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日銀保有の長期国債が銀行券発行残高を超えたというニュース

 昨日、日本銀行の保有する長期国債残高が銀行券発行高を超えたというニュースが流れたのですが、貴方はどのようにお感じになっているでしょう? というよりも、何故日銀が保有する長期国債の残高が銀行券の発行高を超えるとニュースになるのでしょうか?

 そうなのです、それは日本銀行が独自に課した銀行券ルールという内規が存在するからに他ならないのです。

 では、銀行券ルールとは何か?
 
 銀行券ルールとは、日銀が保有する長期国債の残高が、銀行券の発行高を超えないようにとするルールであって、要するに日銀が財政ファイナンスをしているとの誤解を招かないようにするための工夫であるのです。

 ということで、この銀行券ルールのお蔭でというか、せいで日銀の長期国債の保有には一定の歯止めがかけられているわけですが‥しかし、日銀が14日に発表した営業毎旬報告によれば、なんとそのルールが破られてしまったことになるのです。

 というのも、8月10日現在の日銀の銀行券発行高は80兆7876億円であるのに、長期国債の保有高は80兆9698億円(四捨五入)であるからです。

 まあ、いずれにしてもこの種の話になると、どうして日本は日銀券ルールなんてものを維持しているのだ、という批判が聞かれるのです。そんなルールを設けている国は外国には一つもない、と。そんなルールに日銀が縛られているからデフレからいつになっても脱却することができないのだ、と。

 では、日銀がそのルールを破棄しさえすれば、世の中に流通する紙幣の量が増え、マイルドなインフレが引き起こされると断言できるのでしょうか?

 マイルドだろう? なんちゃって。

 私は、それはどうも作られた話にしか思えないのです。

 というのも、そのようなルールがある国は日本以外にはないとはいっても、世界の中央銀行が自国政府の国債をどれだけでも購入するなどという事態はおよそ想定外のことであるために、敢てそのようなルールを設けるまでもないからです。逆に、日本の場合に何故そういうルールが必要になったかと言えば、内外から日銀に対し強いプレッシャーがかけられたために非伝統的な政策を採用することになった訳ですが、そうした非伝統的政策の実施に当たっては何らかの歯止めが必要であったからなのです。

 幾らデフレからの脱却が最優先課題だとしても、逆に激しいインフレが起きたら元も子もない訳で‥
その意味で何らかのルールを設けることが何故いけないのでしょう?

 さらに言えば、その銀行券ルールというのは今も一応は維持してはいるというものの、資産買入れ基金による長期国債の買い入れは例外扱いとされており、従って、事実上銀行券ルールは破棄されているからなのです。

 私思うのですが‥銀行券ルールを批判する人々も或いは支持する人々も、そんなことよりも、これだけ日銀の長期国債の保有高が増えても、その一方で銀行券の量が僅かしか増えていない事実にもっと着目すべきであると思うのです。

 下の数値をご覧ください。
 


                  銀行券      国債      うち長期国債
2005年度末    74兆9781億円  93兆2731億円   60兆4743億円
2006年度末    75兆8941億円  76兆4457億円   49兆2392億円
2007年度末    76兆4615億円  67兆3907億円   46兆8802億円
2008年度末    76兆8977億円  64兆2655億円   42兆6612億円
2009年度末    77兆3527億円  73兆0661億円   50兆2129億円
2010年度末    80兆9230億円  77兆2992億円   59兆1229億円
2011年度末    80兆8428億円  87兆2471億円   70兆6866億円

2012年8月10日現在 80兆7876億円  98兆7646億円   80兆9698億円

(資料:日本銀行)


 これからどんなことが言えるでしょう?

 銀行券ルールが不要だと批判する人々は、デフレ脱却のために、市場に出回る通貨の量を増やすべきだということを一番言いたいのだと思うのですが‥上のデータから分かるように、日銀が保有する国債の量と銀行券の量とはそれほど強い相関関係がないということが証明されているのです。

 もちろん、日銀が国債を大量に購入すれば、当然のことながら銀行券を発行する強い力が働く訳なのですが、しかし、必ずしも銀行券が増える訳でもない、と。つまり、日銀のオペに応じて国債を日銀に売却した市中銀行がその資金を当座預金勘定に放っておけば、いつまで経ってもそれが銀行券に変身することはなく、世の中に出回る銀行券の量が増えることはないのです。

 逆に言えば、銀行券の量がそれほど増えないような基金の長期国債の購入策というものは、一体どんな意味があるのか、と。

 いずれにしても、事実上銀行券ルールを放棄しておきながら、基金による長期国債の買い入れは例外なのです、なんて言い訳をする日銀は全然男らしくないのです。

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