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マレーシアの「本物ロックダウン」現場から見た日本 - 立花 聡 (エリス・コンサルティング代表・法学博士)

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手錠を掛けられ、マレーシア警察に連行された写真付きと実名出しで現地で報道された――。日本人容疑者(81歳、年金生活者)は4月3日、ノル・イッツァティ・ザカリア判事の前で通訳によって訴状を読み上げられた。クアンタンの公園で野鳥の写真を撮影するために外出した同容疑者は、新型コロナウイルス感染防止の行動制限令(MCO)に違反したとして、裁判所から1000リンギットの罰金(または3カ月の禁固刑)を科せられた(4月3日付、マレーシア英字紙ザ・スター 『MCO: Japanese man fined RM1k for leaving house to photograph birds』)。

民意に支えられる本物のロックダウン

勝手に外出すれば、警察に逮捕され、罰金や刑務所行き(または併科)である。そのほかにも複数の日本人が街でジョギングしたことで逮捕されていた。街だけでなく、今はコンドミニアム敷地内の散歩やジョギングも禁止されている。生活必需品の買い出しは一家に1人だけ外出が許されるが、自動車は運転手1人以外に同乗は許可されない。各地では警察が厳しく検問や取締りを行っている。

今の日本では考えられないマレーシアのロックダウン(都市封鎖)は本物だ。現地在住の私も不本意ながら自宅隔離の生活を「満喫」している。いや、不本意とはいえない。むしろ個人的にはこのような厳格なロックダウンに賛同している。

情況が明らかに改善しているからだ。マレーシアのR0(基本再生産数)は3月18日付で発効した行動制限令発令前の3.55から、4月10日現在の0.9に落ちた(4月11日付けマレーシア華字紙南洋商報)。R0<1の場合、感染症は終息していくといわれているが、マレーシア保健省は4月10日、感染を最大限に断ち切るために最低でも6週間のロックダウンが必要とし、ムヒディン首相に2度目の延長を提言し、首相が再延長を決断した。

現地での民意調査によれば、8割以上の国民がロックダウンの実施や延長に賛成している。日本で騒がれている「私権制限」を持ち出して抗議する声はほとんど聞かれない。ビジネスに熱心な華人でも商売よりはまず命第一、命を落としたら一巻の終わり、生き残りさえすれば、いくらでも後からビジネスができると考えているようだ。

要するに、疫病退治とビジネス・経済の優先順位をはっきりさせている。このことについては基本的に政治家や国民のコンセンサスが取れている。より早くビジネスを再開し、経済の復興に取り組むためにも、まずは思い切った措置でコロナの拡散を食い止めなければならないと。

私たち在住外国人も大変厳しい状態に直面している。出入国に関しては、一般のマレーシア人は出国禁止となっているが、外国人は出国できる。ただ、いったん出国すれば、マレーシアへの再入国ができなくなる。

3月18日行動制限令の発効当日、私はベトナム出張を予定していたが、当然キャンセルになった。さらに行動制限令の延長に伴い、4月以降の出張などの海外渡航は次から次へとキャンセルせざるを得なくなった。現状をみる限り、長期戦の様相が濃厚である。私の場合は、年内の渡航・出張予定をすべてキャンセルする前提で仕事の日程を組み直した。

日本企業のテレワークが普及しない、その原因とは?

職業柄、リモートワークに向いていることもあって、私は昨年からすでに仕事の一部をWebセミナーやWeb会議・相談に切り替え始めた。コロナ危機の到来を予見したわけでもなく、時代のトレンドとして遠隔ビジネスがいずれ主流化することだけは感知していたからだ。とはいえ、やはり人間は会って話すのが便利で、どうもリモートワークの取り組みがそれほど早く進まなかった。今年も相変わらず、月例出張のスケジュールを組んだ。

年明けてみると、2月初中旬の出張から状況が一変した。まずは武漢の封鎖をみて、急遽上海出張をキャンセルしたが、これに続くベトナム出張はスムーズだったし、日本出張も名古屋で某企業グループの幹部社員500名が集まった講演会で登壇し、問題なくこなした。しかし、2月下旬からは状況が悪化しはじめた。

3月に入ると、それまで平和だったベトナムやマレーシアも陥落の様相を呈した。続いてWHOのパンデミック宣言。私の仕事の内容も変わった。顧客企業のテレワーク体制の確立に提案しなければならなくなった。

製造業現場を除いて、普通のオフィスワークなら、「ハンコを押すために出社する」というようなパターンは論外として、従来の業務を従来の目線で見れば、多少なりとも会社に出向く必要が見出されるだろう。「テレワークのできる仕事」から選別し、テレワークを進めていくのではなくて、「どうしても出社しないとできない仕事」とは何か、そこから始める必要がある。

