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BC級戦犯裁判に向き合った弁護士会

1945年12月から1949年10月までの足掛け4年、総事件数331件、起訴された延べ人数1319人に及んだBC級戦犯横浜裁判。今から8年前、この裁判の実像に迫る意欲的な報告書が、横浜弁護士会の手でまとめられ、出版されました。タイトルは「法廷の星条旗――BC級戦犯横浜裁判の記録」(日本評論社)。同弁護士会が設置したBC級戦犯横浜裁判調査研究特別委員会の6年にわたる活動の成果をまとめたものです。A級戦犯裁判については、さまざまな著作があるなかで、現代の法律家の視点で、BC級裁判に関し、ここまで詳細記録分析に取り組んだものは見当たりません。

調査はいくつかの具体的事件に法的な検討を加えています。中でも興味深いのは、軍隊の中の法律家の存在に光を当てていることです。撃墜した米軍B29爆撃機の搭乗員らを無差別爆撃の罪で軍律会議判決で処刑した「俘虜飛行士処刑事件」では、BC級戦犯裁判の被告席に法律家である法務官が立たされていました。

この被告席に座った法務官の一人が、たまたま前にいた新聞社の役員を務めていたことがあり、その関係で度々、お目にかかり、当時のことなども直接聞く機会がありました。また、彼の弁護人となっていた飛鳥田一雄弁護士に生前取材したときは、「お宅の役員は、俺とオヤジ(飛鳥田喜一弁護士)が首の皮一枚で命を救ったんだよ」と語っていたのを覚えています。

無差別爆撃という国際法違反を犯した搭乗員でも、ジュネーブ条約の俘虜としての処遇を受ける権利を有するのか。有するならば、弁護人選任、公開裁判を定める同条約に合致しない軍律処罰は違法となり、逆に搭乗員らを国際法違反の戦争犯罪人として、その権利がないとみれば、起訴・処罰自体は違法でないことになる――。

実際には、こうした争点がかみ合わないまま、このBC級裁判は進むことになりますが、いわばこの「裁判の裁判」で何が争われ、何が争われなかったかを問うことは、まさしくこの法廷の実像を浮かび上がらせる現代法律家による光の照射といえるものです。

横浜弁護士会が、会として、この調査を行ったのには理由がありました。それは、この裁判が、日本で唯一、弁護士会が臨時総会を開いて、弁護の義務化を決議して、総力を挙げてと組んだものだったからです。当時の会員数百十数人のうち、43人がこの弁護を引き受けました。

調査は、横浜弁護士会の現在の弁護士たちが、先輩弁護士の活動を現代に伝えようとするのが出発点でした。しかし、同じ法律家である法務官の事件は、「自分がその立場ならばどうしたのか」という問いかけにつながっていきます。「他人事ではない根源的な問いにたどりついてしまった」(同書「はじめに」)と。結局、この作業は、戦争に直面する法律家の姿そのものがテーマにならざるを得ないものだったといえます。横浜弁護士会の弁護士は、当時と今日、時代を超えてこのテーマに向き合う「宿命」にあったようにも思えます。

その作業は、最後に「法の支配」という観点から、裁判の今日的意味を探るところにたどりついています。だが、そこに唯一、同書のなかで違和感を持った記述がありました。それは、最後に同書は司法制度改革審議会の最終意見書を引用し、戦争指導者の「無責任の体系」が支配する時代との決別との重要性を、シビリアンコントロールという意味から、「国民の司法参加」をうたう今回の司法改革と結び付けている点です。

果たして、この「改革」は戦争というテーマの前に、そう位置付けられるものなのか。その疑問から、当時書いたコラムのなかで、私は同書を好意的に取り上げながらも、自ら被告席に立つ当事者意識を共有するならば、むしろ、日本とその国民が再び戦争の共犯者になることへの危機感のなかで、戦犯裁判の意味をとらえるべきではないだろうか、と書きました。

今にしてみれば、やはり「改革」の季節の真っ只中に出された同書は、当時、弁護士会のなかにあった「期待」を背負う「宿命」にもあったというべきなのかもしれません。

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