをしっかりと巻き込むことで色々なことが可能になる」というものがあります。今は70法人と特約店契約を結んでいて、2000店くらいの特約店がある状態です。こうなると確実に“売れる”状態が作りやすくなるので、まずこういった形を作ることを目指しました。

―書店からの反応はどのようなものがありましたか?

書店さんからすれば利率改善に大きく貢献するので「思い切ったことしたね」という反応や、こういう形を作ったことで「ありがたい」という声が圧倒的に多かったと感じています。発売して2ヶ月以上経っても新刊台に置いてくれて、返品もほとんどない状態で、書店さんもこの試みについて粋に感じてくれているのかなと考えています。

うちとしては、書店さんが返品しても仕入れの報奨は支払うのでリスクはあるんです。大量に仕入れて返品を繰り返せば、仕入報奨だけ手に入るという抜け道もあるので。ただこれも、書店を信頼してみようという実験なんです。実際、反応は良かったと思っています。

炎上騒ぎになったポスティングの舞台裏

―『史上最強のCEO』はAmazonに出荷していませんが(※)、その狙いはどこにありますか。

正直に言うとまだ効果はわかってないんですけど、書店さんへのキラーワードになったとは感じています。中古では流通しているし、Amazonで100%買えないわけではないので完全に狙い通りとは言えませんが、これも一つの実験ですよね。Amazonで売らなかったらどうなるのか、という。

個人的には業界がAmazonを過剰に信奉しすぎているように感じています。現状Amazonのシェアは20%くらいで、残りの80%は実店舗で売っています。一社で20%と聞くと大きく思えるけど、逆にシェアとして20%しかないとも言えます。そこに対して過剰に反応する必要もないのではと考え、Amazonで取り扱わないでベストセラーが作り出せるかを確かめたいと思いました。

※新型コロナウイルスの感染拡大に伴う書店の休業を受け、現在は一時的にAmazonでも販売

―書店との関係で言うと、一部で大きく話題になっていたポスティングに反対の声はないんでしょうか。

ポスティングはあくまで一部地域の実験的な試みということでご理解いただいています。この施策はインフルエンサーマーケティングの延長で、いわば献本文化の拡大解釈。影響力のある人や雑誌に献本することの裾野を広げてみる実験だと思っています。

ポスティングをやっている地域とやっていない地域でどんな差が出るのか、受け取った人が紹介してくれたことで売上が伸びるのか、買おうと思っていた人にまで届いてしまって売上が落ちるのか、それを検証するための実験。でも、時代の流れ的には紹介されたことで、売上が伸びる効果が強いと予想しています。西野亮廣さんが『えんとつ町のプペル』をネットで無料公開した時に反対する声が多かったけど、実際にやってみたら売上が伸びた例もありましたよね。

―なるほど。SNSでは否定的な声も含め様々な反応がありました。

Twitterなんかでは炎上していましたけど、こちらが意図していないところに届いたものは炎上しやすかったのかな、と思っています。これには若干の計算違いがあって、基本的にはすべて事業所を対象に、社長に手に取ってもらえるように投函するつもりだったんです。ただ、ポスティング会社のコントロールがこちらで100%効かず、意図していないところに届くということが起きてしまった。

高級住宅地区の高層マンションや、富裕層・経営者層が住んでいると予想できる地域は対象にしてもいいと伝えていましたが、そこで少し認識の違いがあって。

―あくまで限定的な施策であって、100万部のうち90万部を配っているようなことはないと。

それはやってないですね。でも否定的な声があったことも前向きに捉えています。最初の頃に見られた声よりも段々と賛否両論感が出て、「話題のCEO本がやっと届いた」といった反応も見られるようになりました。精度を上げていくという課題はあるんですけど、収穫もあったと思います。

Twitterでの否定的な声はほとんどが経営者ではない人からのものなので、ミスマッチングを引き起こしたところから生まれています。だからと言って何かを請求するわけではないですし、私たちがやっていることで基本的に害は与えていないつもりです。「資源の無駄だ」とも言われましたが、この本を作るのに総量として6800本の木を伐採した計算になるので、代わりに1万5000本の植樹も行いました。そういう部分は気をつけてきたつもりではあります。また、本の中にセミナーへの誘導はありますが、申し込むかどうかは自己判断ですので「詐欺商法」みたいな指摘は全く見当外れだと思っています。

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