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ナショナリズムの祭典

 さて、ロンドンオリンピックは柔道男子の失墜を尻目にボクシングとレスリング男子に金メダリストが出るなど、期待はずれに終わった種目もあれば予想外の躍進も見られた大会でした。柔道における日本勢の国際的な地位の低下には、日本の意に沿わぬ形でルールが改正されて云々と被害者意識を募らせる人も多いわけですが(タックル系の技の禁止とかでしょうかね)、レスリングやボクシングでの健闘を見るにルール改正なんかよりも別のところに問題があるような気がします。

ギグス:「国歌を歌わないことに問題はない」(Goal.com)

ロンドン五輪でチームGB(イギリス代表)のキャプテンを務めるMFライアン・ギグスは、キックオフ前に国歌を歌わなかったとしても、ウェールズの選手たちがチームに尽くそうとする気持ちに変わりはないと語った。

セネガルと1−1で引き分けた大会初戦で、ウェールズ出身のギグスとFWクレイグ・ベラミー、MFジョー・アレンはキックオフ前にイギリス国歌『ゴッド・セイブ・ザ・クイーン』を歌わなかったことが論議を呼んでいた。

3人は29日に行われたUAE戦でも国歌を歌わなかったが、試合後にギグスはこの件は問題視するようなことではないと語った。

「個人的なことだ。イギリス国歌はウェールズ人、スコットランド人、イングランド人にとって同じものだ。難しいことではあるが、僕らにとって問題ではない。試合が始まれば全員が同じ方向へ向かっている。それが一番重要なことだと思う」

 

 往々にして国際大会は、中でもオリンピックはナショナリズムの高揚の場でもあります。極東の島国では公的予算を費やして国歌が起立して歌われているかを調査、監視していたりするわけですが、そんな馬鹿げたことはしない国でも程度の差はあれ「国歌を歌え」と迫る連中は出てくるもののようです。もちろんフランスのジダンやリベリ、平然とガムを膨らませていたスウェーデンのイブラヒモビッチなど国歌を歌わない選手なんて珍しくもありませんが、そこに噛みつく人もいるのでしょう。ギグスは「試合が始まれば全員が同じ方向へ向かっている。それが一番重要なこと」と述べる一方で、「国歌を歌う」という「形」を遵守させることに情熱を燃やす人もいると言うことです。

 

韓国の朴鍾佑、表彰式出席できず=「竹島」メッセージでIOCから通達〔五輪〕(時事通信)

 ロンドン五輪のサッカー男子で銅メダルを獲得した韓国のMF朴鍾佑が、11日のウェンブリー競技場での表彰式に出席できなかった。韓国男子代表の洪明甫監督らによると、同選手は10日の3位決定戦で日本戦に勝った後、竹島(韓国名・独島)領有を主張するメッセージを場内で掲げた。

 チーム関係者によると、国際オリンピック委員会(IOC)から朴鍾佑を表彰式へ出席させないよう通達があった。他の17選手は出席し、銅メダルを受け取った。朴鍾佑は日本戦の試合後、韓国サポーターからメッセージを渡されたという。この関係者は、朴鍾佑のメダルの扱いについて「何も聞いていない」と話した。 

 そんなナショナリズムの祭典で、IOCから警告された選手も出てきたわけです。まぁ、ちょっとやり過ぎたというところでしょうか。ここぞとばかりに日本のレイシストが息巻いていますけれど、韓国内では朴選手を支持する声がネットなどで多くを占めているとも伝えられています。どうなんでしょう、先日の記事で「外交は失敗した方が国内的には賞賛される」と書きましたけれど、この場合も例外ではなさそうです。朴選手の行動は日本に限らずIOCからも良い顔はされなかった、国際的な理解からはほど遠い状況にあると言えますが、むしろそうであるからこそ国内では好意的に迎えられているようにも思います。これがもっと「お行儀の良い」振る舞いであったなら、結果は違ったことでしょう。

