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「緊急事態宣言」に見る、日米欧の違い - 海野素央 (明治大学教授、心理学博士)

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 今回のテーマは、「日本と欧米におけるコロナ対策の相違点」です。安倍晋三首相は4月7日、新型コロナ感染の急速な拡大に伴い「緊急事態宣言」を発令しました。宣言からコロナウイルスに対する日欧米の対応の相違点が見えてきました。そこで本稿では、コロナ危機をめぐる世界各国のリーダーの対応を紹介しながら、日本が抱えている問題点をコミュニケーションンの視点を交えて述べます。

知事に対する「縛り」

 米中西部オハイオ州ではマイク・デワイン知事(共和党)が3月9日、3人の新型コロナウイルス感染者が確認されると、即座に「非常事態宣言」を出しました。ドナルド・トランプ大統領は翌10日、「国家非常事態宣言」を発令しています。デワイン知事はわずか3人の感染者で、トランプ大統領よりも早く同州に非常事態宣言を行い対策を講じました。

 例えば、オハイオ州では集会が禁止され、レストランやバーは閉鎖に追い込まれました。筆者が研究の一環として参加していた州都コロンバスのバイデン選対も閉鎖を余儀なくされました。

 デワイン知事は大統領が出した国家非常事態宣言に縛られることなく、次々と対策を打ちました。同知事は、理髪店、ホームセンター及び居酒屋などに対して休業要請を出すのか、その調整を連邦政府と協議し時間を費やす必要はありません。知事の「自由度」が高い訳です。

 一方、日本では安倍首相の「緊急事態宣言」発令後に、対象地域となった7都府県の知事に権限が与えられました。知事に対する「縛り」があり、それが危機的状況において「スピード感」を持って対応に当たれなかった一要因となっています。

「スピード感」の欠如

 前述した制度上の問題に加え、日本は東京五輪・パラリンピック年内開催か延期に関して決定を下さなければならない課題も抱えていました。「完全な形での開催」にこだわった安倍首相はコロナ対策よりもこの決断に時間を費やし、初動対応が遅れた事実は否定できません。多少乱暴な言い方をすれば、「東京五輪・パラリンピックファースト、コロナセカンド」のツケが今、回ってきているということです。

 日本が東京五輪・パラリンピック年内開催か延期かでモタモタしている間に、欧米及び韓国では国民にウイルス検査を積極的に実施しました。トランプ大統領はホワイトハウスで連日行われるコロナ対応に関する記者会見で、「179万人(4月5日時点)がウイルス検査を受けた」と胸を張り、「米国は他国よりも検査のスピードがある」と強調しました。

 これに対し、安倍首相はやっと4月7日になって「(ウイルス感染を調べる)PCR検査が6日時点で、全国で1万1000件のウイルス検査能力を確保した。1日2万件に倍増する」と衆議院運営委員会で説明し、検査件数の拡大に努力する姿勢を示しました。

 この背景には在日米国大使館が3日、米国や欧州と比較して日本におけるコロナ感染者数が少ない理由に触れ、「日本政府が広範囲にわたって検査を実施しないと決めたことで、コロナの罹患率を正確に評価するのが難しい」と指摘し、実際の感染者数は公式発表の数よりも多いという含みを持たせたことがあったとみてよいでしょう。安倍首相の突然の検査体制強化は、ダメージコントロールです。在日米国大使館の警告を弱めて、「しっかりやっている」というメッセージを発信したフシがあります。

 では、なぜ安倍首相は当初から全国規模のウイルス検査に全力を挙げて取り組まなかったのでしょうか。おそらくウイルス検査により、全国の重症者、軽症者及び無症状感染者の数を正確に把握すると、東京五輪・パラリンピックのイメージが低下し、世界から「延期」ではなく、「中止」の声が上がる可能性を懸念したのかもしれません。

 是が非でも最悪のケース(開催中止)を回避し、東京五輪・パラリンピックを自分のレガシー(政治的遺産)にしたいという心理が首相に働いたのでしょう。その結果、コロナ感染に対して「スピード感」のある対応ができませんでした。

性悪説VS.性善説

 安倍首相は7日の記者会見で、「緊急事態宣言は都市封鎖を行うことではない」と繰り返し述べました。「経済サービスは維持する」と言うのです。ただ、強制力のない中途半端な緊急事態宣言によって、わずか1カ月間で本当に感染を防ぐことができるのでしょうか。