こんな状況においても、日本のテレワーク普及率がまだ低い。パーソル総合研究所は3月23日、新型コロナウイルスで全国の正規社員の13.2%がテレワークを実施したとする調査結果を発表した。1割強という率は低すぎる。私が住んでいるマレーシアでは、「テレワーク」や「リモートワーク」といった用語すらほとんど聞かれない。多くの会社は当り前のように「在宅勤務」に切り替えていた。

日本ではテレワークがなかなか普及しない。年長従業員、特に幹部の間にIT機器を使いこなせない人が多いという事情があるかもしれないが、根本的な原因ではないと思う。テレワークにおいて、海外と日本の普及率の差、その本質的な原因とは何であろうか。

企業組織でいえば、海外企業の場合、一般的にヒトと職務の結びつきであるのに対して、日本企業はヒトとヒトの結びつきである。言い換えれば、前者が「職務型組織」であって、後者は「共同体型組織」である。テレワークという遠隔性は職務指向であり、共同体への破壊作用をもっているから、日本企業に敬遠されるのである。

コロナショックによって、今後「非接触型社会」がより勢力を強めていくだろう。組織のなかでも、「努力」という属人的・対人型の評価基準が、職務的・対事型に変わっていかざるを得ない。そうした意味で、テレワークがまさに一種のトリガーになるだろう。

日本社会の危機感欠落、その原因とは?

3月9日のフジテレビ系「直撃!シンソウ坂上」は、緊急生放送で行われ、マレーシアのクアラルンプール在住のシンガーソングライター・GACKTがテレビ電話を通じて、現地の状況や生活をレポートしながら、コロナ危機下の日本について、「言葉を選ばずに言っていいのであれば」と前置きしてから「狂ってますよ、かなり」と語った(『ロックダウン中のマレーシア在住のGACKT、日本は「危機感が足りない」「言葉を選ばずに言えば…」』4月10日付スポーツ報知)。

日本社会の危機感が不足していることを、GACKTが指摘した。それは事実である。誰かが指示してくれるだろう、誰かが守ってくれるだろうという期待感が持たれるから、危機感に起源する自己防衛本能がなかなか作動しない。私はそう感じている。

各国の新型コロナウイルス対応について、台湾前議員の沈富雄氏が日本モデルを取り上げこう酷評した――。

「何すればいいか分からず、体裁すらなしていない。日本という国はいちばんダメなのは、優柔不断。当初から中国人観光客のインバウンドの利益を貪る一方、リスクにまったく無関心。ダイヤモンド・プリンセスの惨状に束手無策のまま、大国の風格貫録を完全に捨て去った。国土が広いだけに、これからの最善策は区域を画定し、台湾モデルを生かして取り組むことだ。あとは運任せのみ」(2月17日付台湾聯合新聞網)

的を射た総括ではないだろうか。真の友人だから、本音を吐いてくれた。さらに、台湾人作家欧陽靖氏が日本のコロナ対策をこう分析した――。

「日本人は、SOP (Standard Operating Procedure=標準業務手順書)民族だ。彼らは臨機応変、突発事件の処理に弱い。地震対応に強いのも、完璧なSOPがあって、職人的に反復練習しているからだ。日本国がここまで強くなって進歩したのも、国民の一人ひとりがSOPを守っているからだ。国家全体が順調に機能する機械であり、国民はみんな歯車になって応分の役割を最大限に果たしているからだ」

「18年前のSARSはその当時の日本は(中国人観光客に)開放しておらず、幸運にも大きな被害に遭わなかったが、今回の新型コロナウイルスは様子が違った。問題に気付いたにもかかわらず、日本人は議論して有効な解決策を打ち出せなかった。疫病との戦いは時間との戦いだが、日本人はその本質を見失った」

「WHOへの盲信と盲従も問題。WHOの提言に従って中国人観光客の入国を制限しなかったし、検疫官が防護服を装着せずダイヤモンド・プリンセス号に上船した。いずれもマニュアルや上司の指示に忠実に従った行動だったが、結果的にウイルスが拡散した」

「でも、日本はこれで終了することはない。日本人は酷くやられて痛定思痛(痛みが収まってから痛みを思い出して今後の戒めにする)で、もっとも完全な疫病防止システムをもつ国になろう。同時に、このたびの災厄の実体験をもって、日本国民が目覚め、思考停止から脱出し、日本の腐り切った政治環境の徹底的改革に取り組むことを切に願いたい」(2月20日付、三立新聞網)

耳の痛い批判だ。日本人は体験型学習やルール順守が得意だ。しかし前例なき危機に直面し、SOPたるマニュアルなき判断・行動を求められると、なかなかうまく即応できない。今回のコロナ危機は、多大な犠牲を伴う体験型学習になるかもしれない。

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