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女性が結婚・出産で人生をあきらめなくてもいい社会にしたい その思いは母から受け継いだものです - 「賢人論。」第114回(中編)平田オリザ

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「今、うちの劇団員には80人以上子どもがいますが、この数は演劇界全体でも最多だと思います」と語る平田オリザ氏。それは決して偶然ではなく、90年代後半から「女優が子どもを産んでも仕事を続けられる組織」を目指し、さまざまな意識改革を実践してきた成果だという。今回のテーマは“少子化対策”──「これからは社会全体で子育てする意識を持つ必要がある」とも訴える平田氏に、アーティストならではの取り組みについて伺った。

取材・文/木村光一 撮影/公家勇人

青年団なら結婚して子どもを産んでも女優を続けられる

みんなの介護 平田さんが主宰する劇団『青年団』の少子化対策について聞かせてください。

平田 いえ、貧乏な劇団ですから、そんな大したことをしてきたわけではないんですよ(笑)。例えば、劇団員には「公演の期間中は受付に○回入らないといけない」といった約束ごとがあるわけですが、子どもができた劇団員はそれを免除されるとか、本当に小さなことの積み重ねなんです。ただ、20年前の演劇界にはそういった取り組みが皆無だったので、若い独身の男性劇団員からは「なんで子育てしてる人ばかりが優遇されるんですか」とストレートに疑問をぶつけられたこともありました。

みんなの介護 その疑問にはどう答えられたんですか。

平田 「たぶん、これからの世の中はそうなっていくし、こういうやり方をしている劇団の方が才能のある人も集まってくるようになる」と答えました。実際、10年くらい経ったころから「青年団なら結婚して子どもを産んでも女優を続けられる」という理由で入ってくる劇団員が増えました。

おかげで女優が子育てのために、ロングラン公演や再演に出演できなくなっても代役を立てられるようになり、さらに安心して子どもを産めるようになった。舞台に出られないという精神的負担が軽減されたんですよ。

みんなの介護 まさに先見の明だったのですね。しかし、なぜ子育てが重視される世の中がやってくることを予見できたのでしょう。

平田 大学生の頃、僕が韓国の大学に留学することが決まったとき、母方の親戚から「あなたのお母さん(注/平田慶子氏・心理カウンセラー)も外国に留学したがっていた。けれど、あなたが生まれたので諦めた」という話を聞かされ、とてもショックを受けたんです。

母はフェミニズムの体現者でもあり、僕が妻ばかりに家事をさせていると、よく小言も聞かされました。だから、「女性が結婚や出産で人生の何かを諦めることがないような社会にしたい」という思いは、そういう母から受け継いだものだといえます。

出産・子育てをしている母親の自由を保障しなければ
日本の少子化問題は解消されない

みんなの介護 平田さんは今の日本の少子化対策には「子育て中のお母さんが、昼間に子どもを保育所に預けて芝居や映画を観に行っても、後ろ指を指されない社会をつくること」という視点が欠けていると著書で述べられています。

平田 子育てのために何らかの犠牲を母親に強いる社会はおかしいという話です。

子育て中のお母さんが息抜きも許されないような世知辛い社会では、子どもを産もうという気持ちにならない女性が増えるのは当たり前でしょう。

もっといえば、日本の政策はあまりにもマインドの部分を無視しています。少子化対策というのはまさに人間の問題。恋愛も結婚も出産も子育てもすべて個人の自由であって、産まない権利もあれば結婚しない権利もある。逆にいうと、前提として行政が手を出せることは非常に限られている。「子ども1人あたりいくらの支援金を出します」というやり方は、本来福祉の一線を超えています。

したがって、今、行われているような子育て支援では、やればやるほど女性たちから「私たちを子どもを産む機械か何かだと思ってるんじゃないの」と反感を買ってしまう。

つまり、必要なのは「お金を出すから産みなさい」と言わんばかりの政策ではなく「産んでくれて、育ててくれてありがとう。これからは今まで以上に人生を楽しんでください」というような支援のあり方。子育ては女性がやらなければならない、という空気感を社会全体で変えていく取り組みにほかならないと僕は思っています。

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