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自分の仕事が大嫌いになったとき、私が行った「密かな反逆」 「新入社員へのメッセージ」として - 吉川 ばんび

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 会社員2年目のある日。突然、自分のやっている仕事が大嫌いになりました。

 大学卒業後、新卒で入った会社は超が付くほどのブラック企業で5ヵ月で退職。転職が決まって「ようやく腰を据えてまともな社会人生活が過ごせる」と思っていた矢先のことでした。

生活に困窮する人たちをサポートする仕事のはずが……

 当時、私は司法書士事務所で借金返済の相談受付や、依頼者の負担を軽減するために代理人として消費者金融、カード会社、銀行と交渉をするなど、いわゆる「債務整理」の仕事を担当していました。

 相談者は生活に困窮していて、キャッシングやクレジットカードの返済が家計を圧迫していたり滞ったりで、精神的に追い詰められていることがほとんどです。これまで問題なく返済ができていた人であっても病気や解雇、家庭の事情などで収入が激減し、首が回らなくなってしまうケースを幾度となく見てきました。

 法学部出身の私は、自分が学んでいた学問や知識を使って人を手助けする仕事に憧れ、この会社に入社しました。相談者にとって無理のない返済計画を一緒に立て、再び彼ら、彼女らの生活を建て直す協力ができることは、私にとって非常にやりがいがあるものだったのです。

「今日からお前ら、全員営業ね」

 そんな私が仕事を嫌いになったのは、会社の経営危機による方針転換がきっかけでした。


©iStock.com

「各部署の担当業務を停止して、全員が電話営業で新規顧客の数を増やすことだけ考えろ」です。

 そんなことをすれば、すでに依頼をしてくれている人たちの和解交渉は進みません。代理人費用はきっちり払っているのに、代理人が仕事をせずいつまでも待たされる依頼者たちが数千人にものぼったのです。

 当然、まだかまだかと解決を待ち望んでいた依頼者たちからのクレームが殺到しました。上からの指示で「和解交渉に時間がかかっているので……」と嘘をつくのをくり返すうち、罪悪感は日に日に募っていきます。社員のほとんどはそんな状況に慣れてしまったらしく、はじめは事務所のやり方を非難していた人たちですら、1ヵ月もしないうちに新しい相談者のことを、ボーナスの査定に影響する「契約件数」としか見ないようになりました。

 彼らは、彼女らは、藁をも掴む思いで私たちに助けを求めているのに。

「許せなさ」との葛藤

 私が許せなかったのは、依頼者の放置だけではありませんでした。「債務整理をするメリットがない」相談者を口車に乗せてでも、契約件数を獲得するよう強要されていたのです。

 債務整理の1つである「任意整理」は、借金にかかる利息を0%にする和解を債権者と結び、以降は「元金のみ」を分割で返済していく方法です。多重債務者ほど「利息ゼロ」から受ける恩恵は大きく、月々支払った金額すべてが元金に充当されていくので、効率よく借金を完済できるメリットがあります。

 弁護士事務所や司法書士事務所では、依頼者から代理人費用をもらって債権者と和解交渉をします。当時、だいたいの費用は15万円~で、債権者の数が2社、3社と増えていくごとに追加費用をもらうシステムを取る事務所がほとんどです。

 多重債務者であれば、この「代理人費用」は「これから支払い続ける数百万円の利息額」より圧倒的に安くつく上、月々の支払額も低くなるので、私たちとしては「絶対に任意整理した方が返済は楽だし、トータルで支払う金額が少なくなりますよ」と自信を持って提案できるわけです。

やってること、詐欺と一緒じゃん

 ところが問題なのは、借り入れ額が少額の人々です。例えば1社から借りた30万円を普通に返済しても、完済するまでにかかるトータルの利息額は数万円ほど。和解で月々の支払額は下げられたとしても費用が15万円かかり、実質本人にとっては「損」になってしまいます。ならば、うちに払う15万円をそのまま返済にあてちゃうのが一番いいはずです。

 普通に考えると、こうした場合は事情を説明し、丁寧にお断りをするのが良心的なはず。しかし、火の車状態だった事務所は「お断り」を許しませんでした。

 問い合わせがあった相談者との電話を切るとき、私たちには必ず「どうして契約できないのか」を上司に説明し、了承を得てから終話する決まりがありました。

「相談者にとって、何のメリットもないじゃないですか」と弁明する私に、ムッとした様子で「メリットがあるかないかは吉川さんが決めることじゃないでしょ」と頑なに電話を切らせてくれなかった上司は、社内の営業成績が1位。彼女が適当に言いくるめて契約した依頼者からは後日高確率でクレームがありましたが、「とにかく契約件数さえ獲得すれば何でもいい」と考えている彼女にはまったく気にならないようでした。

「詐欺とやってることは変わらないじゃないか」と思うようになってから、自分の仕事に対する誇りや情熱は日に日になくなっていくのがわかりました。

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