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汚職の背景に国際政治なみの駆け引き 元理事に聞く国際サッカー連盟の内幕

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多くの熱狂を生むスポーツ・サッカーの舞台裏を取材する森雅史さんの連載『インサイド・フットボール』。今回は世界のサッカー界をリードする立場にある国際サッカー連盟(FIFA)元理事の小倉純二氏にインタビュー。内部を知る小倉氏が「国際政治そのもの」という加盟国間の駆け引きや汚職が起きた背景など、存分に語っています。

ワールドカップなど、サッカーの国際大会を主催することで知られる国際サッカー連盟(FIFA)。国連を上回る加盟団体数を持つ同団体で、かつて日本はなかなか中枢に入っていくことができなかった。2002年日韓ワールドカップ後、日本サッカー協会(JFA)から理事に当選することが出来た小倉純二氏は、その内実を知る数少ない日本人の1人だ。2015年、汚職でスキャンダルにまみれた原因や、日本とゆかりのあるスーパースターがなぜ告発されたのかなど、スポーツ界の国際政治の裏側を語ってもらった。

世界最大の国際競技団体 国際サッカー連盟(FIFA)とは

—— 世界のサッカー協会を束ねる国際サッカー連盟(FIFA)は、どのような組織なのですか

現在、FIFAには211の国と地域のサッカー協会が加盟しています。私が理事を務めていた時代(2002年から2011年)は、24名で構成されていた理事会(現在のFIFAカウンシル)にすごく権限がありました。

—— 理事会はどのような議題を処理していたのですか

理事会ではワールドカップの開催国の決定や新しい大会などを開催するかどうかなどを決めていました。少なくとも2日間は朝から夕方までフルで議論するんです。事務局が出してきた案を承認するだけとか、そういうのではなかったですね。

話を聞いたFIFA元理事でJFA名誉会長の小倉純二氏 撮影:神山陽平/Backdrop

いろいろな委員会もあって、委員長と副委員長は必ず、FIFA主催の大会に行って、運営の指揮を執らなければなりませんでした。ワールドカップのような大きな大会では、理事がそれぞれ会場の担当になって実際に働いていました。それで私もいろいろな国に行きましたね。

—— 実際には、どんな国に行きましたか

ナイジェリアに2回、1999年ワールドユース(現FIFA U-20ワールドカップ)の時と2007年U-17ワールドカップで行ったのですが、2007年は内閣の政権争いに民族間対立もあって政情不安でした。だからどこに行くにも銃を持った人が付いてきて守ってくれました。

そんな経験をしていたので、治安が不安だと言われていた2010年南アフリカワールドカップのときは、そんなに怖いと思いませんでしたよ。ヨハネスブルクでは外出できないし食事もすべてホテル内で済ませなければなりませんでしたが、私が担当したポート・エリザベスという街では外出して食事もできましたからね。もっともホテルからスタジアムまでは拳銃を持ったガード2人に必ず付いてもらっていました。

—— 大会の主催以外にFIFAが果たした役割は何ですか

FIFAは世界のサッカーに貢献しようとしていました。たとえば2002年日韓ワールドカップが終わった後に、FIFAは収益金の中から各国のサッカー協会に40万ドルずつ配ったんです。

東南アジアの国々はサッカーのための土地があってもクラブハウスやピッチがなかった。それを40万ドルで整備して立派な施設を次々に造ったんです。インフラが整ったから、彼らは強くなってきました。

今、日本が東南アジアの国と戦っても簡単には勝てなくなった。アジアのレベルが上がってきているのは事実です。そうやってFIFAはサッカーのためになることをやろうとしてきました。ですが、悪い人たちがいて、それが目立つようになったときがありました。

