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人の移動と新型ウイルス拡大

▲写真 新型コロナウイルスは国境を越えた人の移動で感染が拡大した。写真はスイス・チューリッヒの駅でのワンシーン(2020年3月27日撮影) 出典: flickr; Silvision
flickr; Silvision

人の移動と新型ウイルス拡大
植木安弘(上智大学総合グローバル学部教授)

【まとめ】

・急速なグローバル化に伴う人の移動と新型ウイルスの特性で感染拡大。

・地方に比べて裕福だが人口が密集する大都市で感染者数が多い。

・大都市は低所得地域で感染者数多く、富の格差が感染者数の格差に。

世界的な感染症や地域的感染症は今に始まったものではないが、2000年代には、2003年に広がった重症急性呼吸器症候群(SARS)、2009年から2010年にかけて世界中に大流行した(パンデミック)H1N1インフルエンザ、2012年から感染が始まった中東呼吸器症候群(MERS)、2014-2016年のエボラ出血熱などが世界を騒がせた。

2019年12月に中国の湖北省武漢から始まったとされる新型コロナウイルス感染症は、翌年3月までには世界的な拡大を見て、4月初めの時点で既に100万人を超える感染者を記録し、死者は6万人を超えた。感染はさらに拡大しつつある。この拡大には、急速なグローバリゼーションに伴う人の移動と新型ウイルスの特性がある。

ニューヨークタイムズ誌は4月4日付けの記事で、中国で新型ウイルスが発生してから、中国から米国への人の移動を分析した結果を報告している。2019年の大晦日から2020年3月末までに、約43万人の人が中国から米国に入国しているというものである。

トランプ大統領が1月31日に中国からの入国を2月2日の夕方から制限すると発表した以前に、既に中国からの直行便が米国17の都市に到着しており、多くの国籍の人を含んでいたが、大多数がロサンゼルス、サンフランシスコ、ニューヨーク、シカゴ、シアトル、ニューワーク、デトロイトの空港に到着していた。その中には、武漢から入国した人が何千人もいたとのことである。

▲写真 ニューヨーク市内のコンベンション・センターに州軍が設置した新型コロナウイルス陽性者収容施設(2020年4月2日)
出典: flickr; The National Guard

1月上旬は、中国での新型ウイルスの感染がどのような危険をもたらすか米国でもまだ分析中であったことから、どのような対応をして良いかまだ暗中模索の段階だった。米国が中国からの旅行者の健康状態を調べ始めたのは1月中旬で、それもロサンゼルス、サンフランシスコ、ニューヨークの三か所だけだった。中国からの渡航制限発表以降もほぼ4万人のアメリカ人や他の国籍の人達が中国から入国している。

中国が新型ウイルスが人から人に感染するのと発表したのが1月21日で、世界保健機関(WHO)が世界的保健危機と宣言したのが1月30日である。WHOは自らの専門チームを中国に派遣していたが、その一週間前の専門家会合ではまだ危機宣言は時期尚早として発表を遅らせていた。この時点では中国も、感染は「感染している人との接触」によって起こるとしていたが、「無症状ながら感染している人」が他の人に感染させている、とは発表していなかった。

1月20日から27日までの間に、武漢から国内、国外に飛んだフライトの数は2336に上る。国内が2015、国外が231で、国外の場合、米国のサンフランシスコやニューヨーク、アンカレッジなど、ヨーロッパではロンドン、パリ、ローマなど、アジアでは東京やシンガポール、デンパサール(インドネシアのバリ島)、中東のドバイ、オーストラリアのシドニーなど多岐に渡る。春節が1月25日から始まるため、中国人の大移動が起こる頃だった。(CNA国際版、AFP―データはFlightradar24)

ニューヨークタイムズ誌は4月5日、イタリアでの感染の拡大に関する分析を報告した。これによると、イタリアで最初の感染が発覚したのが2月20日、北部ロンバルディア州のロディという所で、38歳の男性だった。そこでのその後のクラスター感染はその男性が発症源であることが分かった。

感染発覚の一日後にはベネト州で新型ウイルスによる感染死が確認された。既にこの時点で底辺で感染が広がっていたことが分かる。4日後には感染者は150人余りになり、死者も3人となった。そのため、イタリア政府はロディ周辺の10の町とベネト州のヴォという町に危険ゾーンを設け、約5万人をロックダウンした。

その後北部地方での感染がさらに拡大したが、カフェやバーは夕方6時までオープンしていた。感染6日後、イタリア経済のエンジンとされる北部地方を守ろうとして、ミラノ市長は「ミラノは止まらない」とのキャンペーンを発表し、カフェやバーなどの夜の営業を許した。その6日後ミラノではツーリストスポットのカテドラルや美術館が再オープンしたが、既に感染者数は2000人に達し、死者も50人余りとなった。そのさらに6日後の3月8日、感染者数が7000人を超え、死者も360人台となると、イタリア政府は北部地方をロックダウンし、1600万人の行動が制限されることになった。しかし、ロックダウンが発表されるまでに、多くの人が北部地域から他の地域に移動した。その後イタリア各地で感染が広がったことを考えると、この人の移動が感染拡大に寄与したことになる。

▲写真 ゴーストタウンと化したイタリア・ローマ市郊外の大型ショッピング・センター Parco Leonardo(2020年4月2日撮影)。
出典: flickr; Nicola

米国でも人の移動によって感染が国内で拡大したため、感染地からの人の移動を制限する動きが多々起きている。特にニューヨークがシアトルを抜いて最大の感染源となる中で、ニューヨーク市の富裕層は、ロングアイランドのサフォーク郡や北部のアップステート、ニューイングランド地方などにあるセカンドハウスに身を寄せた。

さらに、気候のよいフロリダ州などにも殺到した。ところが、それらの地域で感染が拡大したため、移動先でニューヨークからの人の移動を禁止する動きが頻繁に起こるようになった。特に車での移動の場合はナンバープレートで分かるため、街の入口で拒否されたり、ホテルやモーテルなどでも予約や宿泊が断られるケースが起きている。しかし、人の移動は全国的なロックダウンが無ければ難しい問題だ。

ニューヨーク市の場合、5つの区のうち、富裕層の多いマンハッタン区の感染者は他の区と比べて比較的少ない。4月4日の時点で、一番多いのはクウィーンズ区で20000人余り、ブルックリン区が17500人余り、ブロンクス区が12300人余りだが、マンハッタン区は9300人余りとなっている。スタテン島区は人口が少ないこともあり、4000人余りだ。人口が密集し、中間層や低所得者層が多い地区に感染者が多いことが分かる。富の格差が感染者数の格差にも繋がっていることになる。

ワシントンポスト誌は、4月5日の記事で貧富の差と感染者数を分析している。一般的には富裕層が多い地域での感染者数が多い。これには人口密集度との関係がある。大都市は地方と比べて裕福だが、人口が密集しているため感染者数が自然と多くなる。

しかし、ニューヨークのような大都市内での感染者数を比べると、低所得者層は賃金を稼ぐ必要があることから配達や食料品店、政府関係の仕事のために外で働くことが多い。そのため、感染の危険度が高いことになる。そのため、検査の数も多く、結果的に感染者数増大に寄与している。ニューヨーク保健当局の郵便番号をベースにした統計では、所得平均値が高いところ程陽性の割合が低くなる。結局、ニューヨークのような豊かなところでも、貧しい層がより多くの感染者になっているという結論である。

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