 以前述べましたが、ロックダウン(都市封鎖)中のイギリスでは、感染が確認されたボリス・ジョンソン首相が徹底した「外出禁止令」を出し、「警察官が違反者を取り締まり罰金を科す」と語気を強めました。ジョンソン氏は強制力によるルールの厳守により、重症者数を抑えて医療崩壊阻止を図ろうとしています。

 同様に、ロックダウンが続くドイツは州境に検問所を設置し、居住州以外の州への移動を禁止して、厳しいコロナ封じ込めを実施しています。

 一方、安倍首相は都市から地方へ移動をしないように注意を呼びかけ、一人ひとりが責任の自覚ある行動をとるように促しました。要するに、日本の強制力のない緊急事態宣言及び都市封鎖の否定は「性善説」に基づいたものです。これに対して、罰則並びに罰金による強制力を柱にした欧州の政策の根底には「性悪説」があるといえます。

行動変容の仕方

 行動変容に関するアプローチの仕方も日本と欧州の政治指導者で異なります。例えば、緊急事態宣言の中で、安倍首相は「人と人との接触する機会を最低7割、極力8割減らせば、2週後に効果が出る」と主張し、行動変容を求めました。加えて、3密(密閉・密集・密接)に注意をするように促しました。「数値目標」と「スローガン」を用いた行動変容の仕方です。

 これに対し、ジョンソン首相、アンゲラ・メルケル独首相及びトランプ大統領は「死」を持ち出し、「恐怖心」によって国民の行動を変えようとしています。

 例えば、ジョンソン氏は「医療崩壊は死者数を増加させる」というメッセージを発信しています。メルケル氏は国民向けのテレビ演説で、「次のことを真剣に受け止めてください。復活祭(今年は4月12日)の国内旅行を止めてください(省略)。生死にかかわる重要なことです」と述べ、外出が「死」と直結するという強い警告のメッセージを発信しました。

 一方、トランプ大統領は連日行われる記者会見で常に死者数に言及しています。思えば2016年米大統領選挙において、トランプ氏はメキシコからの不法移民がサンフランシスコで白人女性を殺害した事件について繰り返し有権者に語り、恐怖心を煽って投票行動が自分に有利になるように変えました。恐怖心は行動変容をもたらす有効な手段です。

コロナ戦争と支持基盤

 これまで欧米と日本のリーダーのコロナ危機に関する対応の相違点を中心に述べてきましたが、トランプ大統領と安倍首相には類似点があります。まず欧州のリーダーと比べ、トランプ・安倍両氏は「経済ファースト、コロナセカンド」の立場をとっています。

 トランプ氏は東部ニューヨーク州を中心に感染が拡大する際中に、経済活動の再開を主張しました。前述しましたが、安倍首相は東京都で感染者数が急増する中、経済活動を重視し、ロックダウンのような強制的措置に踏み切りませんでした。

 次に、製薬が「コロナ戦争」に打ち勝つゲームチェンジャー(試合の流れを一気に変える出来事)になる可能性をアピールしている点です。

 手洗い及びソーシャル・ディスタンス(人との距離を充分開けること)は確かに重要なのですが、ホワイトハウスのコロナ対策チームが指摘するように、感染拡大のスピードを抑制する「緩和戦略」でしかありません。そこで、政治指導者はコロナとの戦いの劣勢を挽回し、根本的な解決になるゲームチェンジャーを強く欲する訳です。これはリーダーならば当然でしょう。

 トランプ大統領はマラリア治療薬「クロロキン」及び「ヒドロキシクロロキン」の感染患者への投与に意欲を示しています。安倍首相は抗インフルエンザ薬「アビガン」のセールスに非常に熱心です。

 ただ、トランプ大統領の言動には看過できない問題点があります。コロナ対策チームのアンソニー・ファウチ米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)所長は、トランプ大統領からの圧力に屈せず、マラリア治療薬の投与に関して「有効か充分な証拠はまだない」と明言し、慎重な立場を崩していません。マラリア治療薬が血液中のウイルスの濃度を減らし、肺の炎症を抑える効果があるのか疑問視しているのです。逆に、不整脈を引き起こす副作用は証明されています。

 にもかかわらず、トランプ大統領は「人々が亡くなっているので時間の猶予がない。患者には投与する権利がある」と主張して、マラリア治療薬使用の立場を貫いています。

 結局、トランプ大統領は支持基盤である製薬会社と株価を意識して新型コロナと戦っているのかもしれません。仮にそうであるならば、コロナ感染者数と死者数において極めて重大な局面を迎えても、「支持基盤第一主義」を実践しているという意味になります。

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