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【読書感想】お金の減らし方

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 そして、「お金というのは、やりたいことをやるための『手段』でしかなくて、本当に欲しいと思えるものを手に入れるためなら、お金をなんとか稼ぐか、自作したりなるべくお金がかからない方法を摸索したりして、なんとかそれを実現しようとするはずだ」とも仰っています。

 「お金がないからできない」というのは、「本当にそれがやりたいわけではない」ということではないか、と。

 いろんな反論が出てきそうだし、それこそ「それはあなたが森博嗣だから言えるのだ」と僕も思います。

 でも、この新書を読んでいると、森先生は、もし小説家として年収1億オーバーなどという金銭的な成功をおさめることができなくても、森先生なりに自分の趣味の庭園鉄道をつくっていたはずです。もちろん、今みたいなスケールのものではなかったでしょうけど、それはそれで、森先生は「納得」していたのではなかろうか。
 
 糸井重里さんの有名なコピーに「ほしいものが、ほしいわ。」というのがあるのですが、これが西武百貨店のコピーとして世に出たのが1988年です。

 いつの時代も、いや、ある程度豊かになったからこそ、人は、自分がほしいものが、わからなくなったのかもしれません。あるいは、ほしいものと必要なものが、乖離してしまったのか。

 カラーテレビや冷蔵庫はもちろん、マイホームやマイカーでさえ、「買えないもの」ではなくなったけれど、「そんなものに意味があるのか」と考える人も増えてきています。

 森先生は、大学の教官時代のことを振り返って、こう述べています。

 専門的な技術というか、その分野の知識を学んでいることが、就職には圧倒的に有利であり、多くの場合、企業の方から学生にアプローチがあった。ときには企業が学生を接待する。優秀な学生は、黙っていても有名企業から誘いがある、という世界だった。こういうことは、文系の大学ではちょっとありえないことかもしれない。

 もう少し一般化すると、これは個人の価値を高めることと等しいだろう。よく言われる表現で「手に職をつける」というものがあるが、そういうスペシャルな状態になると、仕事に就きやすいし、転職もしやすくなる。食いっぱぐれることがない。また、これを高めれば、多くの場合、高給につながる。 

 つまり、お金の増やし方として、さきほど挙げたどの方法よりも有効なのは、実は自分自身の仕事能力を高めることであり、もっと簡単な言葉でいえば、「勉強」である。

「勉強」は、けっして楽しいものではない。当たり前である。しかし、勉強することでお金が増えるのは、ほとんど事実だといえる。統計的にも、これは簡単に証明できるだろう。

 だからこそ、親は子供の教育に熱心になる。お金をかけて塾へ行かせ、家庭教師をつけ、小さい頃から勉強をするように仕向ける。勉強が楽しくなるように、あらゆる工夫をしている。「将来のため」という言葉で、子供を説得しているようだが、つまりは、「お金になる」という意味なのだ。おそらく、自分たちの経験でも、それが事実だと身に染みてわかっているからだろう。

 ということを考えると、良い仕事に就くにはどうしたら良いですか、という疑問にも、「今すぐに効果がある方法はない」と答えるのが正しい。一番良い方法は、何年もかけて勉強することだし、それはつまり、就職を間近に控えた段階では、もう手遅れなのである。

 毎度のことなのですが、森先生の話は、身も蓋もないのです。「それができれば苦労しないよ」と言いたくなるのだけれど、半世紀近く生きてきた僕の実感としても、「それ」をやるのが、万人にとって、もっとも期待値が高い方法なんですよね。

 現代の資本主義社会では、「お金をどう使うか」というのは、「どう生きるか」に近い意味があるのです。

 「簡単に儲かる方法」を信用しない、借金をしない、なんていうのは、当たり前のことです。

 今の世の中では、「裏ワザ」があると見せかけて、他者から奪おうとする人が、あまりにも多い。

 投資が悪いというわけではないけれど、コロナ・ショックの只中にいると、「あの、『投資しなければ損』という空気は、いったい何だったのだろう?」と、僕も下がり続ける株価をみながら自責の念に駆られています。

 「長い目でみれば、世界経済は右肩上がり!」とは言うけどさ、目の前でどんどん資産が目減りしていく状況で、冷静に、その「いつか回復するとき」を待つのはつらすぎるのです。

 これまでの森先生の新書のなかでは、僕にとって、素直に受け容れられるところが多い印象がありました。

fujipon.hatenadiary.com

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