大金が動くサッカービジネス FIFAにもあったスキャンダルの過去

—— FIFAは2015年に理事などが収賄やマネーロンダリングの疑いで告発されたり逮捕されました。そもそもスキャンダルはなぜ起きたのでしょうか

昔は理事会のメンバーが世界のサッカーを動かしているという感じがありました。だから逆に買収というスキャンダルも生まれたんです。2015年ぐらいから次々に理事の汚職が明らかになりました。ワールドカップやコパ・アメリカ(南米選手権)がお金になると思っている人たちがいるわけですよ。

—— 買収が起きてもおかしくない状況だったのですね

買収はエージェントが行います。エージェントはワールドカップやコパ・アメリカなどがどこで開催されると儲かるか考えて、声をかけていくんです。ワールドカップの出場国枠が欲しいと思っているような国なんかは、エージェントにとって騙しやすかったと思います。

また、出場しない国でもスキャンダルが起きました。2018年ロシアワールドカップでは総入場者数が約300万人と言われています。それに対してテレビなどで見る人は約36億7200万人だったとFIFAは発表しています。そこにすごい金額が動くんですよ。

FIFAが主催するW杯は一大ビジネスだ Getty Images

—— どういう理由で理事が捕まったのでしょうか

北中米や南米の理事が捕まったのはテレビの放映権絡みでした。日本はチャンネルがたくさんありますが、国によっては2つしか放送局がないところがあるんです。もしどちらかの局が放送権を取ったら、完全にその国を独占できます。そこに便宜を図って金銭をもらって捕まっていました。

捕まった人たちはアメリカに口座を持っていましたね。自分の国は通貨危機や暴落の恐れがあって、ドルのほうが安全と思っているんです。だから賄賂をアメリカの口座に振り込んでもらうんですけど、アメリカの口座はマネーロンダリングを厳しく見張っているから見つかったんです。

—— アジアも買収劇の舞台になった?

アジアでは、アジアサッカー連盟のモハメド・ビン・ハマム・アル・アブドゥラ会長を除いて捕まっていません。エージェントは私になんて接触しないんですよ。日本サッカー協会(JFA)はいろんなテレビ局に配慮してやっているって知っているから。それにアジアってあんまりお金にならないと思っていますし。

ハマム会長が捕まったのは、北中米に100万ドルを持ち込み、20カ国に5万ドルずつ配り、票を集めようとしていたからなんです。後で「どうしてそんなバカなことをやったんだ」と聞いたんですけど、「お金を欲しがっている人たちに渡して何が悪いんだ」という感じでした。相手のホテル代や飛行機代を払ってやったんだと言うんです。でもとても5万ドルなんて経費がかからないわけですからね。それでハマム氏はサッカー界から永久追放になってしまいました。

日本にゆかりのあったフランスの「将軍」も拘束

—— 有名サッカー選手だったミシェル・プラティニ理事も捕まっていました

プラティニが捕まったのは、私もショックでした。プラティニは1998年フランスワールドカップの組織委員長で、大会後にはアドバイザーみたいな立場でFIFAに関わっていたんです。

2002年日韓ワールドカップを控えていた私たちも、プラティニからワールドカップの運営方法を教えてもらっていました。それにプラティニは2005年からの世界クラブ選手権(現クラブワールドカップ)がスタートするとき、理事会で「やはり日本で開催するべきだ」と発言してくれて、それで最初の5年間は日本で開催できたんですよ。

1970年代に活躍し、日本では「将軍」と呼ばれたミシェル・プラティニも汚職容疑で拘束された Getty Images

—— 彼にはどんな問題があったのでしょうか

私たちは、プラティニは当然FIFAから報酬をもらっていると思っていたんです。ところがどうやら無給だったようです。それでプラティニは、10年後にそのときの報酬をもらったんだと言ってました。200万ドルだったかな。

でもその金銭の受領時期がFIFA会長選挙と重なっていたんです。それでプラティニは賄賂を受け取って立候補を止めたと思われてしまいました。そこで資格停止になったのですが、ただ永久追放ではなくて、来年にはサッカー界に復帰してくると思います。

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