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【実名報道を考える】「出る杭は打たれる」空気 メディアは当局との距離をどう取るか

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ロンドンのウォータールー駅構内は公共空間の1つ(撮影筆者)

 「実名報道を考える」では、共同通信編集局特別報道室の澤康臣編集委員(当時。4月から専修大学文学部ジャーナリズム学科教授)に聞いた現場の話を数回に分けて紹介している(澤氏の経歴は記事の最後に付記)。

 第1回目:【実名報道を考える】現場の記者に聞く なぜどのように匿名志向が生まれたのか

 第2回目:【実名報道を考える】現場の記者に聞く なぜ実名報道が基本になっていくのか

 今回は、匿名志向の背後にある考え方、これまでの教育、そして当局と報道機関との緊張関係、リークの意味について聞いてみた。

 なお、同氏の話はあくまで個人的見解であり、所属組織とは関係ないことを付記する。

「出るくいは打たれる」という空気

―日本での実名・匿名報道の議論について、普段から思っていらっしゃることをお聞かせ願えますか

 日本の「出るくいは打たれる」空気は非常に大きな影響を与えていると思います。注目を浴びたり、目立ったりは特別なこと、危険で怖いこと、攻撃を受けることだと感じる人は少なくないのではないでしょうか。私自身もそういう感覚はあります。

 教育の過程で「意見を言う」「思ったことを言う」ことが十分に推奨されず、「おとなしく聞いている」ことのほうが安心な教室になっているのではないかと思います。英国、米国など英語圏では「ショウ・アンド・テル」(見せて語る)という授業が小学校低学年などで広く行われているんだそうですね。何かをみんなの前で説明し、質疑もあるとか。

 「これは真似したい!欧米では定番の“Show and Tell”って知ってる?」

 パブリックスピーキングは出来て当たり前? アメリカの学校における取り組み

BBCの子供番組「ラブ・モンスター」の「ショー・アンド・テル」の画面(BBCのウェブサイトから)

 パブリック・スピーキング(公共公開の場でみんなに話すこと)に子どもの頃から慣れていくのだと思います。民主主義の主権者として意見を考え意見を言う訓練は、とてもすばらしいと思います。記者として赴任した米国では本当に街角取材が楽で、政治、社会問題についてほぼ誰でも実名OKでどんどん語ってくれます。それにはこんな基礎があるのでしょう。

 どんな子も一人一人みんなの前で自分の意見を言う、つらい目に遭ったことを表明した子はブレイブ(勇敢)でありヒーローである、というようなことは日本ではどうなんでしょう。少なくとも私の子ども時代は、目立たず、はみださず、それが安全安心--という学校でした。もっとも私はお調子者で、当時でいう「目立とう精神」がある例外的なヘンな子だったのですが…。

 今はどうなんでしょう。アクティブラーニングが取り入れられつつあるそうなので、意見を言ったり質問したりが活発化するといいと期待しています。

 それにしても、日本では名乗って話すという文化がとても弱いと感じています。講演会やシンポジウムで質問をする人も、英語圏だと「私の名前はジョン・スミスで、何々の仕事をしています。私の質問は…」と話し始める人が多いのに対し、日本では全く名乗らなかったり「一般のもので…」と言ったりというようなことがふつうの風景です。「属性で判断するから属性情報には価値があるが、誰々という一個人であることの価値はない」、そういう感じです。

 一個人であることの価値、一個人として認識することの意味が無いのなら、出る杭が打たれたり、目立って気恥ずかしい思いをするマイナス面のほうがずっと深刻です。名前を呼んだり知らせたりすることは「尊重」ではなく「攻撃」というのが、日本の匿名社会に流れる空気なんでしょうか…。

 だから、できごとを語るときも固有名詞を「某」にしてみたり、匿名、イニシャルにしてしまうことが「配慮ある語り方」「品格ある者の振る舞い」となるのかも知れません。

 例えば、明らかに槇原敬之さんの事件のことを論評しているのに、ことさらに「覚醒剤所持の罪で起訴された人気男性アーティストが…」と表現し、「槇原敬之さん」という名前を避けるというような具合です。明らかに槇原さんの個別ケースを指していて、書き手も読み手も槇原さんのことだと分かっていることが前提になっている文章でもです。それが何となく上品なしぐさであるかのような共通認識があります。

 あるいは、虐待関係だったと思うのですが、ある学会に取材を兼ねて出席したとき、米国からのゲストが米国で実際に起きた虐待事件のいくつかを紹介しました。パワーポイントを使い、加害者や被害者の名前、写真なども明示されたのですが、主催者の日本側学者はちょっと慌てたように「この個人情報などはここ限りで」と注意していた場面が印象的です。米国のゲストスピーカーはそんなことは一切求めていなかったのに、です。

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