 日本を下した韓国のサッカー代表選手が勝ち取ったのは銅メダルだけではありません。「兵役免除」という率直に喜ぶには政治的に微妙な特権もまた勝ち取ったわけです。日本においては自衛隊は常に翼賛の対象、いじめや暴行で隊員を死に追いやった挙げ句に調査資料を隠蔽しても信頼が揺るぐこともなければ(学校じゃそうはいきません!)、一般の公務員を公然と罵倒して国民の喝采を浴びる政治家が闊歩する時代にも関わらず自衛隊員を面と向かって侮辱する議員など誰一人としていない、大学で高等教育を受けてきたはずの新入社員を「学ばせる」ために自衛隊に体験入隊させる企業も後を絶たないなど、批判らしい批判すら存在しない神聖不可侵な存在です。「○○を自衛隊に入れて鍛え直せ」みたいな主張も定期的に繰り返されるなど自衛隊は我々の社会の模範として位置づけられているのですが、しかるに「自分が」自衛隊に入ろうとする人となると必ずしも多くなかったりします。あれだけ世間の評価が高い組織なのに、不思議な話です。

 翻って韓国の軍隊はどうでしょう。日本のように自国の軍隊に妙な幻想を抱いている人が多いかどうかはさておくにしても、兵役を勤め上げてこそ一人前、国民は国を守る務めを果たせみたいなノリは多少なりともあるはずです。そして、それを大声で叫ぶ人も日本と同じくらいにはいると思われます。そんな中で「兵役免除」のために死力を尽くす選手の姿はどう扱われるのでしょうか。真剣に競技に打ち込んでいる選手であればあるほど、自分のキャリアが兵役によって損なわれることを望まないものです。自ら望んで軍に入りたがる人は、兵役の義務を果たせと迫る人ほどには多くないことでしょう。しかし「兵役から逃れるために頑張りました」とは流石に口にしにくいことでもあります。だから表向きは、もっと別の動機を掲げなければならないところも出てくるのかも知れません。

 兵役免除という自国のナショナリストからは決して肯定的に扱われないであろう特権を得るのですから、その分だけ余分に別の形で「愛国心」を披露することが求められると言えます。このような場面で観客から自国政府の主張を書いたプラカードを差し出されたとしたら、どう反応すべきでしょう。相手にせず突き返したともなれば(その上で兵役免除です)、国内的には結構なバッシングに遭うことも考えられます。日本において「君が代を歌え」と迫られる場面と同様、拒みにくい状況が少なからず作られてもいるのではないでしょうか。「愛国心」を試される場面で、自分の意志を貫くことは意外に難しいものです。ましてやファンあってのサッカー選手でもあるだけに、一部の過激な連中であろうとも「ファン」の声を退けるのは楽ではないのだろうと思います。

 

室伏、当選無効 JOC、事前の説明不足 東京五輪招致“戦力ダウン”(産経新聞)

  室伏の当選無効の決定は、2020年東京五輪招致にとって大きな痛手になりそうだ。

 IOC選手委員会は、五輪運営に選手の意見を反映させる役割を担い、当選者はIOC委員にも就任する。日本のIOC委員は、7月下旬に就任した日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長1人。室伏が加われば、20年五輪の開催地が決まる来年9月のIOC総会に向けて、投票権を持つIOC委員との接点が増えただけに、招致活動の“戦力ダウン”は否めない。

 20日にロンドン入りした室伏は「五輪選手のセカンドキャリアを一緒に考えていきたい」と立候補の理由を説明。日本選手団の橋本聖子副団長によると、選手村入村後から村内の食堂で各国選手に投票を呼び掛けてきた。

 その際、室伏が配ったステッカーが選挙規定に抵触したとみられる。規定上、日本選手団のスタッフは選挙活動の支援を禁じられており、室伏が単独で選挙活動をおこなっていた。

 ただし、どのような行為が違反になるかについては、JOCが室伏に事前に説明できたはずで、JOCの責任は免れない。

 

 一方こちらは日本の話。何でも指定された場所以外での選挙活動などでIOCから2度の警告を受けたそうで、室伏選手には当選無効との決定が下されました。この辺はオリンピックの東京招致に向けたJOCの思惑も絡んでいたはず、まぁ自国の政治主張を選手の口から語らせたがる人は我が国にもいると言うことです。建前上、スタッフによる選挙活動は禁止とのことで室伏が個人でステッカーを配るなどしていたようですけれど、これがどこまで室伏個人の意思であったか微妙なところではないでしょうか。ハンマー投げという決して金にならないスポーツの選手である以上、いかに室伏と言えどスポンサーの意向を無視できる立場ではないはずです。バックに付いている団体が、IOCの委員に立候補せよと勧めてくれば無碍にはできないように思います。暗に選挙活動に力を入れろとの圧力もあったのではないでしょうか。結果はご覧の有様です。スポーツ選手を政治に利用しようとする人は、オリンピック開催期間中も元気に活動中ですね。

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