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他者理解とは同化ではなく共感することです - 「賢人論。」第114回(後編)平田オリザ

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劇作家の平田オリザ氏は「演劇の表現手法を用いたコミュニケーション教育」に取り組んできた。2002年度からは、中学校の国語教科書に独自の方法論が掲載され、演劇は教育プログラムの1つとして着実に浸透してきている。「社会のグローバル化が進んだ今の時代には、多様な価値観を持つ人たちと人間関係を形成できる力が求められている」と語る平田氏。知られざる演劇の有効性について語っていただいた。

取材・文/木村光一 撮影/公家勇人

演劇は子どもたちに競争させるのではなく
居場所を与えてあげられる

みんなの介護 まず、なぜ演劇はコミュニケーション教育に有効なのでしょう。

平田 いくつかありますが、対象が子どもの場合、注目されている効果は“役割分担”です。僕は小学校の先生方にはよくこう言ってます。

「声の小さい子がいたら、無理に大きくするようにしないでください。その子には“声の小さい子という役”をやらせればいいんです。そして“声の小さい役うまいね”と褒めてあげてください。自信がついて声も大きくなります」(笑)。

音楽教育や美術教育も素晴らしいですが、どうしても技術を競うことになってしまいがちです。それに対して演劇は、どんな子にも居場所をつくりやすい。ここが一番だと思います。

みんなの介護 自己表現の前に、まずは居場所を与えてあげるのですね。

平田 はい。それが組織の中においても「自分はかけがえのない人間である」と思える自己肯定感や自己効力感につながります。かつては、表現力を身に着けるために演劇が活用されていました。でも、今はそんなふうに優先順位が変わってきています。

次に有効なのが“フィクション(虚構)の力”。アクティブラーニング(体験学習、グループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワークなどの能動的な学びの授業)で話し合いをさせても、同調圧力が非常に強い社会の中で育ってきた日本の子どもたちは、先生にウケのいい落としどころを想定してしまいます。

しかし、それでは意味がありませんから、議論せざるを得ない、対話せざるを得ないような設定をしてあげるのが大事になってきます。そういうときにフィクション性が必要になってくるんです。

シンパシー(同調)からエンパシー(共感)へ

平田 具体例をあげましょう。福島第1原発から南に25km、放射線量の低い広野町に新設された「福島県立ふたば未来学園高校」で、僕は地域の課題を発見してそれを演劇にするという授業を1学年全体でやっています。

何が正しいとか正しくないかとかではなく、今、自分たちが暮らしている街がどういう状況になっているのかを演劇にする。例えば、震災後の仮設住宅には、原発事故で家を失って多額の賠償金を受け取った人もいれば、津波で家を失ってわずかな見舞金しか支給されなかった人もいました。普通なら堪えられない理不尽さを言葉や形にして、まずは何が今の福島の課題なのかを意識化していく。そういうことをやろうとするとき、演劇は非常に力を発揮するんです。

さらに、いろんな価値観や意見や異なる文化的背景を持つ人々を描くことは、他者理解にもつながります。他者と同化するのではなく、なぜ他者はそう思い、行動したのかについて思いを馳せる。これは最近の教育の世界で“シンパシー(同調)からエンパシー(共感)へ”という言い方をされているんですが、この「エンパシー」を持つということが大事なんです。

認知症の治療に演劇を取り入れる

みんなの介護 演劇を交えた独自の介護のワークショップというものがあると聞きました。青年団の劇団員である菅原秀樹さんも行っていて注目を集めているそうですが、どういう方法論なのでしょう。

平田 東北大学の藤井昌彦先生が認知症の治療に演劇を取り入れた「演劇情動療法」を実践されているのですが、菅原くんのワークショップも基本的には同じ考え方です。

認知症というのは、計算や記憶をつかさどる「大脳新皮質」が衰えることで発症する一方で、感情や情動をつかさどる「大脳辺縁系」が活性化して制御できなくなっている状態です。だから認知症の人は喜怒哀楽の感情の起伏が激しくなる。ならば、それを理解して対応すればいいという考え方です。

例えば、認知症のおばあちゃんから「財布がない。あなた盗んだでしょう」と言われたとしましょう。そのとき、「盗んだなんてとんでもない。おばあちゃんがどこに置いたか忘れたんでしょう」と、まともに受け答えしてしまうから問題行動がひどくなる。

そうではなくて「お財布がないの?それは大変!」と演劇的に驚いて、一緒に探してあげればいい。一生懸命探している演技を15分もしていれば、そのうちおばあちゃんも疲れてきて、お茶でも飲んで一息ついた頃には財布のことも忘れてしまう。こういった演劇的なスキルを身に着ければ、介護をする側もストレスが軽減される。

みんなの介護 なるほど!それはこれから必要不可欠なスキルかもしれません。

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